マガジンのカバー画像

小説

44
運営しているクリエイター

#超短編小説

由香の藁人形:ショートショート(ホラー注意)

由香の藁人形:ショートショート(ホラー注意)

 6年3組の担任萩山は、クラス一の美少女、七菜香の肩をすこぶる持っていた。萩山がそんなつもりでないことは言うまでもない。彼はいたって公平に接している気でいたし、それどころか、誰よりも事情を知り、一切の偏見から免れ、視野広く全体を俯瞰する、自分だけが真実を見ている唯一無二の人格者だと信じている。

 「どうしてクラスの友達にそんなことするんだ?」

由香、翔子、未希の三人は、ぶすっとした顔をして黙り

もっとみる
和佳子の乾杯:ショートショート

和佳子の乾杯:ショートショート

こつん、と、乾杯の音が響いて消えた。

はかない瞬間だった。ここに至るまでの苦労をすべて順に記してゆけば、それはオーケストラの奏でる交響曲になるのではないか?

しかし現実に鳴ったのは、なんとも侘しく冷たい音だった。

けれども、何百年と世界中で愛されてきたこの習慣は、生きた化石といって過言ではないだろう。

と、和佳子は、焚火の明かりに一人照らされて、永く続く人の営みに思いを馳せた。そしてくいっ

もっとみる
愁子のバトン:ショートショート

愁子のバトン:ショートショート

 愁子(しゅうこ)はグラスに赤ワインを注いだ。味にこだわっている訳ではないが、決まってオーストラリア産だった。というのはボトルの栓がコルクではなくキャップ式のものを選ぼうとすれば、おのずとオーストラリアになるのだった。それでいて香りは芳醇で濃厚、味の全体的な輪郭もしっかりとしていて、舌に滲み渡る複雑な酸味がそのしなやかな輪郭の内で絡み合う。文句なしの条件だった。

 混じり合って一色にならない味わ

もっとみる
冬佳のデジカメ:ショートショート

冬佳のデジカメ:ショートショート

 夜中に目が覚めた冬佳。なにも見えない暗い部屋のなかで、例外がひとつだけ、一筋のまばゆい明かりが見える。ぼんやりとして働かない頭でも、それはわずかに開かれた襖の隙間から漏れてくる明かりだとわかった。
 ドアにせよ、襖にせよ、閉じる際に音を立てるのが好きじゃない冬佳の癖だった。こんなにお行儀のよい子供が、彼女の他にいただろうか?
 しかし躾の良さとか、育ちの良さからくる癖ではなかった。冬佳はただ怖か

もっとみる
明日香のポテサラ:ショートショート

明日香のポテサラ:ショートショート

 おだやかな風に揺られて、風鈴の音色が優しく明日香を甘やかす。
『もっと寝ていいんだ・・・』

 と、うたた寝の心地にひたされた彼女は、うつ伏せになって半開きの目をしばたいており、いまにも今朝二度目の眠りに誘われようとしている。

 すると、スヌーズの効いているスマホがアラームを喧しく鳴らしかかってきて、クレーンゲームのように彼女を引き上げる。
 そして硬い床の取り出し口へぼとりと落として、その痛

もっとみる