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2020年7月の記事一覧
真由美の催眠術:ショートショート
『日本は女尊男卑』とか、『女の方がずっと恵まれている』とか、こうした言説にはある程度の真理が含まれている。
しかし真由美は、この真理にあずかれない醜い女だった。
ずんぐりした顔の鼻はぺちゃんこに潰れていて、切れ長の目が人に与える印象は決していいものではない。それでも彼女は、あふれる母性をペットのアメショーにこの上なく注ぎ、保護者としてその責任をまっとうしていた。要するに彼女は心豊かに生きてい
由香里の旅立ち:ショートショート
女手一つで育ててもらった恩を、由香里は立派に返したつもりだった。いい大学を卒業して、大手の商社に迎え入れられたのだから。
そんな一人娘を、母は親戚にも近所の人にも自慢してまわった。母の苦労を知る人たちは、我がことのように喜んで祝福した。
しかし海外赴任も決まって、出国まであと一月というところで、由香里は赴任のことを母に知らせたことを後悔した。もし知らせていなければ、もう少し道は開けていたは
恵美子の共感:ショートショート
冬の寒い夜、暖房が効いて、やわらかい雰囲気のリビングでくつろいでいると、玄関のほうで、何か硬い異質な物音、というより、衝撃音が走った。
恵美子は、せっかく上手に膨らませた大きなシャボン玉が、ぱん!と消えてしまったような思いがした。
しかしなんのことはない。旦那が酔っ払って帰ってきただけのことである。
はぁと疲れたそうな息をついて、うなだれる。沈黙が一向に破られないので、仕方なしに行って
美知佳の悲哀:ショートショート
美知佳は平日の朝、二人の幼い息子を保育園に送り出す。それから急いでパート先に向かう――というのが普通の共働き世帯であるが、彼女の場合は違った。パート先に向かう前に、彼女には寄るべきところがあった。
『こんなはずじゃなかった。わたしの人生、こんなはずじゃなかった』
自転車を全力で漕ぎなら、心にはフルブレーキをかけて、涙があふれ出るのを必死に堪える美知佳。
たどり着いた先は、家からも保育園
亜希子の絶望 :ショートショート
37歳になった亜希子は、素敵な女、素敵な人間になれることだけを考えて、ただひたすらに20代、30代を駆け抜けてきた。どうしてこんなに一心不乱になって、目指す理想に向かって邁進できたのか、単なる自己満足にすぎなかったのだろうか?自分のためにすぎなかっただろうか?
綺麗ごとは好きじゃなかった。でも誰もがいいと思える社会で生きたい。『わたしのやってきたことは、自分一人のエゴと、社会の求める利他とが