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腸内細菌で性格が変わる話 〜脳腸相関と過敏性腸症候群〜

 臆病な性格、怒りっぽい性格、色々ありますね。変えたい自分もいるけれど、生まれ持った性格は変わらない。嫌だけど我慢するしかない……、本当にそうでしょうか?

 「腸内細菌」に関する研究は、今最も勢いのある分野のひとつです。腸内に住んでいる様々な細菌の群れを「腸内細菌叢」といいますが、なんとなく汚い感じがするので「腸内フローラ(お花畑)」と呼びましょう。

 本邦で特に有名なのは須藤信行先生でしょうか。日本語の文献も豊富で、内容も分かりやすく解説されています。

 脳機能と腸内細菌叢について日本語で詳細に書かれている文献を添付いたします。
(須藤信行. 腸内細菌学雑誌 31 : 23-32,2017)

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jim/31/1/31_23/_pdf

 さて、マウスの実験ではありますが、なんと「不安を感じやすいマウス」に「普通のマウス」の腸内細菌(お花畑)を移植したところ、不安が減ったという研究報告があります。行動の変容も促すことが報告されていて、危険な経路の先にエサを置いておき、「臆病なマウス」に「勇敢なマウス」の腸内細菌(お花畑)を移植したところ、スムーズにエサに辿り着けるようになった、といった実験結果もあります。

 これがそのままヒトに当てはまるかというと慎重な姿勢が必要ですが、上の文献にもあるように、ヒトにおいても腸内フローラと性格・精神状態の関連性が強く示唆されています。心の問題が脳だけの問題でないことは確かです。
 「第二の脳」と称されるほど神経系の発達した臓器である「腸」ですから、やはり精神にも影響はあるのだと思います。

 「脳腸相関」という言葉もあります。
 脳と腸が互いに影響し合っているという学説です。これに関連する病態としては過敏性腸症候群(IBS)が典型的な例で、有病率10%以上の疾患です。10人に1人です。多いですね。生活習慣やストレスが関係しているといわれますが、下図のように治療が進められます。特効薬はありません。

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(日本消化器病学会ガイドラインhpより引用)

 興味深いのは第二段階に進むと急に「抗不安薬」とか「抗うつ薬」などが登場することです。

 思い出してください。

 マウスの実験で「不安」は「腸内フローラ」が変わることで軽減されました。

 やはり一番重要なのは「食習慣・生活習慣の改善」と考えます。胃腸炎を罹患した後に過敏性腸症候群を発症するケースが多いことからも、腸内フローラの影響は大きいのだと思います。

 私は消化器内科医ではありませんが、漢方外来では度々IBSの患者さんに遭遇します。多くの方は、積極的な食事内容の改善と支持的な漢方治療によって軽快します。すると不思議なことに、みなさん表情が明るくなるんですね。
 上の第二段階の表にも「漢方薬」の記載はありますが、個人的にはもっとこう、右の方まで守備できると思うんですよね。不安とか、うつのあたりも。なんなら第一段階の表から漢方薬を登場させたいと私は思っています。

 漢方治療の難しいところは、「IBSだからコレ」という薬があるわけではないところです。上に示した西洋医学的な治療フローチャート以上に、漢方ではオーダーメイドな治療が重要で、しかも治療する側の技術レベルの問題が非常に大きいのです。理想的には話を聞く(問診)だけではなくて、四診(望診、問診、聞診、切診)でしっかり診断をつけて治療する必要があります。

 かくいう私も過敏性腸症候群の経験者ですが、食事と漢方治療によって治癒し、よほど強いストレスがない限りは再燃の兆しもありません。見違えるほど飛躍的にQOLが向上しました。体質と諦めて我慢していただけでは、きっと治らなかったことでしょう。

 昔より前向きな気持ちでいられるのは、ひょっとして腸内フローラが変わったから?

 

 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは貴方の腸内フローラが美しい輝きを放ち、不安のない快適な腸生活を送れますように。


※過敏性腸症候群と似た症状でも、別な疾患の可能性もあります。特に血便がみられるような場合には炎症性腸疾患なども考える必要があります。お困りの症状が続く場合には自己判断せず、可能なら一度「消化器内科」を標榜する医院の受診をご検討下さい。必要に応じて大腸カメラができる所だと最高です。
※漢方薬は高額というイメージがあるかもしれませんが、保険診療内のエキス製剤は比較的安価で入手できます。漢方治療を専門的に行う医師は少ないのが現状ですが、もしお近くにあれば相談してみてもいいかもしれません。
※上記ガイドラインにも「漢方治療」の記載があるように、基本的な漢方薬であれば消化器内科の医師が処方してくれる可能性もあります。受診の際に相談してみてもいいかもしれません。
※病院を受診する時間がない場合には、多くのドラッグストアでも漢方薬の入手は可能です。どれがいいか悩む場合には、薬局の薬剤師さんに相談するとよいでしょう。



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