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死にぞこないの趣味の世界

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#フランス映画

映画『ヴィクトリア』を観て -悪意なき自己中心主義者

映画『ヴィクトリア』を観て -悪意なき自己中心主義者

ジュスティーヌ・トリエという女性監督の『ヴィクトリア』(2016年)をアマゾンプライムで観た。
「フランス映画は大人が見る夢だ」という言葉を思い出した。
自己中心的な女主人公が、ある男の愛に気づく夢物語なのだが、
現実には主人公のような女性が愛されることはない。

登場人物はすべて、非常にリアルであった。
パリで暮らしたことのある人なら、「いるいる」と思うのではなかろうか。高圧的な女主人公も、自分

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映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

映画『私の知らないわたしの素顔』を観て

中高年の恋愛サスペンス映画。
50代以上、必見かな。
若いひとで、これを観て「おもしろい」と言えるひとは、よっぽどの文学好きでしょうね。

映画の冒頭、中高年男女の夜の寝室が赤裸々に、しかし美しく撮られている。
こういうシーンを撮れるのがフランス映画なのだ。

なりすましというテーマ主人公は比較文学を専攻する50代の女性大学教授(ジュリエット・ビノシュ)。結婚・出産・離婚と、人生フルコースを経験。

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葉巻に、白ワイン -ここで飲むしあわせ

葉巻に、白ワイン -ここで飲むしあわせ


・夏のパリで、高等遊民となる。夏のパリは閑散としている。
だってパリジャンはヴァカンスで不在だ。
羨ましくないわけではない。ドーヴィルやサン=トロペでムール貝に舌鼓をうつのも悪くない。
しかし、僕は静かな夏のパリにとどまる。

日曜の朝、
僕は幾つかの路地と大通りを闊歩し、ブラッスリーのテラスに陣取り、イルビゾンテのサックからおもむろに葉巻を取り出し、火をつける。
キューバのトリニダッド。
太く

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映画『男と女 人生最良の日々』を観て

映画『男と女 人生最良の日々』を観て

誰が風を見たでしょう?映画『男と女 人生最良の日々』は、なんとも心地の良いぬくもりを、僕に与えてくれた。

もしかしたら、若いひとには、ちょっと難しい映画かもしれない。
ストーリーらしい、ストーリーもないしね。
けれども、この映画はストーリーではなく、雰囲気を楽しむ映画なのだ。

実を言えば、監督のクロード・ルルーシュは、批評家からはあまり高く評価されていない。
しかし客、とりわけフランスの客は、

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映画『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』を観て

映画『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』を観て


政府なんて、どうでもいい相変わらず、
日本のフランス映画配給会社の「謳い文句」はピント外れが多い。

この映画は、政府を敵にまわして「ケア施設を守った男たち」の話では、決してない。

主人公たちにとって、「施設」を守ることは、最重要課題ではない。
最も大事なのは、自閉症の子供たちである。

当然だ。本来ならば、こんな無認可の施設、存在しない方がよいのだ。
けれども、公的機関から見捨てられた、重度

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