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短いお話など。書いています。
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#私の作品紹介

内省的自我についての考察

内省的自我についての考察

家に帰ったら、彼女が内省的自我になっていた。

内省的になっていたのではない。
「内省的自我」そのものになっていたのだ。

抽象概念を彼女にした経験がなかった僕は、最初は戸惑ったが、3日もしないうちに慣れてしまった。

朝起きると、内省的自我的寝ぐせを直しながら、内省的自我的にコーヒーミルでコーヒーを挽き、内省的自我的にお湯を沸かし、内省的自我的なベーコンエッグを作る。

「抽象概念なのに、おなか

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上昇気流

上昇気流

入梅 (つゆいり) 前のからっと晴れた日に T シャツを干すことくらい気持ちの良いことって他にあるかな?

  ・・・

入梅前の晴れた金曜日、僕は君が会社に行くのを見送ってから、部屋の窓とカーテンを全開にして、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。
ポットでお湯を沸かしながら、仕事の準備をする。
公園の上を通り抜けた風が勢いよく部屋の中に入ってきた。

  ・・・

洗濯物を干し終わってから、僕は落とした

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生き続けることに疑問を持つ君に

生き続けることに疑問を持つ君に

以前、子供のいる知り合いから電話があって、

と訊かれたので、答えた。

  ・・・

実は、生きる必要なんていうものは、存在しない。

冷静に考えたら、生きて行くのは生きるのをやめるより辛いことだ。人生、良いこと 1 つに対して、悪いことはその10倍くらいはあるからね。

じゃあ、なぜみんな死なない?

それは種の保存のために、無条件に「死とは恐ろしいものだ」という感情が本能にプログラミングされ

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ドーナッツ

ドーナッツ

ドーナツ、好きなんですよね。やっぱりコーヒーにはドーナツ。
曲を書いちゃうくらい好き。
正確にいうと、ドーナツ屋さんがスキ。
この歌のタイトルは「ドーナッツ」だけど。

「ドーナッツ」/ 詞・曲:セキヒロタカ

そうだ、一緒にドーナッツ屋さんに行こうよ。
コーヒーを飲んで、ふたりでドーナッツを食べよう。
君はピーナッツクランチ、僕はシナモン。
通り沿いの窓辺のテーブルで。
 
一口かじったドーナッ

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ある晴れた春の日の午後について

ある晴れた春の日の午後について

その年の春の晴れた日の午後、免許を取り立ての小僧だった僕は、知り合いの自動車工場から譲ってもらったボロボロのニッサン スカイラインをドライブして、国道 8 号線を西に向かっていた。

FM ではヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」が流れていた。

何の根拠もなく、やがて来る未来には明るい日々が待っていると、多くの人が信じていた時代だったし、僕もそう思っていた。

国道8号線は、西へ西へとまっすぐ続いてい

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