マガジンのカバー画像

NOVEL

36
運営しているクリエイター

#サレ妻

コイン・チョコレート・トス_第5話

コイン・チョコレート・トス_第5話

↓ 第4話はこちら

🪙 57.6グラム2月11日(水)

カタンと音がした。

布団に入ったまま幸子はチラリと新聞受けを一瞥する。幸子はそのまま動かない。バフっと掛け布団を頭からかぶる。全てがもうどうでもよくなっていた。

ザアザア降り続く雨の音が二日酔いの頭に響く。
風が吹くたびに新聞受けに刺さった新聞の隙間から、雨の匂いが湿ったアパートの室内に流れ込んだ。雨はびたびたと壁や窓にぶつかっては

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_最終話

コイン・チョコレート・トス_最終話

↓ 第5話はこちら

🪙 150.9グラム2月12日(木)

すっかり眠りこけてしまった。

ー昨日が眠れなかったせいかもしれない。夢も見ず、畳と布団と同化して眠った。多分、微動だにしてないんじゃないかと思う。寝返りだって打っていなさそうな気がする。

幸子は泥のように眠った。

2月11日(水)

特に何もしなかったのに、幸子はなんだか疲れてしまっていた。

天井のシミの声が自分自身の声だった

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第4話

コイン・チョコレート・トス_第4話

↓ 第3話はこちら

🪙 4.0グラム2月10日(火)

遠慮気味のアラームの音。

壁の薄いアパートで隣の部屋に聞こえないように、その日はこっそりとアラームが鳴った。
その時刻4:20。

幸子は今日は珍しく、手に届く距離にスマートフォンを置いた。アラームの音を耳にして幸子はすっと手を伸ばし、アラームを止める。

仕事でもないのに幸子が早起きをするのには、もちろん理由があった。それは、新聞が誤

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第3話

コイン・チョコレート・トス_第3話

↓ 第2話はこちら

🪙 4.5グラム2月9日(月)

「眩しい」

幸子はペラペラのカーテンから漏れる日の光で、朝が来たんだと気づいた。

アラームにも気づかないくらい眠りこけていて、泥のように眠っていた。ここ一週間以上、感情の起伏が激し過ぎたせいだ。疲れていても仕方がない。

幸子はずりずりと畳の上をほふく前進し、充電コードを挿したままのスマートフォンを手に取る。画面で時刻を確認する。9:3

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第2話

コイン・チョコレート・トス_第2話

↓ 第1話はこちらから

🪙 3.75グラム2月8日(日)

カタンと音がした。

新聞受けに新聞が落ちる音。ブロロロロと新聞配達のバイクのエンジン音が遠くなる。たぶん、明け方の四時半。
まだ外は暗い。

今朝も毛布がずり落ちているが、今日はそこまで気にならないなと幸子は思う。

昨日めかし込んで出かけた先で買った電気ファンヒーターのおかげだ。電気ファンヒーターはコスパとしてはよくないが、当座を

もっとみる
コイン・チョコレート・トス_第1話

コイン・チョコレート・トス_第1話



🪙 プロローグy=-3x²の放物線を描きながら、宙を舞うコインチョコ。

玄関の白い天井の少し下の位置を最高到達点とし、コインチョコは幸子の手の平に落ちてきた。幸子はそれを両手で優しくキャッチする。

幸子はコインチョコが左手に落ちてきた瞬間、上から右手をそっと添える。コインチョコがどちらかを向いているかが見えないように静かに隠す。

表か、裏か。

全ての決断は、コインチョコに委ねられた。

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/あとがき

コイン・チョコレート・トス/あとがき

まだ読んでない方は、まえがきからどうぞ。
あとがきはネタバレあります。

それは、水曜日の午後7時のことだった。

私はインターホンを連打した。
母が扉を開ける。
部屋の奥では、弟と妹が人気アニメ「ドラゴンボール」を見ている最中だった。

私は息を切らしながら部屋に入る。

そして、エレベーターでの出来事を母に話した。

刃渡10cm程の果物ナイフ。
筆記体でenjoyと書かれた趣味の悪い紫色のス

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/150.9グラム

コイン・チョコレート・トス/150.9グラム

前話未読の方は、こちらを↓クリック

🪙 150.9グラム

すっかり眠りこけてしまった。

一昨日が眠れなかったせいかもしれない。
夢も見ず、畳と布団と同化して眠った。
多分、微動だにしてないんじゃないかと思う。
寝返りだって打っていなさそうな気がする。

泥のように眠った。

昨日は特に何もしなかったのに、なんだか疲れてしまっていた。

天井のシミの声が私の声だったなんて。

とんだ一人相撲

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/57.6グラム

コイン・チョコレート・トス/57.6グラム

前話未読の方はこちらから ↓

🪙 57.6グラム

カタンと音がした。

私はチラリと新聞受けの方を見た。
もうどうでもよかった。

誤配だろうが当日の新聞だろうが、もうどうでもいい。

ザアザアと雨の音。
ドアに刺さった新聞の隙間から、雨の匂いが部屋に流れてくる。
雨はびたびたと壁や窓にぶつかっては、落ちていく。

それより頭が割れるように痛い。

昨日は帰り道にコンビニでウイスキーを買った

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/4.0グラム

コイン・チョコレート・トス/4.0グラム

前話未読の方は、↓から読んでやってください

🪙 4.0グラム

アラームの音。
遠慮気味の。

壁の薄いアパートで隣の部屋に聞こえないように、こっそりとアラームは鳴る。

4:20

今日は、手に届く距離にスマートフォンを置いた。
私は、すっと手を伸ばし、アラームを止めた。

なんでこんなに早起きをする必要があるのか。
それはもちろん、誤配新聞を確認するという任務のためだ。

今朝早起きをする

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/4.5グラム

コイン・チョコレート・トス/4.5グラム

前話からどうぞ

🪙 4.5グラム

眩しい。

ペラペラのカーテンから日の光が漏れている。
もう朝?

アラームにも気づかないくらい眠りこけてたみたいだ。
ここ一週間以上、感情の起伏が激し過ぎた。
疲れてても仕方ない。

ずりずりと畳の上をほふく前進して、充電コードを挿したままのスマートフォンを手に取った。

9:32

こんなに朝寝坊したのはいつぶりだろう。
悟は休日でも早起きをする。
私も

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/3.75グラム

コイン・チョコレート・トス/3.75グラム

前話を読んでない方は、1.0グラムからどうぞ。

🪙 3.75グラム

カタンと音がした。
新聞受けに新聞が落ちる音。

ブロロロロと新聞配達のバイクのエンジン音が遠くなる。
たぶん、明け方の四時半。
まだ外は暗い。

今朝も毛布がずり落ちているが、今日はそこまで気にはならなかった。

昨日めかし込んで出かけた先で買った電気ファンヒーターのおかげだ。
コスパとしてはよくないが、当座を凌ぐのにはち

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/1.0グラム

コイン・チョコレート・トス/1.0グラム

まえがきからどうぞ。

宙を舞うコインチョコ。
y=-3x²の放物線。

白い天井の少し下を最高到達点とし、コインチョコは私の手に落ちてきた。
私はそれを両手で優しくキャッチする。
手乗りインコみたいにちょこんと左手の手のひらに乗るコインチョコ。

私が見えないように右手で隠してしまっているから、本当のところ、手乗りインコみたいに乗っているかどうかはわからないけれど。

私はそおっと、手の中を確認

もっとみる
コイン・チョコレート・トス/まえがき

コイン・チョコレート・トス/まえがき

9月の最終週、小説を書き始めた。

一つ、noteに書きたいと思っていたことがあって、夏頃からそれをエッセイで書くかどうかを考えていた。
なんとなくエッセイにはしたくないなと思って、創作の中に誤魔化して混ぜこもうと思った。

どんな風に書くかな、とずっとぼんやりと考えていて、なんだかふっと書きたくなったので、書き始めて一週間で書いた。
プロットも作らず勢い任せで書いた。
書き上げたものの読むに値せ

もっとみる