見出し画像

コイン・チョコレート・トス/1.0グラム


まえがきからどうぞ。



宙を舞うコインチョコ。
y=-3x²の放物線。

白い天井の少し下を最高到達点とし、コインチョコは私の手に落ちてきた。
私はそれを両手で優しくキャッチする。
手乗りインコみたいにちょこんと左手の手のひらに乗るコインチョコ。

私が見えないように右手で隠してしまっているから、本当のところ、手乗りインコみたいに乗っているかどうかはわからないけれど。

私はそおっと、手の中を確認する。


表。

ぺりぺりとアルミをはがす。
コインチョコは割れてはいない。

私はコインチョコをバリバリと歯で砕きながら、シューズボックスから靴を出す。
大好きなパンプスには触らずに、スニーカーを履いて家を出た。

いつでも走り出せるように。



🪙 1.0グラム

カタンと音がした。

新聞受けに、新聞が落ちる音。
私はその音で現在時刻を予想する。その時刻、たぶん午前4時半。

手を伸ばしてスマートフォンの時刻を確認することもできるけど、わざわざそんなことはしない。
そもそも手の届かない場所に、置いているし。

時刻を気にして、煌々と光る画面を見て、どうでもいいSNSを開いて、無駄に目が冴えて二度寝ができなくなるのがオチだ。
絶対にこんな時間にスマートフォンには触らないと決めている。

心の中では。
だって、睡眠不足は美容の大敵だし。

私は薄っぺらいペラペラの敷布団の上で、寝返りを打った。
あってもなくても、変わらないんじゃない? って思うくらいに薄い敷布団。畳に直接寝ているような感覚。
当座でいいからと一番安い布団セットを買ったのは私なんだから、文句は言えないんだけど。

まだ外は暗い。
こちらも同じくぺらっぺらのカーテンの隙間からは一筋の光さえ漏れてこない。今日は満月ではないみたいだ。満月の夜であれば、多少の月明かりぐらい入りそうなもんだ。

バイクのエンジン音がして、そろそろ世界が動き出すのだろうと思った。

世界が動き出そうと準備をし、人々が蠢き出す頃、すでに目が覚めているはずの私はまだ動き出さない。

私は再び寝返りを打った。

畳と同化した布団の上にのっそりと体重を預け、そのうちに私も布団と畳と同化してしまいたいと、明らかにどうかした思考を張り巡らせながら、再び眠りにつこうと努力をした。

古いアパートの天井にはシミがあった。
大きな大きな不気味なシミ。
まるで、人の顔みたい。

木目がそう見えるのか、水漏れなのか、一体なんのシミなのかは目を凝らしてもわからない。

大きな大きなシミの中には、三つほど小さなシミがある。
目が二つと、ニヤリと笑った気色の悪い口。

ここに来た当初は、あまりの薄気味悪さに上をむいて眠ることができなかった。
3日もすれば、人間、慣れてくるものだ。

次第に、なんだか愛着が湧いてきたりもする。
私はその天井のシミに「おやすみ」と声をかけてみた。

天井のシミが(おやすみ)と返事をしたような気がした。



スマートフォンのアラームが遠くで聞こえる。
次第に音は大きくなる。

別に音が大きくなったわけではない。
私が覚醒してきているというだけだ。

私は薄い掛け布団からイヤイヤ手を伸ばす。
手を伸ばしてもスマートフォンには届かない。

止めないと止まりませんよ、と朝をお知らせし続けるスマートフォン。

ずりずりと体を畳に擦り付けながら、ほふく前進で進む。
伸ばした手でスマートフォンを探り当て、鳴り続けるアラームを止めた。

掛け布団の上にかけた毛布はいつの間にかずり落ちている。ほふく前進をしたからではない。
寝ている間に落ちていたみたいだ。

どこかのネットニュースでみたことがあった。
毛布の上に掛け布団をかけるより、掛け布団の上に毛布をかけたほうがあったかいというニュースだった。
空気を含んだ掛け布団を人と毛布の間に挟む方があたたかいらしい。

空気ね・・・。

見えもしない、読めもしないものに振り回される自分の滑稽さに呆れて、私は鼻で笑った。
この寒々しい部屋の中で眠るには、いつ見たのかも覚えていないような、信ぴょう性のあまりない情報にすがるしかなかった。しかし、いつの間にか毛布はずりずりと落ちていて、何の意味もなさなかった。

これなら、毛布の上に掛け布団をかけたほうが良かったんじゃなかろうか。
まあ、起き抜けにこれだけ頭が回っているのであれば、昨日はしっかりと眠れたんだろう。
頭がスッキリとしている。
ストレス解消にも睡眠は効果的だ。

私は起き上がると、ペラペラの掛け布団を肩にかけ、玄関の新聞受けへと向かった。


私は肩を震わせながら、肩にかけた薄っぺらい布団をぎゅっと握りしめた。
早く暖房器具を買わなければと思った。このままでは凍え死んでしまう。

一つしか持ってこなかったコートはダウンコートだった。
このダウンコートを着て、寝るということも考えた。しかし、このダウンコートまで畳と同化してもらっては困る。
ペラペラになったダウンコートを着て歩くのはごめんだ。

まだ女としてのプライドは捨てたくない。

夫に裏切られて、一人で生きていくにしたって、女として生きていかなくてはいけない。

女なんて性別、煩わしいだけだと思ったりもする。
こんなもの捨ててしまいたいと何度思ったことだろう。
今回の夫の浮気で、ほとほと女っていう存在が疎ましくなってしまった。

だからって私は、女性でいることが嫌いなわけじゃないし、むしろ好きな方だと思う。
オシャレもネイルもパンプスも。
全部ぜんぶ、大好きだ。

女性として生きることに誇りを持っているのに、女の性が埃のようにまとわりついて鬱陶しい。
笑っているのに泣いているような気分だ。

まさか、悟が浮気するなんて。
一番の理解者に裏切られてしまった。

私は彼の顔を見るのも嫌で、同じベッドで眠るのも嫌で、必要最低限のものだけを手にダウンコートを羽織り、4日前に家を飛び出した。



「ねえ、今どこにいるの?」
「今? モンゴル」
「モンゴル? また大変そうなところに」
「え? 大変じゃないよ。楽しいよー。幸子も主婦なんてしてないでさ、子どももいないんだし、もっと自由に生きたらいいのに」
「そんな簡単に言わないでよ。それより・・・」
「あ、そうそう、そういえばさ、こないだ隆くんから連絡があって、同窓会しようっていう話になってさ。幸子も聞いた? もしかして、その件?」
「聞いたけど・・・。その件じゃなくて・・・」

いつまで経っても本題に入れそうにない。理恵との会話はいつもそうだ。
自由で、奔放で。

会話だけじゃない。
理恵はいつでも自由だ。
バックパックを背負って、パスポートを握りしめ、世界を飛び回る。

彼女が撮る写真は解像度が高く、現地の雰囲気がそのまま熱を帯びている。
現像された写真からはいつも現地の湿度と匂いが漂ってくるようだ。

理恵の写真を眺めていると、写真の奥の自由さと閉じこもってばかりの私との温度差に目眩がする。

「あ、何の用だったっけ?」
「あのね」
「どうした?何かあった?」
「ええっと、理恵の家って、どうしてる?」
「家? アパートのこと? まだ借りてるけど。・・・幸子、大丈夫?」

少しだけトーンの落ちた私の声色に理恵は気づいた。
誰のことも気にしていないような自由さがありつつも、人のことをよくみている彼女の懐の深さに私は憧れている。

「しばらく帰る予定もないしさ、幸子、いつでも使っていいよ。生活に必要なものは何もないけど」

向こう側で理恵がガハハと大口を開けて笑った声がした。
少しだけモンゴルの空気が電話口から流れてきた気がして、私もふっと笑った。
ここ数日の緊張が少しだけ解けた気がした。

「鍵は実家に預けてあるから、お母さんに連絡しとくね。幸子ならお母さんもすぐに渡してくれるから」と理恵は言うと、何も聞かずに電話を切ってくれた。

理恵のアパートは、本当に生活に必要なものは何もなかった。
ただの荷物を置いてある倉庫に過ぎない。
大量の写真に、本棚に入りきれないほどの本。それにCDやDVD。

「実家に置いとくと、底が抜けるって文句言われるから仕方なく借りてるんだよね。まあレンタル倉庫より、部屋の体を生してる方が使いやすいかなと思って」と理恵が言っていたのを思い出した。

必要最低限の荷物だけをスーツケースに詰め込んで、私は理恵のアパートに一時的に避難した。
浮気した悟の顔も見たくないし、一緒の空気を、これ以上吸いたくなかったのだ。

吸いたくないというより、息ができなかった。

「ライフラインは生きてると思うよ。たぶん」
と理恵は言っていた。
アパートにつくなり、私はちゃんと使えるかを確認した。電気もガスも水道も大丈夫。
掃除もしてあった。

きっと理恵のお母さんがいつ理恵が帰ってきてもいいようにと手入れしてくれているのだろう。

しん、とした静けさはあったけど、そこここに理恵や理恵のお母さんの体温が感じられた。
生活感は何もないけど、安心感はあった。

久しぶりにあった理恵のお母さんも、特に何も聞いてこなかった。理恵が事前に釘を刺してくれていたのかもしれないな、と思った。
みんなの優しさが、じんわりと広がる。

ちゃんと自分の中で整理ができたら、話を聞いてもらおう。
今はまだ無理だけど。


でもなんだか寂しい。

私は思いつきのように、夜月新聞に電話をして、新聞の契約をした。
今時、新聞なんてと思いつつ、なんとなくだ。ほんとに、なんとなく。

仕事もしていない、テレビもない、Wi-Fiもないこのアパートで一人で過ごすのはあまりに世間とのつながりがなさすぎて、寂しい。

毎日誰かが、家を訪ねて新聞を入れてくれる。
世間のニュースはそれを読めばわかる。
もちろん、スマートフォンでだって読めるけど、スマートフォンはできるだけ使いたくなかった。

悟からの着信に、LINEの嵐。
それを避けるように検索してしまうワードは、

浮気、離婚、不妊、離婚、就職。

検索なんてしなければいいのに、手続きの方法だけでなく、経験談を読んだりしてしまう。
不安になって、寂しくなって、誰かの話を聞いて、あたかも自分のことのようにすり替えて。

いつの間にか、人の経験が自分の経験のように思えてきたりする。
自分が信じられないし、こわくなる。

ずっと理恵のアパートにいるわけではないし、長くなくていい。一ヶ月だけ。
一ヶ月もすれば、冷静に考えられる。

一人でゆっくり新聞でも読んで、冷静に。

そうすれば、結論も出せるかもしれない。
離婚か、家に戻るか。



新聞受けから新聞を取り出した。
ガサガサと広げる。冷たく冷えた手に、冷え切った新聞が凍みる。

まずは一面。
私の目に飛び込んできたのは「犬飼議員 汚職」という太字で大きく書かれた明朝体。

私の頭から疑問符が飛び出した。

デジャブかな?
昨日見た新聞の一面と同じじゃない?

私は台所の隅に置いていた昨日の新聞を手に取った。
今日配達された新聞と、昨日の新聞を並べて置く。全く同じ。日付も同じ。

誤配だ。

「もしもし?」
「はい、夜月新聞です」
「〇〇3丁目の竹下ですけど」
「ああ、先日ご契約いただいた!お世話になっております。今日はどうされました?」
「今日配達いただいた新聞、昨日のだったんですけど」
「え?! ほんとですか? 申し訳ありません!! すぐに新しいものを配達いたしますので」

電話口の新聞販売店の従業員は非常に感じがよく、本当にすぐに新しい新聞を届けてくれた。
正真正銘の今日の新聞を。

「竹下さん、申し訳ありませんでした」
感じの良い従業員は、謝るなりすぐに私に今日の新聞を手渡した。

そしてポリポリと頭を掻きながら、不思議そうな顔をして続けた。
「他のお宅からはそんな苦情なかったんですけどねぇ。申し訳ありませんでした。しかし、一体どうしたら昨日の新聞が混入するのかなぁ。わからないんですよねぇ・・・。いや、言い訳するつもりじゃないんですよ? 確かに竹下様は同じ日付の新聞を2部お持ちですしね。いやぁ、しかし、フッシギだなー」

誤配に関してはあまり納得がいっていないようだった。

アパートの前に止めておいた新聞配達用のバイクの上に置いていたヘルメットをすっぽりと被る。
少しだけ私の方を見て会釈するとブロロロロと走り去った。

私は従業員が走り去るのを確認し、玄関を閉めた。

今日の新聞には「犬飼議員 汚職」の文字はなく、「トルコでM7.8」と太字の明朝体で書かれてあった。

「なんでよりにもよって昨日の新聞なんか」

私はため息をついた。
寒さの余り、ため息は白かった。
昨日のことは思い出したくもなかった。
昨日は夫と電話で会話をしてしまったのだ。



「幸子、どこにいるんだ?」

ショルダーバックにしまいこんでいたスマートフォンを取り出した時に、思わず通話ボタンを触ってしまった。

家を出てから、悟からの着信の嵐にうんざりして、スマートフォンをしまいこんでいたのに。
どれだけずっとかけてきてるんだろう。

「一人で考えたいので、連絡しないでください」とLINEはしていた。
それでも連絡をしてくるのは、どこにいるのかわからないのが、心配だかららしい。

こちらとしては放っておいてほしいから、出ていったのに、しつこく連絡をしてくるなんとも空気が読めない浮気夫に辟易していた。
とは言っても、心配させすぎるのも申し訳ないし、心配してくれているのも正直、悪い気はしなかった。

電源は切らずに、一応LINEを確認し既読スルーするというのは、生存確認くらいはさせてあげようという、私の最大限の浮気夫への優しさだと思う。

まだ、悟と話すつもりはなかった。
意図して電話に出たわけではないし、そのまま切ってもよかった。

しかし、少し落ち着きを取り戻しつつあった私は悟からの電話に応じることにした。

「何?!」

私はとりあえず、まだ怒っていることをアピールすべく、出せる限りの不機嫌さを醸し出そうと、わざとヒステリックな声を出した。

「幸子ごめん。戻ってきて欲しい」
夫の声色から反省の色は伺える。

「悟、あなた自分が何をしたのかわかってるの?!」
「申し訳ない」ボソリと夫はつぶやいた。

「いや、でも、幸子を裏切るつもりなんてなかったんだよ。本当に。不可抗力って言うか・・・」

さっきまで落ち着きを取り戻しつつあったはずなのに、どうにも苛立ちが治らなくなってきた。
演技だったはずの私の怒った声色が徐々にリアルなものへと変わっていく。

「不可抗力って何? だって浮気したのは事実なんでしょ?」
「それは、でも」夫が言い淀んだ。

私は「でも」に苛立って、すぐに通話を終了し、スマートフォンの電源を切った。



昨日はそんな日だった。

憂鬱な苛立った金曜日。
ひとりぼっちの金曜日。
週末の予定もなく、ただただ現実逃避をするだけの金曜日。

そういえば、悟は「それは、でも」の後になんと言うつもりだったんだろう。
「でも」がとにかく余計だ。
戻ってきて欲しいなら言い訳なんかしなければいい。

浮気が発覚してから私が家を出るまでの間、悟は言い訳ばかりをしていた。
全てを浮気相手の女のせいにして。

実際に浮気をしたのなら、悟にも意思があったということではないのか。
理由はどうであれ、私という妻がありながらも、他の女を抱いたことも気に食わなかった。
言い訳するような事情があったとしても、それがどんな事情であれ、悟がやったことは許せなかったし、気持ちが悪いと思った。

さらに腹が立つのは、悟は私が子どもを望んでいたことも分かっていたこと。
それに、悟だって子どもを欲しがっていたということだ。

子どもを欲しがる私を差し置いて、ほかの女とセックスするなんてありえない。
私とだったらわざわざ避妊する必要もないし、相手を妊娠させる心配や性病などのことも心配しなくていい。

私にとっては貴重な1回だったのに、悟はその大事な1回を外で他の女と済ませてしまったのだ。1回だったのか、複数回だったのかは知らないけれど。

正直なところ、私はあまりセックスが好きじゃない。
そもそも、男性そのものがあまり得意ではない。
悟はあまり男らしさが強調されているようなタイプじゃなく、中性的で、そして柔らかで。
私はそんな悟に惹かれた。

私と悟はおしゃれが好きで、よく買い物に出かけた。
好きなブランドも一緒で、好きになる映画もテレビドラマもよく似ていた。
味覚も合い、気の置けない女友達のような心地よさがあった。

悟もそこまで性欲が強い方ではなかったし、梅雨になれば雨が降るように、それはとてもとても当たり前のことのように結婚をした。

二人とも子どもを望んでいたので、セックスはした。
結婚後のセックスは少しばかり義務的なものだったかもしれないが、愛がないわけではなかった。

私はセックス自体に興味はなかったけど、悟と手を繋いだり触れあったりすることは好きだった。
ただ、女性として扱われることに、少し嫌悪感があったのだ。
悟にはそのことを話していたし、悟も理解はしていた、と信じていた。

それなのに、悟は浮気をしたんだ。


悟の浮気相手は、今年、職場に配属された新入社員だった。

悟は小綺麗にしてはいるけれど、どちらかといえば人畜無害で、モテるというよりかはお友達止まりタイプだ。
正直、あまり心配もしていなかった。結婚しているのも公言してたし、指輪だってしていた。
最近の子には左手の薬指の指輪なんて何の牽制にもならないんだろうか。

そもそも、年齢や世代なんてものは関係ないかもしれない。その彼女がそういうタイプだっただけなんだろうけど。

浮気を知った後、私の頭の中は真っ白になった。
その空白を埋めるように、フル回転した脳は、スマートフォンで検索したどこかの誰かの経験談や、「サレ妻」的な情報を、雪崩のように私の頭の中に流し続けた。

気がつけば、私の頭の中は悟への疑念でいっぱいになった。

悟の言うことが正しいのか、私の妄想が当たっているのか。
何が現実で、何が真実で、何が想像で、何が予想なのか、全てがないまぜになる。
私は何が許せなくて、何に怒っているのかさえもわからなくなっていた。

現実か妄想かの区別もわからなくなった私の思考は、次第に頭の中がいっぱいになると、少しずつ少しずつ、その思考を喉の奥へと垂れ流し始めた。

喉の奥が、苦くて、酸っぱい。

飲み込めない思考は、吐き出すこともできず、ただ私は息ができなくなった。

そして、家を飛び出した。
距離を置いて、せっかく息ができるようになったのに、昨日電話を取ったせいで、私は再び息苦しさを感じてしまった。

その後、携帯電話の電源を切り、なんとか落ち着きを取り戻したというのに。
布団に入りゆっくり眠って、再び息ができそうだと思ったのに。

今朝の新聞の誤配のせいで、私は昨日に引き戻されてしまった。



今日はもう何もしたくない。
でも、この狭い部屋にいたら息が詰まる。

私は気を紛らわすように綺麗に着飾って、丁寧にメイクをして家を出た。

綺麗な洋服に、綺麗なメイク、整えられた爪に少しだけシャンプーの匂いが香る指通りの良い髪。

街を歩きながら私は思う。

これは、男性を喜ばせるためにしていることではない。
私が私を好きでいるために、していることなんだ。



つづきます



この記事が参加している募集

#私の作品紹介

96,611件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?