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ピリカ文庫

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テーマを指定して、 noterさんに執筆してもらう、という企画のマガジンです。
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記事一覧

祈る

祈りというお題でちょっとした文章を書かせていただいた。

それとは別に、祈るということにまつわるはなしを書いていた。

祈るというのは、個人の思う「そこにくるべき未来・期待」といったものを引き寄せようとする行為なんじゃないかと思う。引き寄せようとすることがらをしまっておくための箱をあつらえて、「ここに箱がありますよ」とアピールし、それが箱におさまるのをじっと待つ行為ではないか。

それは、自分の中

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【ピリカ文庫】『眠れない四月の夜に』

【ピリカ文庫】『眠れない四月の夜に』

イントロ

真夜中の電話は、リオンからだった。

「前によく行ったあの映画館で例の映画がかかるみたいよ。見に行かない?」

年に数回、忘れたころにかかってくる電話。リオンと僕を繋いでいるものは、今はもうそれだけになった。

「悪いけど先約があってさ。ごめん」

いつも週末は散々暇を持て余しているくせに、予定が被る偶然を嘆く現実も時にはやってくるのだ。

次に彼女が僕に電話する気になるとしたら、たぶ

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【ピリカ文庫】ミニトマト

【ピリカ文庫】ミニトマト

お母さんは私がトマトを好きでないことを知っていた。それなのに、いつもお弁当にはミニトマトがあった。「残してもいいのよ。赤が足りないでしょ。見た目のためにいれるの」そういいながら太い指でつまみ、弁当箱に入れる。私以外の誰かに見られることを前提にお弁当は作られていた。

それなのに、私にはお弁当を一緒に食べる友達がいなかった。給食のある日は決まった班で食べるのに、午前授業で終わる日は違う。「好きなもの

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ピリカ文庫~「スケッチブック」

ピリカ文庫~「スケッチブック」

春ですね。
ポカポカ陽気に誘われて、ピリカ文庫の新作が届きましたよ!

りみっとさん/新しいクレヨン読みながらついつい昔の思い出に浸ってしまいました。
爽やかな風と草の香り。
そして、子どもたち。
りみっとさんの生き生きとした描写が素晴らしいです。
春らしさが満喫できる作品。

こーたさん/スケッチブックこーたさん、久々にピリカ文庫に登場です。
夢を諦めた孤独な青年と、後輩の女性の会話にどんどん引

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【ピリカ文庫】新しいクレヨン

【ピリカ文庫】新しいクレヨン

 子供会のイベントで、大きな公園に来た。春の日差しを浴びて、公園の花壇はきれいな花盛り。木々も芽吹いて生き生きとしている。たくさんの家族が青空の下で地面にシートを広げ、お茶をしたりとピクニックを楽しんでいる。

 公園の真ん中にある広場に集合し、お弁当やお菓子が入ったリュックを背負ったまま私たちは全員しゃがんだ。引率係のコウちゃんママが、紙を丸めたメガホンを持って大きな声で挨拶をする。

「たんぽ

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【ピリカ文庫】スケッチブック

【ピリカ文庫】スケッチブック

ここ数年、人生の目標を見失ってからの自分は、無機質なアンドロイドのようだ。いや、人工知能が感情を持ち始めた時代に、この例えはもう古いのかも知れない。

名ばかりの休日、増え続ける業務。時間と体力を仕事に全振りして、生活ギリギリの給料で日々を凌ぐ。今日も仕事で残った資料を家に持ち帰ろうとしたその時、2年後輩の丸山京香が首を傾けてこちらを覗きこんだ。
 

「あっ、スケッチブックじゃないですか!」

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ピリカ文庫~「窓」

ピリカ文庫~「窓」

こんにちは!ピリカです。
わたしの街では黄砂の嵐が吹いていますが、みなさまの街はどうですか?

とっても春らしいお名前のお二人に書いていただきましたよ!

みなとせはるさん/バス停と猫バスに乗り込む人たちの織り成す朝の風景を見守り、心を寄せる語り手。
窓が隔てる外の世界に心乱されるのは、いったい誰?

窓を全開して、気持ちいい風をめいっぱい吸い込みたくなるような、あたたかな作品。

震わすのは/さ

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【ピリカ文庫】短編小説「バス停と猫」(テーマ「窓」)

【ピリカ文庫】短編小説「バス停と猫」(テーマ「窓」)

 朝七時半。
 二階の窓から外を眺めると、道路の向かいにバス停がある。通勤や通学のためにバスを待つ人達が列を作り、たった一つある青いベンチには額に白い富士を持つ白黒柄の猫が鎮座していた。
 小さなセーラー服を身に着けた女の子が、スーツ姿のお母さんに手を引かれて列に並ぶ。お母さんは膝を曲げて女の子と視線を合わせると、「気をつけてね」と言ってから道路の反対側にあるバス停へと向かっていった。
 マコちゃ

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震わすのは【ピリカ文庫】

震わすのは【ピリカ文庫】

 あれは15歳の夏休みだった。俺は町の花火大会の会場に急いで向かっていた。住宅街を走っていると、ドーンという爆音が空気を震わし、俺は空を見上げた。

「あ~、始まっちゃったか!」

 俺は民家の2階の窓から身を乗り出している少女に気が付いた。その少女は同じクラスの福元美羽だった。あまり話したことはないが、福元も花火が観たいのだろうと思い、誘うことにした。

「福元!一緒に花火を観に行かないか?」

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ピリカ文庫~「教科書」

ピリカ文庫~「教科書」

3月になりました!ピリカ文庫も春到来です。
今回は春の日差しのようにあったかいクリエイターさんの2作品ですよ!

バクゼンさん/なんで私が菊池寛!もう、このタイトルがぐっと読者心を掴みますよね!バクゼンさんってすごいタイトルメーカーだと思います。

学生時代の苛立ちや孤独、誰かと心通ったときの跳ねるような気持ち。
読めばきっと、この作品で追体験できるはず!

玉三郎さん/アイとユウぜんぜん違う性格

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【ピリカ文庫】なんで私が菊池寛!

【ピリカ文庫】なんで私が菊池寛!

片山利都は県内でも上位の進学校に入学した。
この高校は母に薦められ、自分でも憧れていた。しかし実力的にはギリギリの合格だったと思っている。
入学後、生活習慣が緩んでいた自覚はあったが、2年生になると学力の急降下に呆然とした。

利都は学校では息を潜め目立たないように過ごした。同じ中学の出身者は少ない。それでも出来るだけ避けていた。
成績優秀で生徒会で活躍していた自分が遠い別人のように思える。友達を

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【ピリカ文庫】アイとユウ

【ピリカ文庫】アイとユウ

ユウがまた教科書を借りに来た。これで3日連続、記録更新。

「中学生にもなって、また忘れ物?前の日にちゃんと確認しなさいって、いつも言ってるでしょ!」
「はぁい。ごめんなさい、お母さん」

お互いなかなか良い演技だったので、途中で声を出して笑ってしまった。

「今日はラクガキしないでよね!」
「ふふ。するかしないか、おたのしみに」
こらぁ!とアイが叫ぶと、ユウは笑いながら走り出した。ふざけるユウを

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ピリカ文庫~「告白」

ピリカ文庫~「告白」

こんばんは!
みなさま、ハッピーバレンタイン!

バレンタインデーにぴったり、「告白」…がテーマですが、さすがは手練れのお二方でした。
甘いラブストーリーが来るか、との安直なピリカ予想をはるかに越える作品が届きました。

camyu さん/卒業ダンディなアルパカのアイコンでお馴染み、camyuさんが初のピリカ文庫に。
2023春ピリカグランプリ受賞者の実力、しかと受け止めました!

しっかりと読ま

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【ピリカ文庫】「卒業」

【ピリカ文庫】「卒業」

春というのは教職に従事する私にとって、複雑な気持ちにさせられる季節だ。

1年間を共に過ごした生徒と別れ、時に見送り、時に見送られて、喜びと悲しさが同居するような、そういう季節なのだ。

小学校を卒業して大人の階段を上り始める中学生の1年間は、どの学年であっても大人が思うよりも遥かに濃く、そして長い。多様な個性を持つ生徒たちと格闘しながら過ごした1年は、私にはどれ一つとっても大切な思い出だ。

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