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詩 『帰還兵』

作:悠冴紀

その戦場を生き抜いて帰還した後
君は友をなくすだろう

命からがら逃げ帰ってきた後
君は家族をなくすだろう

何かを護ろうと戦って
何より護りたかったものまで
壊してしまう現状に気がつくとき
君は自分の何かを置き忘れてきたことを知る

鏡を覗くと
それまで相手にしたこともない最強の敵

君のその混乱を見て
逃げ出さない者はいないだろう

生き抜くことだけを考えて
生き抜くためだけに強くなり
破壊する機械と化す他に道のなかった君が
やっとのことで帰還する頃
君は生き残った自分を呪う破目になる

戦場を離れて尚
君の戦いは終わらない

君が戦場から帰ってきた後
君が愛し 君を愛したはずのかけがえのない人は
君に愛想を尽かして去っていくだろう

今目の前にいる君はもう
かつての君とは別人だと

そんな君を愛し続けることなど
到底できはしないと

誰より愛した身であればこそ
見るに堪えない姿だと……

その戦場から命からがら帰還した後
君はすべてを失うだろう

長い間の後遺症から解き放たれて
どうにか正気にかえったとき
正気で向き合うに堪えない現実を前にして
君はいっそ永遠の狂気を願うだろう

友は去り
家族は消え
愛した者は別の道へ

君は戦場に送り込まれたあの日あの時から
世界の異なる存在になってしまった

嘆き 苦しみ 追い詰められ
あまりの壮絶さゆえに己を失った瞬間から
君は戦場を出られなくなった

いつかの私と同じように

君は独りだ
人は皆独りだが意味が違う

魂を連れ帰る余裕もなく
その身一つで帰還した君に
もはや並んで歩く者は
誰もいない

**********

※ 2007年8月(当時30歳)作。

この作品に近いニュアンスの作品はこちら▼

『戦士の骸』
『風の泉』

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