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詩集B(20代の頃に書いた作品群)

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社会派ミステリー小説、PHASEシリーズの著者 悠冴紀が、大学時代から20代の終わり頃にかけて書いた(今へと繋がるターニングポイントに当たる)詩作品の数々を、このマガジン内で無料… もっと読む
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詩 『曼珠沙華』

作:悠冴紀 赤い大地 血のような 炎のような 曼珠沙華が咲き誇る 鮮やかな赤 毒々しくも繊細で 雨ざらしの野に 凛と伸びる 曼珠沙華が萌える 混沌の記憶の中に 血のような 炎のような 一面の赤 ── 無彩色の季節を越え 今 再び 懐かしいような 初対面のような 野生の赤い曼珠沙華 私の歩む畦道に また かつてに増して鮮やかに 神秘的な赤い花一輪 ※ 2003年(当時26歳)の作品。 曼珠沙華とは、言わずと知れた彼岸花のことです。その翳のある妖艶な姿はしかし、思わ

詩 『戦士の骸』

作:悠冴紀 極端すぎた変革 反乱の渦 人々はある日突然 戦士になる 求める神の食い違い バラバラに砕け散った世界 脱落していく同志たち この手が殺めた敵兵たち 巻き添えを食らった民たち 辺り一面 死ばかり 戦火を浴びて 破壊を繰り返し 戦う目的さえ忘れて 血に飢える 身が削れる 精神が削れる 世界が削れる やがて戦乱は去り 空虚だけが残る 戦士は気付く もはや自分の居場所がないことに 握り締める武器だけが友だった孤独な戦士 戦うことだけが人生だった勇ましくも

詩 『夜 風』

作:悠冴紀 涼やかな夜風がカーテンを揺らし 祭りに賑わう人々の声を運んでくる 遠いどこかから微笑ましげに 夢を抱きしめる子供たちの声 夢を思い出した大人たちの声 遠くに灯る屋台の明かり やがて街は眠りに就き 夜風が余韻を運んでくる 微かに残る声の木霊を吸収して 涼やかな夜風が流れ込む 街を見下ろす窓から窓へ 通り抜けていく夜風に吹かれ 囁くような声の余韻に 私はそっと微笑んだ *************** ※ 2005年の作品。 ニヒルな作品が多いPHASE

詩『それでも我等は・・・・・・』

作:悠冴紀 我等は多くの主張を生み出し 多くの主張の亡骸を見る それでも我等は生きている それでも我等は生きていく 我等は何かを求めて闘って 求めた何かに裏切られる それでも我等は生きている それでも我等は生きていく 怒りと嘆き 絶望と虚脱 それでも我等は生きている 薄れゆく記憶の上に 新たな主張を貼り付けて それでも我等は生きていく 甘い期待を撃ち砕いた現実の弾痕に 間に合わせの土を塗り込めて 我等は尚、生き続ける *********** ※1999

詩『LYCORIS』

作:悠冴紀 私はずっと見つめていた 土の下に眠る様 僅かに芽を出し 地上の光に触れる様 私はいつでも見つめている 繊細な花びらが放射状に広がる様 その一枚一枚が萎れていく様 記憶に焼きつけ フィルムに焼きつけ 枯れ姿までも眺めている その根に命の宿る限り あらゆる瞬間に美を覚えて 力強く芽吹いて しなやかに伸び 儚くも鮮やかに開花する 優麗なるリコリスの花 海の女神の名を受けて 大地の精霊を集める花 “天上に咲く紅い花”から分化して 取り取りの輝きを得た地上の

詩『ひとり』

作:悠冴紀 私はやっぱり 「ひとり」が好きなんだなあ 今日もこのときを待っていた 街が 人々が 寝静まり 紺瑠璃の宇宙と 向き合う時間 静けさの中で 私は独り 果てしない自由を手に入れる 宇宙にそっと囁きかける 歌のような 詩のような 秘密の声を 時間の生まれる歪みを見つめ 惑星の生まれる揺らぎを知る 「ひとり」の時間そのものに酔いしれて 背筋に沿う清流の音を聴く これ以上の贅沢があるだろうか 夜の紺瑠璃 静寂のコンツェルト 宇宙との一体化 私の好きな 「ひ

詩 『北へ 北へ』

作:悠冴紀 数年前まで 南の国に憧れていた どこかの無人島で 潮の香りに包まれて 独り 日暮れを眺めたかった 今は 北へ向かっている なぜなんだろう 北へ 北へ 魅かれていく なぜなんだろう 快感だった暑い日差しが 今は苦痛 苦痛だった冷たい風が 今は快感 元居た場所からは大勢が去り 迫害者たちが待ち構えている 居場所にしたかった街は 大地に揺られて変わり果てた 今は 行き場だけを求めている すべてに理由が必要だろうか 北へ 北へ 魅かれていく 帰る場所も

詩 『涙』

作:悠冴紀 泣いている 毎日毎日 泣いている 扉の向こう側に すべての人間を閉め出して 一人という安全に身を置くと 私は毎日欠かさず 泣いている 涙は余計な感情を洗い流す道具 考えることにさえ疲れてしまったから ただひたすら涙を流す 他人に何かを求めることが どれだけバカらしいか覚ったから 独りで泣く この人生には 邪魔なものが付着しすぎている うっとうしい感情が多すぎる だから 大粒の涙を搾り出して さっさと汚物を流し出す それでも毎日泣いている 流しても

詩『クラゲ』

作:悠冴紀 何も無い 涙が止まった 要らない感情が尽きたらしい ただ生きている 宇宙の底で 揺らめいている クラゲみたいに すべて終わった ああしよう こうしよう という意志さえ 今はもう見当たらない ああなるまい こうなるまい と突っ撥ねていたことさえ 今はもう どうでもいい 尽き果ててしまった 何も無い これから どうしようか なんとなく笑ってみた 喜びも悲しみも無い身体で なんとなく空を眺めてみた なんとなく気持ち良かった 泳いでいる 大気の底で

詩 『救 済』 (20代前半の作品)

作:悠冴紀 私が最も救いを期待したとき 求めた救いは私に背を向けた たぶんそれで良かったんだ おかげで私は立ち方を覚えた 自分で考える機会を得た 私に最も救いが必要なとき 私はもう救いを期待しなくなっていた たぶんそれで良かったんだ おかげで私は歩き方を覚えた 一人で闘う機会を得た 私を救おうと言う者が現れたとき 私はその救いに偽善の陰を見出し拒絶した たぶんそれで良かったんだ おかげで私は生き方を覚えた 自分をダメにする存在を見抜く機会を得た 救われない

詩 『風の泉』

作:悠冴紀 ライン川のほとりで 人知れず傷付いた足を癒すライオンを見た ナイル川のほとりで 人知れず涙を拭う隼を見た ボルガ川のほとりで 人知れず疲れた翼を休める鷲を見た 望んだ勝利を得た果てに 「独り」という代償の重みを知り 目指した理想の向こう側に 壊れた文明の廃墟を見る 枠組みの中の王者たち かつてすべてであった王冠を背に 風の泉に帰り着く 雲分ける風に吹かれるとき あるがままの現在を知る 泉の水面に触れるとき 優も劣もない未来を知る かつて不落と思われた

詩 『事実と真実~Fact&Truth』

作:悠冴紀 一つの事実(fact) 人の数だけ存在する真実(truth) 事実がはじめに滑り出し その後を 生まれたての真実たちが駆けていく 色違いの真実 形違いの真実 認識次第で異なる事実の化身 優も劣も無いけれど 不当な天秤にかけられる 白も黒も無いけれど 『倫理』に『道徳』に裁かれる やがて一つが多数決で選ばれ 一般論として定着する 他の多くは沈黙を覚える 地上の光から身を隠す それでも朽ち果てることはない 事実と思考を融合した真実の果て 暗号化された

詩 『親 友』 (20代前半の作品)

作:悠冴紀 自分に何をしてくれるか 自分にどんな利益をもたらすか そんな選び方はしない 恩人は皆 親友? 得るものが無くなったら さようなら? そんな浅はかな判断はしない その生き方が その意志が その欠点さえもが 私を魅きつける 一緒に生きたいと思う 喜びを 憂いを 思想さえも 共有したいと思える 定義など無い 存在そのものが 親友でいる理由 誰にも代われない 誰にも真似できない 私がいて あの人達がいて 親友という関係が成り立つ 親友だから大事なのでは

詩 『コトバの芸術』

作:悠冴紀 シーザー ・・・・・・ 歌を歌って聴かせる最後の相手を失って 私は歌声を喪失した 今は 代わりに私のコトバが歌う 私の混沌が生み出したコトバたちは 二次元の紙の上から踊り出し 思い思いの旋律を奏で 創造主である私さえ置き去りに 誰も踏み入ったことのない 四次元の別世界へと透過していく 私はそんな 独り立ちしていくコトバたちの後ろ姿を 静かに見守る コトバは今や 別個の生命 リズムに乗ったコトバたちは やがて絵筆を手放した私に代わって 色形を表現しは