マガジンのカバー画像

山羊シリーズ。

14
様々な山羊が蔓延る世界での、奇妙奇天烈な出来事を書くシリーズ。
運営しているクリエイター

記事一覧

脳と多数の山羊。

 その日はいつもの太陽が、いつもの道をたどっていた。それに変哲は無く、白い光と熱は、地球という球体とそれに寄生している人類を焼いていた。そこに悪意は無いとは思うが、もしかしたら太陽が熱いのは、人類への嫌がらせなのかもしれない。
 幼稚園。
「せんせえ、ちんちんが飛んで行っちゃいましたぁ!」
「え? ちんちん……?」
「そうです。ちんちんが飛んで、空高く行ってしまったんです。ぼくは止めたんですけど、

もっとみる

とても良い具合の、カウンセラー山羊たち。

 組織大学の対話サークル『カウンセラー』の専用対話室。少し古い冷房機の『ごー』という音が背景として鳴っているそこでは、今日も一限の授業を知らん顔で素通りしていく学生たちによる対話で盛り上がっていた。
「……君のネーミングセンスには一年前と三か月、さらに二年ほど前から飽き飽きしていたけれど、まさか枝豆を天空に飛ばしてしまうとはね」
 サークル長である山羊のc級は、眼鏡をくいっと押し付けなが言った。「

もっとみる

山羊山羊に対する、とある教授の見解。

「『めえー』なんてもう古い! 時代は『山羊山羊』だ」
 そう言いながら、組織大学が使いだした、あの『山羊山羊』という合言葉。
「でもそれを使い始めた、大学信者である教授や教授ですらない教員である山羊達から、簡単に死んでいったんだ」
 眠そうな目をしている教授は、自身の専用机に両手をだらしなく置きつつ言った。
 専門家はいつだって正しかった。しかしその正しさを、思考の地盤が出来ていない若者達は無視を

もっとみる

二頭の山羊の、よくわからない言い合い。

「『肉か魚かって言うけれど、魚も肉だよな』って言った君は、いつだって青空の先に夕焼けを見ていたよね」
 吐き捨てるような気持ちの夕暮れ山羊は、近くでなるべく煙を出さないように工夫をしながら煙草を吸ってる山羊山山羊之山羊(やぎやまやぎのやぎ)に言いました。
「だって、昨日も柿を投げていただろう?」夕暮れ山羊はさらに言います。自慢げな顔をしている夕暮れ山羊に、その横から、とても早い拳が飛んできました。

もっとみる

山羊山山羊之山羊という山羊。

 大学に務める教授のデザイナ、山羊山山羊之山羊(やぎやまやぎのやぎ)が街のガムレベル粘着痰がハニカム構造の如くへばり付いている道を、トコトコと小さく歩いている時、その災害は発生しました。
「ぬほおおおおおっ、着火!」田舎気味な土地にある公園に置いてある、便所のような声。
 その、肥満体型を連想してしまうような野太い声に、山羊之山羊を含めた街を歩いている周辺の全ての生命体はしっかりと反応をしました。

もっとみる

駅のホーム山羊達。

「kokokokokoko」
 お昼時の太陽の光がとても良く差しこんでくる駅のホームで、少しでも気を緩めれば日向ぼっこを初めてしまいそうな気分に浸っていた山羊之山羊は、右耳から入り込んできた唐突の叫びに度肝を抜かれました。
「なんだ、どうした?」山羊之山羊は首を左に回転させ、右にいる夕焼け山羊に訊ねた。すると、なんてことのない顔をしている夕焼け山羊は、まさにキツツキのように,自分の頭を前方に小刻み

もっとみる

催眠術山羊。

山羊a「山羊山羊っていい言葉」お母さんのへそくりを食べる時のような、勝ち取った愉悦の中に彼は居た。
山羊a「なんか、いいね!」山羊山羊とはそれ程に。
山羊A「秘密の、合言葉みたいだよね」そうして山羊Aは、ここぞとばかりに舌を出す。とてもだらしない。
山羊a「なら、そうしよう」
デザイナ「ぼくはひみつのおくすりをのんでみたいけど、それはいけないことだから、あのよーぐるとのあじがするやつで、がまんする

もっとみる

即席の山羊山羊と、無意味になりかけたパラボラアンテナ。

「どうしてだろうと彼女は言うさ」と、真白いベッドに乗る、全てをさらけ出した私。
 それは夕焼けのような見込みでは有りましたが、しかし私は、虎よりも蛇よりも、蛸よりも、山羊を選んでしまったのです。その選択、まさに優秀ダンボールの中の選択は、私に動揺の余地を与えてはくれませんでしたが、しかし翌日の、パラボラアンテナのような友人の夕焼けは、ダンボールなんかよりも素敵だったと、私は思います。
「パンをかぶ

もっとみる

呪いの山羊の木。

 ヤギヌス。それは神と悪魔のちょうど中間の存在。それは、世界中が二度目の戦火に塗れる中に突如として現れ、全ての戦を人智を越えた力で終焉へと導いた存在。
 戦争を終わらせたヤギヌスはその満面の笑み山羊フェイスを轟かせ、二度目の戦争の引き金である一つの王国へと向かった。外見には何の変哲も無い山羊がただひたすらに王国を目指すその様。それを目にした誰もが、この山羊は王国に制裁を下しに行くのだろうと考えた。

もっとみる

うらがわ山羊と複雑の禁。

「あれだけ山羊山羊言ってはいますが、その設計者に山羊の動物らしい知識は全く無いんですよね。内蔵の構造とか、皆目見当もつかない」
 天空に居るデザイナは、最新式とは言い難いデバイスを、接吻と称されてしまうほどの距離まで近づけて言いました。それは唯一のマトモかもしれませんが、私と呼ばれる存在はそれを頭へとあてがうことに、出入り口が一体となった廊下で決断しました。
「貴女には私の言っていることがわからな

もっとみる

そう、山羊。

 ハバネロ城と最高の割れ目による、極寒火炎のピスタチオは、有給を使用した果の空へと飛んで消えた。その頃の青空にある美しき肉塊は、やがて血へと帰るのだろうか。

 嗚呼、ハンバーグが食べたい。

(ロンロン弁当語録談。第四章『腸冷蔵庫』より引用)

————

「うわっ。昨日食べた物、忘れちまった!!」奥さんを射殺した現実は予め記録されていたが、血液色の髪を持つ女はそんなことに囚われず、静かに叫びな

もっとみる

野良の山羊はガクガクと、戦慄を配る。

 女が街中を散歩していると、前方から女の友人がフラフラと歩いてきた。
「おお……」
 数日間、自身や自分以外の人間、世間そのものの前から姿を消していた友人を久々に見た女は、目を見開いて感激した後、そっとその名前を呟いた。
 友人は弱々しい足取りを止め、女の方を見た。赤色の瞳が、その姿を捉えた。
「ああ、おはよう」友人の声は女という性別にして低く、雨の日のようなしっとりとした声だった。
 女は友人の

もっとみる

山羊は木から落ちませんが、山羊が山羊とは限りません。

 私は椅子に腰を落とし、目の前のテーブルに目を向けました。
 真っ白いテーブルの上にはペロペロキャンディーがありました。キャンディーの部分が手のひらほどの大きさをしたそれは、透明なフィルムに包まれていました。
「キャンディーか……」
 固形物ではないという事実に、ため息混じりな声が出ます。ゆっくりとまばたきをすると、今日一日で溜まったヘドロのような苦悩が、荒波を立てました。
 私は重い腕をなんとか

もっとみる

山羊は料理ができないのです。

 私は目覚めると、すぐに掛け布団から這い出て、近くに置いてある時計の針を注視しました。
 七時という、まだ朝といえる時間帯であることを認識した私は安堵の息を漏らした後に、それでも収まっていない緊張感を胸に感じながら、古ぼけた襖を開け放ちました。その先にはもう台所が広がっていて、窓からは朝らしい光が降り注いでいました。しかし私の心情は、そんな朝から感じる何かに浸る程の余裕はありませんでした。目ヤニの

もっとみる