山羊山羊に対する、とある教授の見解。

「『めえー』なんてもう古い! 時代は『山羊山羊』だ」
 そう言いながら、組織大学が使いだした、あの『山羊山羊』という合言葉。
「でもそれを使い始めた、大学信者である教授や教授ですらない教員である山羊達から、簡単に死んでいったんだ」
 眠そうな目をしている教授は、自身の専用机に両手をだらしなく置きつつ言った。
 専門家はいつだって正しかった。しかしその正しさを、思考の地盤が出来ていない若者達は無視をした。と、教授の面倒くさそうな顔を横で直立で見ている山羊山山羊之山羊(やぎやまやぎのやぎ)は思った。
「その結果がこれだと?」山羊之山羊は、嫌うべき研究結果の資料を、目の前の教授の机に投げつけるように叩きつけた。数枚がホチキスで束ねられた紙が風を舞わせると、埃を含んだ香ばしい悪臭が二人の鼻孔を漂った。
 教授は顔の色を変えずに言う。
「……世間は厳しい。我々が教授という立場に居られるのも、奇跡と言うべきなのかもしれない」
「なんだと」山羊之山羊はやる気の見れない教授に掴みかかろうとしたが、やめた。
 しかしその変わり、教授に向けるべき敵意を目線で向けた。それだけで人を殺められそうなほどに強く濁った眼球は、机の上の資料を見ている教授にもしっかりと届いていた。
「……君と夕暮れ君には感謝しているよ」
「ならば、今起こっている問題をさっさと解決してほしいものですね」山羊之山羊はそこまで言うと、もうコイツと話していても意味がないと悟り、そのままズカズカと研究室から退室した。
「お前も十分に若者だろうに」
 灰色の風を纏いながら、バチンと音を立てて閉じた研究室の出入り口を睨む教授は、低く言った。

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