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大事な人との思い出

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夫や亡くなった友人など、大事な人について書きました。
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絵本嫌いのママ。もしくは物語る癌患者

絵本嫌いのママ。もしくは物語る癌患者

職業柄、読書の大切さを説くことが多い私は、たぶん20回くらいしか息子に絵本を読み聴かせたことがない。
来月で4歳になる息子なので、年間5回程度しか読み聴かせていないことになる。何を大袈裟なと思うかもしれないが、大袈裟ではないのだから至らぬ親である。

絵本が、好きではない。いや、苦手である。
教訓めいた展開は素直に受け取れないし、子供の感性を揺さぶろうとするダイナミック過ぎる絵に出くわしたときなど

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闘病垢、そしてそれ以外の温かなアカウントの皆さんへ

闘病垢、そしてそれ以外の温かなアカウントの皆さんへ

明後日私はまた、「生徒」という人々と出会う。
2020年3月に3年間手塩にかけて導いてきた彼らと別れてから丸三年が経った。
人より少し長い、私の産育休が今日終わる。
3年前の3月、絨毛膜下血腫で切迫流産の診断を受けた。
初めての離任式に向けて「異動かぁ。ほんとお世話になったわ。離任式行くわ」「じゃあ薔薇の花束持ってきてよ」「いいよ」というヤンチャだった男子との軽口を思い出した。すっかり第2の母校の

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オタクの私の話~バイバイ、2022年~

オタクの私の話~バイバイ、2022年~

2022年の記憶がない。
「記憶がない」というのはもちろん慣用句的な表現であって、何月に何があったかはなんとなく覚えている。だけど、「1年しっかり過ごしたな。今年ももう終わるな」という感覚が、抜け落ちてしまっている。
11月の終わりごろから、Twitterては1年を振り返るハッシュタグ投稿が目立つようになった。いわゆる闘病垢なので、みんなそれぞれ告知をされた月や、手術した月、抗がん剤を完走した月な

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息子にがんセンターを紹介された日の話

息子にがんセンターを紹介された日の話

起きてすぐ、微かな苛立ちと緊張を感じていた。この動悸は…?そうだ、今日は面談だ。眠る息子の白い頬。こんなに愛らしいのに、彼は問題児なのか。鬱々と支度をした。
1歳半健診であまりに落ち着きがなかったため保健師にマークされた息子は、保育園申し込みをきっかけに個別の面談に呼び出されていた。

市役所に着くと、担当者が来るまで窓口に座って待つよう促された。ものの数秒で椅子を滑り降りたがり始めた息子と格闘し

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ケーキ ~2歳になったあなたへ~

ケーキ ~2歳になったあなたへ~

もう何度 この白い海を往復しただろう
カタカタカタカタカタカタカタカタ
数えきれない線を刻む
あなたは 卵が食べられないから
ママは ケーキを手作りする
ママは 料理が苦手だから
適当に焼いた なんか甘い生地を
たくさんの クリームと
たくさんの あなたの好きな 果実で
適当に 飾り付けることにした

愚図るあなたを宥めては
カタカタカタカタカタカタカタカタ
イタズラするあなたを叱っては
カタカタ

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検査、そして三津シーと淡い恋

検査、そして三津シーと淡い恋

16年前の秋の日、私と彼は何の言葉も交わすことなく肩を寄せあうでもなく、ただ並んで繰り返し繰り返し浮き上がっては沈んでいくオキゴンドウの背中を眺めていた。背もたれのない白いベンチ。真ん中にもう一人座れるか座れないかの微妙な空白。そこから10月の海風が幾度も抜けた。
そうしていた時間が何時間だったのか、何十分だったのかはもう思い出せない。
ひたすら鮮明なのは、傾きかけた陽に照らされた黄金色の駿河湾。

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私とボスと時々ママ友

私とボスと時々ママ友

大学1年の始め、ボスとめちゃくちゃな喧嘩をした。
どういう経緯で何について喧嘩をしたのかは忘れてしまったが、私がボスに
「私はボスみたいにレベルの低い大学で妥協して満足してないから!」
と言い放って電話をガチャ切りしたことだけは覚えている。

まったくめちゃくちゃである。この頃、私自身がめちゃくちゃだった。どのくらいめちゃくちゃだったかというと、男性経験がなかったくせに大学入学5日目でまったく知ら

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息子と私と今の気持ちと~告白あるいは白状~

息子と私と今の気持ちと~告白あるいは白状~

20歳になったとき、すっかり疎遠になった小学校や中学校での同級生が妊娠したとか結婚したとかの噂を耳にすることが多くなった。
25歳になったとき、ずっと親しくしてきた周りの友人たちが結婚したいと言い出したり、子供がほしいと言い出したりし始めた。
そして28歳になったとき、私は生まれて初めて真剣に、結婚と出産を熱望した。私は婚約中で、高校3年生の担任で、そして父代わりの祖父には進行した癌が見つかった。

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彼女の一周忌

彼女の一周忌

目覚ましより10分早く目が覚めた。意識がハッキリすると共に激しい雨音がボリュームを増す。雷雨。曇天の夜明けのブルーグレーの室内を白亜の光が神経質そうにピカピカっと照らした。数秒後には空が割れるような轟音。眠っていながらも雷鳴に怯えたのか、息子が隣で「ふえっ」と小さく泣いて寝返りをした。完璧な雷雨。
涙雨、というには激しすぎる。淑やかで隙のない美貌の内側に、こういう気性を秘めていたよね。
今日は、彼

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昔の話。はじまりの日の話。

昔の話。はじまりの日の話。

富士の麓の春は遅い。春の日差しの中に冬が残していった刺すような風が残るそんな季節。
学校は高校受験を乗り越えれば少し業務に余裕が出る。久しぶりに明るいうちに帰ろうとする私を、校長が呼び止めた。
「新しく音楽ができる人が来ますよ」
「ほんとですか!」
それは朗報だった。

私は中高と卓球部に所属していた。足掛け6年やっていた割には熱心だったわけではなく、中学時代は無断欠席をし部活動出席停止を喰らった

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ほんとうにつらいこと

ほんとうにつらいこと

ふざけたテンションで、ふざけた家族の愚痴ばかり書いてきた。
全員分を書き終えるまで、別のことは書かないつもりでいた。

だけど別の記事にも書いたけれど私は何かを継続する能力がないし、父のことを書いている途中だったのに父を決定的に軽蔑する出来事があってなかなかふざけたテンションで書けなくなっている。
私は「愛すべきヤバイ奴ら」を書いてきたけれど、父からその「愛すべき」が消え失せてしまったのだ。

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