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聴後感想文

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音楽とトリップ風景
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美しい人たち

美しい人たちを見た。二本の脚で立って、喉を震わせて全身全霊の表現。決して過去との決別ではないのだと思わせてくれるような口元と、そしてなお未来へと標準を定めた眼差し。
「生きてやる」という何かへの怒りじみた志が籠っている言葉の端々。
「生きている」ということを救い上げるように残像を示す手足の隅々。

傍から見ていれば、何にそこまでの怒りを抱いているのかと思うのかもしれない。ただ向かい合えば、その美し

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Prins Thomas/Træns1〜4を聴いて

Prins Thomas/Træns1〜4を聴いて

目の前を埋め尽くす、線の波。無機質な白い空間を、黒い線が音に合わせて滑らかに跳ねる。波のように、上がり下がり。

低い音に合わせて、世界が傾く。視界が揺れる。上下に、左右に、斜めに。ルービックキューブを手に持ち、傾けながら眺められているような、そんな感覚。私が立っているこの空間の外側で、誰かがこの立方体を回している。

曲が変わる。

真っ白だった空間で、光が明滅する。スネアとバスドラムに合わせて

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Toby Fox/UNDERTALE SOUNDTRACKのアルバムをリピート再生で聴きながら

Toby Fox/UNDERTALE SOUNDTRACKのアルバムをリピート再生で聴きながら

降り積もる雪。湧き上がるマグマ。無機質な建物。暗闇の道に光る星屑のような何か。暗く美しいお城。

耳を包むピアノの音を、脳で感じて、そして脳に作り出された私の世界は、瞼の裏で広がりをみせる。

色彩豊かな視界と、モノクロの世界に取り巻かれた私の前に広がる金色の花。色を持たないモンスターたち。動物でもヒトでも機械でもない彼らは、暗い闇の中で、少しの希望と、日常を手に暮らしている。

私はそこに少しの

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Steve Reich/Mallet Quartet 『Ⅰ.Fast』を聴いて

Steve Reich/Mallet Quartet 『Ⅰ.Fast』を聴いて

知らない街を浮遊する。

白色の電灯が道を照らしている。その道を私は踊るように浮遊する。音楽は鳴っていない。ただ頭の中では響き渡っている。

確定しているけれど不明瞭なリズムに合わせてアン・ドゥ・トロワと口ずさみながら、角を曲がる。街はとても雑多で、テレビで観たようなアジア的要素の強い風景だった。漢字の看板が無数に並び、全体的に青白く、配管が剥き出しになっているような建物が続く。

大通りには屋台

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Radiohead/Daydreamingをリピートしながら聴いて

Radiohead/Daydreamingをリピートしながら聴いて

 一瞬で光の中に溶け込む。溶け込まされる。

 耳の奥ではキラキラとした音が規則的に、それでいてリズムを崩すように鳴っていて、その光の中で自分が特異的に形を持っているように感じる。
 溶け込んでいる自分と、それでもなお形を持とうとしている自分が二人いる。
 

 少し身を委ねていると、この音楽が三拍子であると分かる。
 同じ音程のピアノが、リズムにそって頭を流れている。光の中でなんとか形を保とうと

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Brian Eno/Ambient1:Music for Airports『1/1』を聴いて

Brian Eno/Ambient1:Music for Airports『1/1』を聴いて

下部に横書きテキストも記載

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 低い音が聞こえる。下の方でずっと鳴っている。ただ、部屋は明るい。それは電気的な明るさではなくて、窓の外から入り込む陽の光。
 真っ白な部屋の中で、真っ白なベッドに横たわっている。上を見ているのか、横を見ているのかは私には分からない

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