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Brian Eno/Ambient1:Music for Airports『1/1』を聴いて


下部に横書きテキストも記載

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 低い音が聞こえる。下の方でずっと鳴っている。ただ、部屋は明るい。それは電気的な明るさではなくて、窓の外から入り込む陽の光。
 真っ白な部屋の中で、真っ白なベッドに横たわっている。上を見ているのか、横を見ているのかは私には分からない。
 ポロンポロンとピアノの音が頭の中で響く。その音の一つ一つを、噛みしめるように頭の中に刻み込む。
 

 私は動けない。起きているのか眠っているのかも分からない。瞼を閉じているのか、開いているのかも分からない。ただ目の前には白い景色が広がっている。
 陽の光は一辺倒なものではない。窓から入り込む光は、薄く緑にも黄色にも変化する。その陽の光をずっと見ている。窓が開いているのだろうか。風が心地よく私の頬を撫でる。
 優しく撫でるその風は無味無臭で、それでいて少し遠慮がちだった。その風をめでるように私の口元が緩むのが自分でも分かる。
 音楽の中で特に大きな展開はなく、同じメロディが頭の中で響いている。低い音はずっと鳴っているように聴こえるけれど、時折頭の中を、高くそれでいて滑らかな優しい音が支配する。右耳から聴こえてきて、左耳からも聴こえてきて、最終的には両耳を通して頭の中を優しく支配する。
 鳴っている音は、左右に揺らいでいて、でもそれは決して耳の左右ではない。音単体が揺らいでいた。
 その揺らぎが目の前に広がる。音が光の柱となって目の前に現れる。その音の柱は、存在を朧気に映し出しながらも、すこし左右に揺れている。
 少しずつ音数が多くなってきたけれど、決して騒がしさはなく、その音の波が頭の中を支配する感覚に心地よさを覚えながら、私は横たわっている。
 

 いつだっただろうか。小さな頃の記憶を遡れば、同じ景色を見たことがある気がする。
 ただ、それは思い出せない。思い出せないけれど決定的に経験をしていると認識できて、それが面白くてまたしても私の頬は緩む。
 

 同じリズムが続く。同じ音階で同じメロディが続く。時折頭の中を支配するように音が拡がりをみせる。
 リフレインの心地よさに身を委ねていると、そのメロディを構成する音の一つ一つが玉のようになって私の目の前を浮かぶ。
 シャボン玉、ではない。もっと硬質なその玉は、それでも音が変わるごとにシャボン玉のように小さく弾ける。
 小さな玉が現れては消えて、現れては消える。陽の光は気付いたら白の一色になっていて、その代わりに優しいけれどカラフルな玉が私の視界を彩る。
 

 窓から入り込んでくる風が頬を撫でる。頬を撫でられている私はその風に身を委ねながら、目の前の景色の変化をただ見ている。
 

 私は動かない。ただそこに居て、見ている。

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