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こそげ落としてしまえ(有料日記)
全部髪の毛が悪い。四ヶ月も手入れしないで放置して、ぼっさぼさで汚ならしい。これなら生えていないほうがいい。なくなれ、消えろ。力いっぱい刈り取り捨てたい。
寝起きの頭が無性にいらついてざわついて、美容院に駆け込んだ。もういらない。こそげ落として。まったくなんにもなくていい。
湯気の力(有料日記)
土日祝日も開院している耳鼻科を近所に見つけて、土曜日の午後に駆け込んだ。息子は両親に任せて、診察受付番号「一番」を勝ち取る。
声を出すどころか喉に力が入らない始末。診察に必要な情報は、メモ帳に書き連ねてある。
まだ新しい、天井の白や壁のクリーム色が明るい診察室に案内された。わたしと似たような年の医師は、にこやかでもない男性で、けれど不思議と「こんにちは」の一言が温かかった。
「今日はどう
思い出が置き去りにされていく(有料日記)
「えっ、磯っこ、閉店したの!?」
お風呂がわくまでとソファでぐうたらしていた夕食後。いとこのSNSを目にして、思わず叫んだ。
「なんだ、どうしたんだよ」
ダイニングテーブルでぼんやりスマホいじりをする夫が、とりあえず形だけという抑揚のなさで問う。
「青森のばあちゃん家の近くに食堂があったでしょ、磯っこ。閉店したんだって」
わたしの母は青森県のまさかりの上部分出身で、子供の頃の夏休み
迷いは湯気に(有料日記)
表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより
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朝の六時にどうにか布団を抜け出して、冷蔵庫の中身を確かめる。肩がフェイスラインにくっついたまま、頭はまだ回らない時間帯。
今日は夫のろうすは休日だけど、わたしとにっとは普通の平日。パートに行くし、保育園に行く。
保育園は給食があるからいいとして、わたしの弁当はどうしたものか。
真夜中のパン屋さん(有料日記)
表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより
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平日のどたばたに身を任せるうち、夜も九時になっていた。夫のろうすはとっくに自室で夢の中。羨ましい。
息子のにっとはパン屋さんになりきり、ちょこまか忙しそう。寝室に駆け込んだところで強制的に消灯したが、
「パン屋さんしたかったのに!」
大げさな声量で悲しみを訴える。
「真っ暗でもパン屋さんはできるよ」
母