表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより __________________ かわいらしいタッチの昆虫アニメも。 三十代の母、懐かし芋虫クレイアニメも。 怖いと泣いてすがるきみは、五月に消えた。 新しい保育園に入園し、年少生活二ヶ月目。 教室の前の靴箱に、虫かごが四つ並んでいるのは知っている。担任の朗らか先生が虫好きなのも、クラス通信に記されていた。 「虫さん捕まえたい!」 乗り物命の息子は飛び跳ねて言う。 周囲に影響を受け、新しい世界を歩んでいる。
「吉田さんは他人の気持ちを思いやれるけれど、それは『吉田さんが想像した相手の気持ち』やから。本物の『相手の気持ち』じゃないよ」 産後一年半がたち、職場復帰早々に頭がぐちゃぐちゃのわたしに、臨床心理士のナオさんは告げた。 カウンセリングルームのクリーム色の壁にはなんの貼り紙もない。木製のテーブルも、昨年に地球を支配した新型ウイルスのために、透明な板っきれが立つのみだ。板っきれは、向かい合って座るわたしとナオさんを遮断しているが、関係ない。落ち着いた声量ながらにまっすぐ芯
土日祝日も開院している耳鼻科を近所に見つけて、土曜日の午後に駆け込んだ。息子は両親に任せて、診察受付番号「一番」を勝ち取る。 声を出すどころか喉に力が入らない始末。診察に必要な情報は、メモ帳に書き連ねてある。 まだ新しい、天井の白や壁のクリーム色が明るい診察室に案内された。わたしと似たような年の医師は、にこやかでもない男性で、けれど不思議と「こんにちは」の一言が温かかった。 「今日はどうされましたか?」の問いにメモを差し出す。 年明けからお付き合いをはじめた喘息が
以前にお知らせした件の、 受賞作をまとめた作品集が届きました。 春らんまん! かわいらしい表紙に心が浮き立ちます……! 担当者様方、審査員の皆さま、大変お世話になりました。ありがとうございました! 書いたものが本に載るとは、身が引き締まりますね。 書いている最中には「なんかたらたらした文章やなぁ」とか「しまりがないな」とか「ぐずぐずしてらぁ」とか、もっとスッキリしたスマートな文章を書かねば、とかとか思いますが。 公募を目指した作品とあり、何度も推敲して整えは
⚠️ダンゴムシを真っ二つにしてしまった話です。 ⚠️ネットで検索した虫や解体のスクショ画像あります。 ⚠️虫が苦手、内臓が苦手な方はブラウザバック! 療養から解放された息子のにっとは、引きこもり生活にうんざりしていた。 軽く「お散歩行く?」と聞こうものなら「行く!」と即答、光の早さで支度を済ませて駆けていく。 近所の桜スポットへ向かう。 老若男女がわやわやと淡い春色を見上げ、足を止めている。にっとも急に足を止めた。上ではなく、下を向く。後ろを歩いていたキャップのお
四月になり、新生活だ進級だ進学だと世間が騒がしい。 新たな一年のはじまりに合わせ、新しいことをはじめる人もきっと、多くいるのだろう。 過去にとてもお世話になった競輪選手の武井克敏さんが、パーソナルジムを開設されました。 名古屋周辺にお住まいの、体を動かしたい方はぜひ。とても気さくで楽しいトレーナーさんだから、気持ち軽やかに運動できるはず。元アスリートさんならではの、変わったトレーニングメニューもあり、目新しい気分で運動できそう……! 実際に武井さんに体のことや栄
「えっ、磯っこ、閉店したの!?」 お風呂がわくまでとソファでぐうたらしていた夕食後。いとこのSNSを目にして、思わず叫んだ。 「なんだ、どうしたんだよ」 ダイニングテーブルでぼんやりスマホいじりをする夫が、とりあえず形だけという抑揚のなさで問う。 「青森のばあちゃん家の近くに食堂があったでしょ、磯っこ。閉店したんだって」 わたしの母は青森県のまさかりの上部分出身で、子供の頃の夏休みには毎年帰省したものだ。年の近いいとこたち、おおらかさが海のような祖母、頑固なが
わたしがわたしとして、母でも介護職員でもなくひとりの人間として自分を大切にするために、 今年の目標として「じぶんケアプラン」を立てた。 二月はやりそびれた。三月分をセルフモニタリングする。 ①長期目標 2024年1月6日~6月30日 家具、家電の見直しをすることで、片付けやすい、掃除しやすい住宅環境を維持し、ストレスなく清潔に暮らす。 ▼一部達成 収納家具、掃除機をネットで注文した。まだ届いていないし、発送通知もこない。ネット通販は利用者が多かったり、業者も
息子がお腹にいるとき、名前について考えると、植物の名前ばかりが脳裏をよぎった。 やなぎ、れんげ、つつじ、つばき、つくし。柳の木がそよぐように、しなやかな立ち振舞いで生きてほしい。こうじ、けんじのつもりでつつじ。昔読んだ漫画の主人公の双子の片割れくんが「椿」だったから、男の子でも似合うはず。などなど。 植物に目を向けた人生を歩んできたわけではない。マタニティーハイなのか。尊いいのちの集まりで、地球が回るのを感じていた。 一歳を過ぎて乗り物好きに目覚めるまで、息子は花が
お久しぶりです。 イキって口だけ達者でなにもできていない。やーもうびっくりするほど二月半ばからグロテスクな具合でした。今度こそもうだめだと思いながらも、なんだかんだ調子が戻ってきたので、また文字も書くかと気力がわいてきた。 「人間の体って、動かさないと錆びるんだって」 以前勤めていた認知症グループホームで聞いたこのフレーズを、どういう仕組みで、とか全部頭から抜けているけど、いまの勤務先のデイサービスでよく利用者さんに話している。たいていみんな「らしいね。がんばらな
いつもより一時間遅く起床した日曜日。わたしとにっとは、布団でうだうだ話し合う。 「にっとさん、今日は公園に行く? おうちでおやつ作りする?」 「うーん……電車だな」 近場でのんびりという計画は、四歳男児の頭にはないらしい。 以前の電車旅でのやり残しもあるため、 名古屋駅前のねじねじが本当になくなったさまを確認しに行こうか。 「名古屋はちょっとおれ、やめときたいな。人だらけで疲れちゃう」 そうかい。 とりあえずいつもの最寄り駅から名鉄に揺られ、いつもの
お知らせのような記事が続いて失礼します。 このたび、第一回美郷文芸エッセイ賞にて入選をいただきました。 改名してからの初入選に、思い出深いエピソードのエッセイを選んでいただけて、選考委員のみなさまに感謝の気持ちでいっぱいです。 美郷町についても調べてみました。とてものどかで自然豊かで、肩の力が抜けるような心地よさを抱きました。インターネットで調べただけでこんなに安らげるのなら、はたして現地はどれほどゆったりした空気に満ちているのか……! 実際に行ってみたくなり
表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより __________________ 朝の六時にどうにか布団を抜け出して、冷蔵庫の中身を確かめる。肩がフェイスラインにくっついたまま、頭はまだ回らない時間帯。 今日は夫のろうすは休日だけど、わたしとにっとは普通の平日。パートに行くし、保育園に行く。 保育園は給食があるからいいとして、わたしの弁当はどうしたものか。
ありがたいことにちょこちょことフォロワーさんも増え、どんな記事にもスキを押していただけています。励みになります。ありがとうございます。 こちらからもいろんな方のnoteを読むようになり、いろんな活動や作品発表の手段を知りました。 するとですね、欲深い人間なもので。「わたしもやってみたい!」と興味がわくのです。 すっぱり言ってしまうと、文学フリマ、やってみたい。 そもそもの「小説書き→エッセイ書き」に方針を切り替えたのも、エッセイの方が得意かもと気づき、どこまで
表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより ――――――――――――― 二月三日は節分だ。 年々豆をまく人は減少傾向にあり、恵方巻を食べる人は増えている、というデータがあるらしい。テレビでアナウンサーが話している。
表紙は「かんたん表紙メーカー」さまより __________________ 平日のどたばたに身を任せるうち、夜も九時になっていた。夫のろうすはとっくに自室で夢の中。羨ましい。 息子のにっとはパン屋さんになりきり、ちょこまか忙しそう。寝室に駆け込んだところで強制的に消灯したが、 「パン屋さんしたかったのに!」 大げさな声量で悲しみを訴える。 「真っ暗でもパン屋さんはできるよ」 母の言葉に、ぴたりと泣き止む。 「真夜中のパン屋さんって知ってる?」 暗闇に