花(有料日記)
息子がお腹にいるとき、名前について考えると、植物の名前ばかりが脳裏をよぎった。
やなぎ、れんげ、つつじ、つばき、つくし。柳の木がそよぐように、しなやかな立ち振舞いで生きてほしい。こうじ、けんじのつもりでつつじ。昔読んだ漫画の主人公の双子の片割れくんが「椿」だったから、男の子でも似合うはず。などなど。
植物に目を向けた人生を歩んできたわけではない。マタニティーハイなのか。尊いいのちの集まりで、地球が回るのを感じていた。
一歳を過ぎて乗り物好きに目覚めるまで、息子は花が好きだった。と思っている。
花を見つけては凝視していた。手を伸ばして触れたがった。にっこり微笑み言葉にならないあいさつを交わした。「花の好きな男の子は優しくなるよ」散歩中に何度そう声をかけられたか。わたしの祖父母と似た歳であろう通りすがりのあの人たちは、みな目尻がとろけていた。
四歳になり、興味の矛先が「乗り物」一直線の息子。すずめとからすの違いがわかっていないのかふざけて間違えているんだか、いまいち判断がつかない。ハンバーグとオムライスを逆に覚えているのか、たまたま言い間違えただけなのか……危うい場面もちらほら見かける。
明後日から四月、春めく景色を散歩に出ると「あ! たんぽぽ咲いてる」すぐに春を見つけた。
「クローバーどこだ? あれはなずなだっけ? あ、あっちにでんげ。イヌフグリもあるじゃん! かわいいねぇ」
名前が出るわ出るわ。発音しきれていないもの、省略されているものもあるけれど、全部ちゃんと合っている。保育園の散歩で春見つけをしたからだろう。去年の春より、花の名前が多く言葉に出せている。
「園長先生が、さくらとももとうめのお花はどうして違うか、教えてくれたよ」
「へぇ、どこが違うの?」
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