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『龍が如く8』歴代主人公“桐生一馬”をガンに追いつめた核廃棄物問題とガチバトルした、とある島民のぼやき

『龍が如く8』のストーリーが考えさせられる


本作は、2005年に「大人向けのエンターテインメント」というテーマをかかげて制作されたゲーム『龍が如く』シリーズの最新作だ。
この記事を書いている時点で、全世界100万本の売上を達成する人気作で、裏社会をテーマにした重厚なストーリーが描かれている。

今回は、日本の離島“対馬(つしま)”に住む住民として身近な問題になってしまった核廃棄物問題と、シリーズ最新作『龍が如く8』がリンクしたシーンが見られたので、「現実とゲーム」をテーマにしたこのブログで思うことを書き残しておきたいと思う。対馬で起こったことの記録も兼ねて。

今回は、自分が住んでる島のおじいちゃんとおばあちゃんに向けても読んでもらうために、まず『龍が如く』がどんな作品なのかを知ってもらいたいと思う。

飛ばしたい人は、目次から読みたい部分にスキップしてほしい。

文/Tsushimahiro


※この記事は、『龍が如く8』のメインストーリーのネタバレが含まれていますので、まだプレイしていない方、ネタバレを見たくない方は注意してください。(桐生さんがガンであることは公式トレーラーで既に発表済みです)ただし、本編第5章までのプレイ環境となります。
桐生さんのガンの原因が、実はタバコの吸いすぎでした。みたいなこともあり得るのでご了承ください。

また、対馬や核廃棄物問題の裏で何が起きていたのか、わりと突っ込んだ部分を当事者として書くので、怒られたらすぐに消します。

出典:『龍が如く 極』最後の公式トレイラー(ストーリーPV)より

『龍が如く』が作られるまで


本作は、東京の歌舞伎町や福岡の中洲川端、広島や沖縄など、実際に存在する場所をもとに作られた架空の繁華街が主な舞台となっていた作品だ。

実在しているものをモデルにしているだけあって完成度は高く、ゲームをプレイしているだけで全国の繁華街めぐりができてしまうほどだ。

しかし、最初に『龍が如く』が発売されるまでの道のりは険しかったという。なんせ、本作のテーマは「大人向けのエンターテインメント」と言う言葉で覆い隠されているが、その中身は任侠もの

つまり……ヤクザや裏社会問題、社会風刺などをふんだんに描いた作品であるからだ。

出典:電ファミニコゲーマーより
出典:電ファミニコゲーマーより

そんな重厚でセンシティブな問題を描いた作品を、ポケモンやマリオが子供向けに大活躍しているゲーム業界に投入できるのだろうか?もちろん、並大抵ではない努力と執念が必要であったようだ。

上記の画像のように、『龍が如く』発足時の話は、そもそも企画段階でNOを喰らったり、倫理規定との戦いなど、さまざまな苦労があったことがゲームメディアサイト「電ファミニコゲーマー」で連載されていた漫画『若ゲのいたり』にて語られている。

出典:『龍が如く3』プロモーション映像より

『龍が如く』の主人公、桐生一馬


彼の物語は2005年から2024年になった今までずっと続いているので、ここでは概要のみ記しておく。

桐生さんは中卒で堂島組の盃を交わして成り上がり、「堂島の龍」として広く名を知られる男になる。彼は共に育った親友の錦山の殺人罪、しかも極道社会における禁忌「親殺し」の汚名をかぶり、錦山とその場にいた想い人である由美を逃がして10年の懲役を罰せられる。

出典:『龍が如く 極』最後の公式トレイラーより

出所した後の桐生さんを待ち受けていたのは混沌そのもの。由美は行方不明になり、錦山は組を持っていた。桐生さんは、由美の居場所を知る唯一のてがかりである少女の遥と出会い、大きく運命が変わる。

裏切り、抗争、激しい闘争の果て、大切な兄弟分を失った桐生は極道から足を洗い、天涯孤独となってしまった遥ちゃんの親として生きる道を選択する。

出典:『龍が如く3』プロモーション映像より

その後は、沖縄で孤児院を開いて遥ちゃんや身寄りのなかった子どもたちと平和に暮らしていた。色々と苦難もあったが、その度に拳や気合いでなんとかしてきた。

出典:『龍が如く3』プロモーション映像より

思い返せば、この時の桐生さんが一番幸せであったのかもしれない。極道であった自分が誰かに必要とされ、慕われ、頼りにされているのだから。
しかし、彼がヤクザであった過去は彼らの幸せをことごとく打ち砕く。

『龍が如く』シリーズの凄いところのひとつとして、裏社会に足を踏み入れた人間は、幸せなハッピーエンドを迎えることができないという部分をきちんと描いている点が挙げられる。

自分がいたら、遥たちの人生に迷惑がかかる。ついにそこまで追い詰められた桐生さんは、自らを“死んだこと”にすることを決意し、文字どおり子供たちの前から姿を消す。

出典:『龍が如く7外伝 名を消した男』ファーストトレーラーより

“伝説の龍”から、エージェント“浄龍”へ


こうして、桐生さんは自分の戸籍を消し、本当に死んだことにまでした“大道寺一派”に属す名もなき男となり、コードネーム“浄龍(じょうりゅう)”として、表の人間にはできない仕事をこなすことになる。

彼は裏の仕事をこなしつつ、『龍が如く7 光と闇の行方』にて新たな主人公をつとめた春日一番のサポートをしてみせた。

2020年には自分の墓所に墓参りにくる子供たちを隠しカメラで撮影した映像を見ることができ、もう自分がいなくても立派にやっていけていることが確認できると、咽びながら鼻水と大粒の涙を流しながら漢泣きした。

彼は、二度と彼らに会うことはできないのである……。ここで、「ヤクザは幸せになれない」というテーマを描いた『龍が如く6』から、「どんな人間でも、真剣にやり直すチャンスがあってもいいはずだ」と思える展開へとシフトされた。
そして、そのテーマは二人目の主人公である春日一番の「元・ヤクザをまっとうな仕事につかせてやりたい」という目的と見事に合致する。

それから桐生は長い休暇をもらい、2023年に最愛の想い人である亡き由美さんの指輪をハワイの教会にそっと捧げた。そして、その身は既に重い病に侵されていた。

シリーズ歴代の主人公がガンに。「誰かがやらなくてはならない」仕事とは


出典:パソコン版『龍が如く8』のゲームプレイ映像より

そして、最新作である『龍が如く8』で、桐生さんはハワイにて春日一番と合流し、自分がガンであることを告白する。余命は約半年、医者からは「なぜ、この状態で立てているのかわからない」というレベルの重体であった。

出典:パソコン版『龍が如く8』のゲームプレイ映像より
出典:パソコン版『龍が如く8』のゲームプレイ映像より
出典:パソコン版『龍が如く8』のゲームプレイ映像より
出典:パソコン版『龍が如く8』のゲームプレイ映像より

2020年。桐生さんは自らの意志をもって、「低レベル放射性廃棄物一時貯蔵施設」で働いていた。彼は施設内で発作を起こした男を救助するため事故に巻き込まれ、被ばくしてしまう。大量のドラム缶の中に入っていたのは、汚染された土や使用済みの防護服で、「ただちに人体に影響する数値じゃないってやつだ」と皮肉を言う桐生さんが物悲しい。

出典:『龍が如く8』の筆者ゲームプレイ映像より

桐生さんは、「あそこは今…… 誰かがやらなきゃならねえ仕事へまっさきに足を踏み入れる連中の世界だ」と言い、自分もそういう人間になりたい。と語る。

そう、彼の言う通り日本の一部の電力は原子力発電所がまかなっており、そこから出る廃棄物の安置所が確立されていないことが、現代で問題視されているのだ。

端的に言うと、棄てるごみ箱を用意せずに、放射性廃棄物が排出される原子力発電所を作ってしまったツケが、ついに回ってきてしまったのである……。

桐生さんの人生は、とても他人事とは思えない。


このシーンを見た時、筆者は2011年に起きた311を思い出していた。
2011年から数年後、独り身で金がなく、コンビニの求人誌を読み漁っていた筆者は福島での「除染作業」の求人を見たことがある。
そこに映っていた人物は、映画「アルマゲドン」のメンバーかと思わせるほど覚悟がキマっている眼差しでこちらを見つめていた。

2017年、筆者撮影。
2017年、筆者撮影。

そのとき、筆者は環境コンサルティング会社で下働きをしていた。仕事内容は多岐に渡るが、一番多い仕事が被災地の現地踏査……つまり、手ひどい災害が起きた場所の被害状況の調査や測量を目的としたお仕事だ。

砂防ダムが決壊して町が消滅した場所、火山が噴火した場所、地震でインフラが消滅した場所、土石流に流された場所、そして発電所……行く先々で、普段の生活では知ることのない、日本という国の裏や真実を目の当たりにしてきた。

2017年、筆者撮影。

非常に危険な現場に連続して出ることになったが、「誰かがやらなくてはならない」仕事をする場所だった。その土地ごとに、暴徒が発生する場所や、絶望する人々、前を向いて動き出す人、色んな人を見てきた。

こういった体験をしていた自分からすると、桐生さんの人生は、とても他人事には思えなくなった。

世界レベルの問題が、日本のはじっこにある離島対馬にふりかかる


出典:高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える公開講演会より。映像の撮影・編集は筆者

そして、2023年には日本の離島、長崎県の対馬に【原発の使用済み核燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場を誘致するための文献調査】の話が持ちかけられてきたのだ。
そう……桐生さんは低レベルの場所にいたが、今度は高レベルである。

これがどれだけヤバイことなのか端的に説明すると、核弾頭5万発分のプルトニウムが対馬に埋められる、ということだ。一本に広島原爆約30発分の威力があると見ていい。
これは、2023年に対馬で開かれた高レベル放射性廃棄物の地層処分を考える公開講演会」にて説明された部分のほんの一部だ。

しかし、それだけヤバイことなのに、対馬市の市議会議員はなんと半数以上が賛成した。その理由の多くが「交付金がもらえるから」である。

「交付金」じゃ対馬は救えない。必要なのは変えようとする意志


資料:筆者作成。ソース元は令和5年6月6日の対馬市議会より

……ところが、実は、対馬市の予算は令和3年度に56億もの基金を持て余している状態だったりする。これはおかしい。
基金っていうのは、いわゆる市の貯金みたいなもので、いざ、なんかあった時のためにとっておこう。みたいな感じで積み立てられているお金である。

使えるお金はある上に、2019年には年間40万人規模の韓国人観光客が訪れていた対馬に高レベル放射性廃棄物最終処分場なんて置かれたら、むしろせっかくの商売があがったりである。

しかも、対馬の水揚げ高は168億円。10%でも16億円ぐらいの風評被害が出ると対馬市長も公言している

おまけに、対馬市は40億円もかけて博物館を建てたのだが、その建設作業はほとんどが外注しているという負の歴史がある。

今回の話は高レベル放射性廃棄物最終処分場。地元の業者にお金が落ちる仕事がふられる可能性は博物館の事例を見ても考え難い。

「交付金で対馬の財政が救われるんだ」という考えは、日本の裏を見まくってきて、なおかつ地元に住んでガイドをしている人間からしたら大人がつくり出した幻想にすぎないということが断言できる。

お金は、一応56億ある。あとは、そのお金を使ってこの島をどのようにしていくか考える人間が必要なだけだとは思わないのだろうか?

なんでって、そりゃあ、対馬が美しいから。


筆者撮影。対馬の「城山」頂上からの風景。

そう断言できるようになった理由は、ここに来たお客さんが口をそろえて今の対馬の海や島々の風景が「美しい」と言ってくれたからだ。

もし、この記事をここまで読んでくれている人が都内にいるのであれば、想像してみてほしい。そこには、人工物が一切存在しない世界。空と、海と、大地が織りなす雄大な環境がまだ残っているのだ。

筆者撮影。浅茅湾の無人島からの景色。目の前の山のてっぺんが、さきほどの風景である。
筆者撮影。海辺でお弁当を食べることもできる。

春になれば温暖な気候となり、やさしい潮風に吹かれながら海をながめておにぎりを食べることができる。周りには誰もいない。対馬はそういう所だ。
ここは、自然環境を独り占めできてしまう日本の数少ない秘境だったりする。

あんまりいうと観光客が増えすぎてこの良さがなくなってしまうので、対馬のすばらしさを紹介するのは、ここらへんにしておこう。

デモって、実は手続きを踏めばできるんですねと理解


筆者撮影:デモ行進の前の様子

さて、この高レベル放射性廃棄物の最終処分場を誘致するための文献調査を巡る問題だが、結果的に対馬市長が議員の賛成多数を覆して反対してくれたことで、とりあえずは一息つけた。

しかし、この背景にはいろ~んなことがあった。「対馬に放射性廃棄物を埋めるなら漁師やめて対馬から出ていく」とまで漁師たちが叫びを上げる現場を、筆者は間近で見届けていた。

まず、対馬は約40年前に原子力船むつ寄港阻止闘争というできごとがあった。その時にデモ運動などを起こした人たちが結束し、新たに反対署名運動やデモ行進を計画したのである。

筆者は「若いから」という理由で、高レベル放射性廃棄物最終処分場の誘致に反対している数少ない市議会議員さんに誘われ、彼らに協力することにした。

主な作業は署名用紙の作成や告知ポスターのデザイン、届いた署名の確認、デモ行進の手続きなど。この署名には、募集からわずか一週間で1万7635筆、合計では2万人以上から署名が集まった。

ここは、いろんな政治家や活動家たちの思惑が渦巻く陰謀の坩堝のような状況で辟易したが、ひとつ勉強になったことでシェアしたいことは「デモ行進って警察に書類を通し正式に手続きをすれば法律的に認められる」ということだ。

もし、これをここまで読んでいる方がいて、自分の故郷が脅かされているのであれば、意志を持てばちゃんと状況は変えられるんだよ、ということを知ってもらいたい。やろうと思えば、対馬みたいに革命だっておこせるのだから。

出典:『龍が如く8』の筆者ゲームプレイ映像より

「誰かがやらなくてはならない」仕事がついにきてしまった


そこで、「対馬に埋められないなら、じゃあ核廃棄物どうすんねん」という話に当然なるだろう。

これこそ、人類全員で本気で考えなくてはならない問題だ。いまも、危険な状態で保管されているという現状なのは変わらないのだ。

低レベルでさえ、桐生さんが事故ってガンになってしまうくらいはヤバイ。
『龍が如く』という作品は、ゲームを通して警鈴を鳴らしてくれているのだと思う。

実際に対馬にも来てくれた人物で、この道40年のベテランかつ、はんげんぱつ新聞の編集長である末田さんは、講演会でこう語った。
「そもそも、処分できる方法が確立されていないのに廃棄物を増やし続けていること事態が問題だ。まずは発生を止めないと、話にならない。
 今の形で地層処分をすると、10年で漏れる。ヨーロッパ(外国の事例と地震大国の日本)とは環境が違うんです。
地上で管理・保管するしかない。これも危険だが、それしか選択肢がない。
なぜなら、そういうものを作ってしまったからだ。しかも、何万年も保管しなくてはならない。その時は、入れ物が劣化しないよう別の容器に詰め替える作業も必要になる」
と……。

まさに、桐生さんがやっていることである。この時に末田さんが語ったことこそ、起きてしまったことに対して誰かがやらなくてはならないことだ。

この記事が、桐生さんが命をかけてやろうとしてことについて考える機会になれば幸いだ。特に、対馬の方々に読んでもらいたいと思う。

そして、『龍が如く8』はさまざまな社会問題をテーマに「考えさせられる」ストーリーが展開されるので、ぜひプレイしてみてほしい。普段ゲームをプレイしない人でも遊べる作品となっているので、おすすめしたい。

そして、今のあなたに何ができるのか、ぜひ考えてみてほしい。

余談だが、2月3日は筆者の誕生日だ。そんな日に、いったい俺は、何を書いているんだろうか……(笑)


文/Tsushimahiro

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