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花火のような物語を。

ーーどれだけ報われない時間があっても、最後には大きな花が咲き、光を放ち、たとえそれが消えたとしても、いつまでも記憶のなかで印象が、心のなかで感動が残り続ける作品をつくりたい


人生は物語。
どうも横山黎です。

作家として本を書いたり、木の家ゲストハウスのマネージャーをしたり、「Dream Dream Dream」という番組でラジオパーソナリティーとして活動したりしています。

今回は「花火のような物語を。」というテーマで話していこうと思います。


📚思い出のドラマを再視聴

昨夜、『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』というドラマを再試聴しました。フジテレビで1995年に放送されたドラマで、岩井俊二さんが監督脚本を務めました。テレビドラマでは異例の日本映画監督協会新人賞を受賞しており、2017年には、これを原作としたアニメ映画も公開されました。

僕が初めて観たのはいつだったか覚えていませんが、父親が好きで、リビングで観ていたときに、僕も一緒に観ていたことだけは確かです。小学生の頃だったかな。

父親経由で知ったドラマは数知れなくて、僕の原体験になっているものが多くあります。『プロポーズ大作戦』『古畑任三郎』『ぼくらの七日間戦争』『ドラゴン桜』『未成年』……そのうちのひとつに、『打ち上げ花火、横から見るか?下から見るか?』がありました。

花火大会の日を舞台にした、典道となずなの淡い恋物語。小学生だからこそのやるせなさ、あどけなさ、もどかしさのようなものが、揺らめく花火の光に照らされて、美しく彩られています。彼らと同じ小学生の頃を思い出して、えもいわれぬ懐かしさに胸が痛む感覚もあり、それもひっくるめて、僕の大好きなドラマなんです。


📚瑞々しい青春世界

あの時代を生きていたわけじゃないし、田舎に住んでいたわけでもないから、あの頃の田舎の教室のなかにどんな空間があり、どんな時間が流れていたのかは分からないけれど、『打ち上げ花火~』で展開されていたように、どうしようもなくしょうもなくて、それでいて愛おしい空間と時間が存在していたんじゃないかなと思います。

小学生が駆け落ちなんて言葉を使ったり、それに手を伸ばしたりして、大人の世界に触れようとするんだけれど、その先にどんな世界が待っているのか分からない。クラスメイトのひとりを目で追ってしまう理由も、きっとそれが好きってことなのかもしれないけれど何故か逆張りをして心無い言葉を言ってしまう理由も、あの頃の僕らには分からなかった。もちろん少しは大人になった今でさえその輪郭を確実に捉えきれていないのだけれど、10年も前の僕はもっと分からなかったんですよね。

分からないからこそ大胆に冒険に出かけるし、分からないからこそ考えるよりも前に言葉にする。そんなことを繰り返しているだけで楽しかったのが、小学生という季節でした。

『打ち上げ花火~』ではまさにそんな季節があきれるほど真っ直ぐに描かれていて、大人になればなるほどに眩しく映る物語が展開されます。いつ見ても僕は、終盤のプールのシーンに心惹かれるんですよね。

夜の学校に忍び込んで、墨汁のように黒く見える水のたまったプールで、典道となずなが泳いだり、水を掛け合ったりしている。性愛でもなければ、恋愛でもない。かといって友情でもない、もっと純粋な何かでつながっているふたり。そんな水のような関係に、僕は胸にくるものがあるんです。

最後にはなずながゆっくりと泳ぎながら典道から離れていきます。その様子をじっと見つめる典道の背中が映し続けて、プールのシーンは終わるんです。シーンが終わりに近づくにつれ、水面のきらめきが増していって、なずなの姿はぼやけていき……2学期にはもうなずなはいないことを暗示するかのようで切ないんですよね。

そして、何となくそれを分かっていて、言葉にならない寂しさに動けずにいる典道の背中が、その切なさに磨きをかける。さらに、BGMとして流れている「Forever Friends」という楽曲のメロディーが、歌詞がふたりのことを物語っているように聴こえて涙ものです。


📚花火のような物語を

先日の『サマーゴースト(花火をしていると現れる幽霊の物語)』のレビューのときも同じように熱く語ってしまいましたが、どうやら僕には花火というものに対する崇拝、憧憬、理想があって、それを誠に上手く取り扱ったコンテンツには無条件降伏してしまうきらいがあるようです。

暗くて闇が広がっていたところに、一瞬で光が放たれて、世界を美しく染めていく。そんなドラマチックな存在を、僕が嫌いなわけがない。ただ、そういった「物」としての魅力だけじゃなくて、「取り合わせ」としての魅力も十分にある。「一瞬で咲いて一瞬で散る」という要素に「人生」「失恋」を取り合わせたり、線香花火がちりちりと燻っている要素に「未練」を取り合わせたりできる。ドラマチックな物だし、ストーリーを内包する題材だからこそ、僕は花火に惹かれて止まないんです。

また、創作に向き合うなかで、花火のような物語をつくりたいという思いもあります。どれだけ報われない時間があっても、最後には大きな花が咲き、光を放ち、たとえそれが消えたとしても、いつまでも記憶のなかで印象が、心のなかで感動が残り続ける作品をつくりたいと思っているんです。

『打ち上げ花火~』が何年経っても僕のなかで生き続けているように、自分もそんな作品をつくりたいと切に思っているんです。

実際、僕は今、謎解きイベントの物語をつくっているんですが、その題材に選んだのも「花火」でした。『花火の幽霊』と題して、次の作品をつくっているんです。そういう文脈で、『打ち上げ花火~』を観たくなったというのが正直な話です。僕の原点ともいえるドラマに立ち戻りたくなったわけです。

おかげさまで『花火の幽霊』の制作はだいぶ前に進んでいる感覚があり、話がまとまるまではあと少しといったところ。誰かの心に感動を打ち上げられるように、引き続きつくっていきます。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20240529 横山黎




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