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炭酸ソーダの水荘|交換日記

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世界の終りと平成ノート・ワンダーランド|平成最後の五月雨が降る日、僕らは遺書みたいに濡れて空を見る。これは、僕らが書く交換日記だ。|ツイッターの文章書き達がnoteで描く珠玉のエ…
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記事一覧

交換日記2(8)宝石の世界

交換日記2(8)宝石の世界



今回の実習でわたしは精神疾患を抱えておられる患者様と出会いました。

その方は周囲の人間に対しとても敏感にストレスを感じられる方でした。でも何かあったときすぐに言われる「私が悪い」。被害妄想だと看護師さんは言われる。でも悪いと感じる事は悪い事じゃない、妄想だと思われるのは理由があって、まず妄想とは訂正不能で強固な自信をもっていること。そしてそれが事実とは異なるから問題視される。

彼女はわたし

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交換日記2(7)宝石の輪郭

交換日記2(7)宝石の輪郭

<2周目のお題「宝石の」>

1周めのとき、私は交換日記には向いていない、と言ったのだけれど。気にしなくてもいい流れにはなっている。ただ、安心しつつも頭を抱えているのが、今であったりもする。

美しいものは美しいものとして、躊躇いも気兼ねもなく憧憬を向けていたい。
それは例えば花であり、それは例えば宝石だ。誰のために咲くのでも、誰のために光るのでもなく。他でもない自身のために美しくある。誇りであり

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交換日記2(4)宝石の反射する鈍角を

交換日記2(4)宝石の反射する鈍角を

<2周目のお題:宝石の>

失う覚悟をなさっていてください。

そんな言葉をつむがれて、ならばしてやるからやり方を教えてくれよ、と思ったのだった。覚悟だなんて、しても仕方ないだろうと思ってしまう。誰かが死ぬための準備なんて、そんなもの。

誰かが消えてしまうのは淋しい、それは何かで補えるわけではなくて、たくさんのものを奪われるだけだ。それなら、覚悟などせずに、いつのまにかぽっかりと奪わ

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交換日記2(3)宝石の夜間飛行

交換日記2(3)宝石の夜間飛行

<2週目のお題「宝石の」>

空を飛びたいと思い続けて三年が経った。
人間の世界では、僕達をパワーストーンと呼ぶらしい。季節の名前がついた、ほっぺにちいさな星の砂を散りばめた女の子に、僕は拾われた。
長閑な田舎の広々とした空、犬を連れて歩く小綺麗な住宅地、この季節の朝には庭に野鳩がやって来てご飯を探す。玄関に飾られた沢山の花達。白い一軒家。女の子の名前は、春子。十四歳。中学生。

春子は学校という

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交換日記2(2)宝石の涙

交換日記2(2)宝石の涙

<2週目のお題「宝石の」>

哀しくて、泣いた。
あなたのように涙は流れなかったけれど。
ころころと転がって、地面に落ちた粒。
拾い上げたそれは、情けないほどに美しかった。
それはどこか、あなたの吐いた花に似ていて、
だからつまり、
哀しさが美しさに昇華される様が、
酷く、切ないのだった。

防衛機制の一つである、“昇華”という言葉。
社会的に実現不可能な、反社会的な欲求を、別の、より高度な、或い

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交換日記2(1)宝石の鍵

<2週目のお題「宝石の」>

ある国の宝石の指輪は、手に入れた人が次々に死に絶える曰く付きの指輪だった。その指輪の持ち主であった王女は、裏切りの末に血縁にあったものに殺され、無念の宿った指輪は、次々と身に付けたものに不幸を授けている。

宝石には意味があるらしい。花言葉に意味があるように、誕生石に種類があるように、石にも効能や解釈があって、その中でも特に希少な石については、この世の中でも最上位の価

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交換日記(12)世界の終りと孤独を愛してみたい

交換日記(12)世界の終りと孤独を愛してみたい

〈1週目のお題:世界の終りと〉

考えごとをするのは、決まって夜。誰もが寝静まり、車が道路を滑ってゆく音もなく、聞こえるとしたら規則正しいわたしの呼吸音と秒針だけ。夜はいつだって平等で、静謐な空気を纏っている。

夜だけは、誰もが死んでいるような気がした。家族がみなベットで深く眠りに沈んでいるとき、わたしだけが生きていた。世界から切り離されたような、背徳感、わたしは本当にそれが好きだった。

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交換日記  (10)  世界の終りと点線

交換日記 (10) 世界の終りと点線

<1周目のお題:世界の終りと>

五月雨の降る、淑やかな夜明け前の事だった。

街々を雨が洗い流す祭りが、窓際という私のちいさな世界では催されているらしい。
その硝子窓二枚分の、ちいさな世界は、雨垂れのオルゴールのなかで、静かに目をとじて、青いトタン屋根や並木道の新緑達、路地裏のゴミ置き場で身体を丸めた野良猫も、雨を感じているのか涼やかな空気からじわりと肌に伝わってくる。

イヤフォンから垂れ流れ

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交換日記(9)世界の終りと始りの日記帳

交換日記(9)世界の終りと始りの日記帳

交換日記。懐かしい響きだ。小学生の頃から仲の良かった友人達と、途切れ途切れながらも続けていたそれは、中学生になって勉強や部活動、新しい人間関係に忙しくなった私達の習慣から、自然と存在を消してしまった。思えばそれも一つの世界の終りと言えるのではないだろうか。

始りは、私が買った交換日記帳だった。何故、それを買ったのかは、今となっては定かではない。恐らく、当時流行っていて好きだったキャラクターが描か

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交換日記(8)世界の終りとその先の素敵

交換日記(8)世界の終りとその先の素敵



去年の夏に出会った患者様の話をしても良いですか

その方はね、目が見えない方だった。
そしてその患者様は素敵なことばかりをいう方だった。
「目が見えないから耳や鼻がよく効くようになった」「不便ではあるけれど、ちっとも不幸じゃないわ」「私は沢山幸せになれた。あの人(旦那様)のおかげでね、」って笑ってくださる方。

ある日に私と患者様で好きなものの話になった時に「春が好き」と答えられた。風が1番気

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交換日記(7)世界の終りときみを待つ夏の銀河について

<1周目のお題:世界の終りと>

二十一世紀とは、フード・コートに散らばる紙ナプキン。あまりに多くの植物繊維を燃やした僕たちの隙間で、「終末」というのもやはり空回りするのであったが、何にせよ臨時ニュースは虚構性を以って博多口に立ち尽くすのみである。

僕はこの駅の、とてつもないクロワッサンの悪臭に辟易する。外来種のパンが発する子猫の擦り寄りにも似た香りは、僕らを動物愛護的な感傷に浸らせようとするの

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交換日記(5)世界の終りと光れないふり

交換日記(5)世界の終りと光れないふり

<1周目のお題:世界の終りと>

どうやらずっと、暗やみは光れないふりをしていたようだ。

網戸を残したまま窓をあけると、べりべり、と剥がれるようにして隙間ができた。夜中の三時のこと。わたしの部屋の北側の窓は大きな国道に面していて、まったくの深夜にもかかわらず、車がまばらに走っていた。みんなこんな時間にどこに行くのだろう。ごうごうとした音には似合わない微風が吹きつく。胎児が羊水のな

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交換日記(4)世界の終りと幸福論

交換日記(4)世界の終りと幸福論

<1周目のお題:世界の終りと>

炭酸の淡く弾ける感覚と
繰り返し寄せるさざ波の気配と
ひそやかに浮かぶ月の呼吸と

さて。
世界の終わりについては、かつて創作っ子のシュガーとハニーに語らせたことがある。それ以外にも、何度か言葉書きのモチーフとして手に取った。世界終了同盟という響きも懐かしい。

『ねぇハニー』

『なぁにシュガー』

『たとえば明日世界が終わるなら、最後の今日をどうし

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交換日記 (2) 世界の終りと君と夕焼け

交換日記 (2) 世界の終りと君と夕焼け

<1周目のお題:世界の終りと>

「明日世界が終わるなら、あなたはどうする?」

実にありふれた、もしも話の定番。あの頃の私は、「会いたい人に会いにゆく」と答えていた。会いたい人ってなんだ。そもそもそんな行動力なんて持ち合わせていないだろう。今でこそそんなことを言いたくなってしまうけれど、当時まだ夢見るロマンチスト思考を抱えていた私は、平然とそんな答えを口にしていた。

人との関係

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