夜明ユリ

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夜明ユリ

Xアカウント(@yorugaowaru1218)夜明ユリ Xアカウント(marble1218)ユリイカ のふたつです。

マガジン

  • 炭酸ソーダの水荘|交換日記

    • 22本

    世界の終りと平成ノート・ワンダーランド|平成最後の五月雨が降る日、僕らは遺書みたいに濡れて空を見る。これは、僕らが書く交換日記だ。|ツイッターの文章書き達がnoteで描く珠玉のエッセイ集|#交換エッセイ集

最近の記事

ゴースト・キス

俺には名前がない。だって死んだから。 所謂、ゴーストってやつだ。 神様とやらに、名前の記憶を消されたんだ。 それでも。ナナのことは覚えていた。 ナナは、俺を愛していた。 ラブレターを二通貰った記憶がある。 一通は、星の欠片が喉に刺さった王様の物語だった。どうやら、上手く気持ちを表現出来ないから、物語で想いを伝えたのだろう。面白い物語だった。字は震えていて、下手くそだったけれど。 もう一通は、身体が悪いことが書かれていて、思うように動けないこと、行きたいところがあっても、なか

    • slowmotion

      イヤフォンを耳から外した途端、なだれ込む街の喧騒が私の胸ぐらを掴んだ。 チッと心の林檎が舌打ちをする。あれ。私の心、赤かったっけ。そんなの誰も知らねぇよ。 人混みが大の苦手で、胃袋に住むおくすりに縋りついて、なんとか正気を保っている。 夏の終わりかけの風の匂い、なんてこの街にいる人間には分かる筈もないのだろうな、と齷齪しているスクランブル交差点をぼんやり眺めていた。なんで私はここに居るのだろう。 いつの間にか、私はひとり、あてどもなく歩き始めていた。耳にはイヤフォンをして

      • 夜明けのラッキーセブン

        無性にコーラが飲みたくなった。 時刻は午前3時46分。マモルは財布の中身を覗き、小銭を確かめる。100円玉が3つと、50円玉が1つあった。履き慣れた黒いコンバースを忙しなく履き、玄関のドアを開け、鍵をかけた。 マンションの階段を静かに降りると、夏の終わりの風の匂いがした。生温く、些かせつない匂い。 寝静まっている街に、てんてんてん、と蛍火のように明かりが見えた。 月は気まぐれに、雲間から見え隠れするばかりだった。 マンションの真下にある自販機の前で立ち止まる。 自販機にも

        • やさしくない天使と気弱な悪魔

          ああ今夜も ぎらつくアイシャドウの夜の街 やさしくない天使の白いコンバースに 白い蛾がとまったりしている 色とりどりのカラースプレー 壁に落書きしたら やさしくない天使の羽に飛び散った光 きらきら濡れていた ああ今日も まっさら過ぎて悲しくて眩しい夜明け 気弱な悪魔の黒いコンバースに ちいさな蟻が上ってきたりしている 舐めかけのチュッパチャプス 蟻にあげたら 気弱な悪魔の角も垂れ下がって やわらかにふやけた やさしくない天使が歌う ロックンロールと 気弱な悪魔が弾く 繊細

        ゴースト・キス

        マガジン

        • 炭酸ソーダの水荘|交換日記
          22本

        記事

          青いタンゴ

          ムーンシャワー浴びて銀色になった髪を揺らした こびりついた魔法があなたの靴には宿っているね だからあなたが歩くたび聞こえるキーチェーンも この世界を揺するみたいに奇跡の音色がするんだ 放し飼いの星々が集まってないしょ話している 夏の木陰隠れてくちづけしたことを思い出してる あの青いひかりの無数の木洩れ日たちが泳いで 強い風に誘われてひかりの飛沫をあげていたこと 青いタンゴ! 青いタンゴ! 踊りながら流れる目つきは 一筋の流れ星 青いタンゴ! 青いタンゴ! リズムの海へ溺れ

          青いタンゴ

          夏の小瓶

          生まれ変わったのと 今年の夏が微笑んでいる うわの空の金魚も 溶けたアイスも 扇風機の眠たい音も 夕立のあとのあどけない虹も ふやけたアスファルトを歩けば 風鈴が物静かに鳴った 蝉時雨を通るとなぜだか 神隠しにあったような 気持ちになった 夏のはじまりは もうすでに 夏のおわりの匂いがして 慌てて夏の小瓶にぜんぶ詰めたんだ 青と白の空から陽射しが手を差し伸ばしていた 握り返したらぜんぶぜんぶ嘘だったみたいに 消えてしまうんだ 銀河鉄道の匂いがする夏の小瓶 少しかなしい夜

          10月のサンタクロース

          どこかさみしいところへ行きたい 10月のサンタクロース そこはかとなくエヴァーグリーンの草原の匂い 枯れ葉のあたたかな温もり 紅茶の眠る音 空を悠々飛ぶ飛行船 真夜中に聞くとおくとおくの列車の音 パズルピースひとつなくした そんな気分でトナカイの毛並みを撫でている 冷えた夕風ゆらゆら吹いて 真っ赤な落陽が心臓のようで 10月のサンタクロースの涙の粒がひとつぶ パンジーの花びらに落ちていった ウイスキーこぼしながら昔の恋人を思い浮かべる 10月のサンタクロースの悲しい気配が 古

          10月のサンタクロース

          ありったけのこれっぽっち

          しずかにひとをあやめて 見渡す星空は 砕けた鏡みたいに 星がぜんぶ落ちてきそうな そんな あたたかな 光だったか なみだにうつる ヘッドライトが 強い眩暈のように ぐるぐる回転している 僕の 体温は 青い熱だったか ラベンダーの匂いがする なんだか懐かしかったんだ 悲しいくらい 優しい匂いで こじんまりとした駐車場に野良猫 僕はありったけの これっぽっちしかない優しさで その野良猫を撫でてやった 最後くらい 優しい日でいよう 最後くらい 優しい人でいよう

          ありったけのこれっぽっち

          野良猫の足音

          野良猫が走っていく足音は 宇宙のメロディとおんなじなんだ 月の匂いに誘われて走ってゆく とぐろをまいた雲がぐるぐる流れて 野良猫は澄んだ目でそれを見上げた 野良猫には終わらない野心があって 白い牙と果てしない嗅覚で辿り着いた 銀色の森深くにある湖で水を飲むんだ その先にある向日葵畑で眠る為に 虹色の光を帯びたコガネムシを食べて 毛並みに夜明けの風を染み込ませる 耳をよおく欹てて朝焼けの中 鳥の囀りを記憶する ずっとずっと途方もないままだった ただそれがとても居心地いいんだ

          野良猫の足音

          キッチンと月夜

          真夜中、家族が寝静まり返った頃。君と私は、遠くの月を違う場所から眺めていた。私はキッチンの窓から。君は忍び込んだ学校のジャングルジムのてっぺんから、同じ月を見上げていた。無言のままなのは、月を見あげている証だった。 すると君はぽつり、と小さな声でこう言った。 「ムーンリバーって曲、好きなんだ。」私は聞き返した。 「オードリーヘップバーンが歌っていた曲?」 「そうさ。」とまた小さな声で君は言った。 それからというと、私たちはお互いムーンリバーの曲を着信音にした。君から電話がかか

          キッチンと月夜

          ぴかぴか新緑一年生

          野生のスミレが居眠りしている ハ長調の陽気な曲に包まれて 学校はゴールデンウィークで休みだから 木洩れ日もうんと伸びやかにしている 無数のひかりの泡 キーンと透き通るひかりの音が鳴り響く ぴかぴかの新緑一年生 勉強も宿題も初めてなんだ 苦手な科目は嵐の日の過ごし方 強風から身を守る勉強かなぁ 4つ葉のクローバー‪になれなかったって 3つ葉のクローバーは悲しげにしている モンシロチョウはそっと励ます 足りないことはすてきなことよって あたまのなかの花畑 わあわあはしゃいでちょい

          ぴかぴか新緑一年生

          てんとう虫と青いアネモネ

          駅のホームでぽつん、と花が咲いている 母の姿は、青いアネモネ 澄みきったかなしみが身体中に染み込んでいる 帰郷した日にはいつもあたたかな炊き込みご飯 ずっと変わらない味を噛みしめる こころのぶらんこをやさしく揺すってくれる お見送りをしてくれる青いアネモネの ちいさな肩に風が吹いていた わたしの目は視界が震えていて またいつでも来なねと微笑む目尻の 皺は桜色をしていて また春になったらねと精一杯微笑む わたし達の頭上は今にも雨が降り出しそうだった 発車時刻三分前の光と影を胸に

          てんとう虫と青いアネモネ

          よおく見てごらん

          水平線をやさしく結って 国境を飛ぶ空色の手紙 みんな水飛沫みたいに 空中で遊んでいる 夕刻の浅い波間で 海を渡ろうやさしい歌で 海底の魚も踊るくらいにさ まあるいびーどろ そんな星に生まれたよ よおく見てごらん 海の色は何色 お絵描きした指は何色 争いのなか手を洗う水は何色 握手した手は何色 今日の空は何色 道端の花は何色 食べた料理は何色 涙は何色 眠りにつく時の部屋は何色 夜明けの空は何色 恋人の瞳の色は何色 昨日のこころは何色 今日のこころは何色 へいわって何色?

          よおく見てごらん

          swing fish

          薄べったい風が吹いている汗っかきの五月 ジグザグ運転で転げ落ちた夢見がちな魔法使い アイボリーの雲も色褪せず祈っていた あの木陰のシロツメクサが待ちぼうけしている はるか彼方の夢を編んだよ 固結びの悲しみも一緒にね 疲れ顔の君の泪のエンドロールを探していた 同じ名前が流れてきたらきっと叶うはず 届きそうで届かない引っかかった風船 よじ登って取ろうとしたら 飛んでいってしまうみたいに 何処までも 広がってゆく 何処までも 澄んでゆく 彩る青を内側に秘めた この胸に泳ぐ魚を見て

          見ず知らずの人に怒り散らすくらいの 傷口が痛みさらす人間のはけ口を 嘲笑する人間の目は虚空で空虚に飛ぶ鳥を 見逃して 鳥の羽ばたきに夢見がちな 少年の硝子玉みたいな眼差しは割れかかって 今にも羽根が生えそうで ちいさな風でも吹っ飛ぶ種子のような春の息には 泪さえも零れないが 爆発ばかりが起こる世界の映像には 泪と赤い血液が流れている人間が 心を攫う春の夜風に追い越されて 桜吹雪の中を歩いて遠くに行きたがる さようならするにはあまりにも暑過ぎる春で 窓からしか眺められない桜の

          カエルのお留守番

          時も忘れてしまいそうなくらい 長い長い雨が降り注いでいます 一匹のちいさなカエルは 睡蓮の葉っぱを雨傘にして お留守番をしていました 辺りは一面睡蓮の花々が しとやかに咲いていて 仄甘い香りがカエルの鼻先に ほんわり漂いました おなかのすいたちいさなカエルは ぐうぐう鳴るおなかの音が恥ずかしくて ケロケロと鳴いて おなかの音をごまかしたりしました とおくへご飯を探しに行った 父さんカエルと母さんカエルは まだまだ帰って来ませんでした 雨雲に覆われた だだっ広い灰色の空

          カエルのお留守番