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交換日記2(4)宝石の反射する鈍角を

<2周目のお題:宝石の>

失う覚悟をなさっていてください。

そんな言葉をつむがれて、ならばしてやるからやり方を教えてくれよ、と思ったのだった。覚悟だなんて、しても仕方ないだろうと思ってしまう。誰かが死ぬための準備なんて、そんなもの。

誰かが消えてしまうのは淋しい、それは何かで補えるわけではなくて、たくさんのものを奪われるだけだ。それなら、覚悟などせずに、いつのまにかぽっかりと奪われたい。見慣れた川沿いを歩く帰り道のような日常の途中で、ぼやっと。ふいに消えるような軽やかさで。そう願う私は、やはり愚かなのだろうか。

そんなことを考えながら、部屋の中をひっくり返して、探しものをしている。

そのうちにいなくなってしまうらしいあなたと一緒に行ったゲームセンターで取った、おもちゃのダイヤモンドの在り処がわからなかった。

本物だと信じて毎日磨いていた、ガラスの宝石。いつか観たテレビ番組で、ダイヤモンドは傷がつかないと知って、自分の傷だらけの宝石が偽物なのだと絶望した。それからは磨くことも眺めることもしなくなって、部屋のどこかの引き出しにしまわれた、ちゃちな宝石。

いつか。そう遠くない未来に、あなたの在り処もわからなくなる。きっとあなたの声を思い出すこともなくなって、思い出せなくなって、生きるために過去を手放してしまうのだろう。その前に、あなたとの思い出くらいは見つけ出して、手のひらに握りしめていたかった。

正八角形を支える線が集まる鈍角をなぞって、あなたの幸福を願いたい。透明が溶け込む角度に頬を寄せて、鈍角に反射する光に、あなたの眼差しが光ればいい。

鋭角なんてするどいものは、やさしすぎるあの人には似合わないだろうね、と、ひとりでしとしとと笑い続けた。

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