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交換日記(12)世界の終りと孤独を愛してみたい

〈1週目のお題:世界の終りと〉


考えごとをするのは、決まって夜。誰もが寝静まり、車が道路を滑ってゆく音もなく、聞こえるとしたら規則正しいわたしの呼吸音と秒針だけ。夜はいつだって平等で、静謐な空気を纏っている。

夜だけは、誰もが死んでいるような気がした。家族がみなベットで深く眠りに沈んでいるとき、わたしだけが生きていた。世界から切り離されたような、背徳感、わたしは本当にそれが好きだった。

宇宙人は信じるタイプだけれど、幽霊は信じていない。それなのに、夜の暗闇はやっぱり怖い。なにも聞こえなくなったせいか、家の階段から足音が聞こえてくるような気がする。どうやってわたしを驚かせようか、くすくす笑いながら、彼らは機会を狙っているような気がする。そんな妄想をしていると、やっぱり魂は21グラムあって、幽霊たちはその21グラムを擦り減らしながら死んでいるけど実は生きているのかな? なんて思ってしまう。

それから臆病なわたしはテレビをつける。

もし、世界が緩やかに終焉を迎えるとして、不運なことにわたし独りが生き残ってしまったら? そんなSFを、今日の夜も眠れないから考えてみる。

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朝起きたら、全世界が暗黙の了解で心中していた。わたしだけがなぜかぽつんと置いてけぼりにされた朝。もちろんテレビも映らない。

誰もいない地球は、朝も昼も夜も、あまりに静かすぎて、「おはよう」「おやすみ」さえ誰にも言えなくて、眠っているのか、起きているのか、それとも死んでいるのか、自分じゃ分からなくなる。

太陽ばかりが眩しくて、名前も知らない誰かのお墓を作る毎日。21グラム×70億人の渦巻く魂を、弔い、星空に返す度に身体が重くなってゆく。

鋭い朝の紫外線はわたし一人に突き刺さり、夜は暗闇と静寂に放り出される。無数にある21グラムの魂は、わたしを見守るだけで、助けてはくれない。

人は独りじゃ生きてけないから。

使い古された言葉。そんなことないって、強がっていられたのは、わたし以外の誰かが常に生きていたからじゃないか。

わたしは本当の意味の孤独を知らなかった。

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身勝手な妄想話を長々と書いてしまったけれども、そう考えると、やっぱり世界の終りは突然がいい、そして尚且つ一瞬であってほしい。

ぱんっ、静かな部屋でいきなり蚊を潰すみたいに、為す術もなく、世界もそんなふうに一瞬で、終わってほしい。

そうしたら、わたしもあなたも世界の終末なんて知らぬ存ぜぬ、穏やかな朝を迎えることができる。

朝起きて、テレビをつけてから、ぬるい牛乳を飲み干す。

夜、寝る前に小説を読む。

たまに夜更かしして、考え事をする。

そんな透明な日々を愛していられる。

最期の最期まで、そんな漠然とした幸せをそっと抱き締めていられるような気がするのだ。

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