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雑文ラジオポトフ

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今田の雑文です。
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#写真

われたまど全員見てる投票所

われたまど全員見てる投票所

シリーズ・現代川柳と短文 130
(写真でラジオポトフ川柳218)

 投票所は毎回ちがう場所に設定された。学校、市役所、歯医者の駐輪場、みかん畑の真ん中、ハンバーガー店の冷蔵庫の中。有権者はまず、今回の投票所がどこにあるかを探り当てることから始めねばならなかった。不思議なことに、それで投票率は著しく上がった。

▼これまでの「現代川柳と短文」は以下から!

欠けているところに点を打っていく

欠けているところに点を打っていく

シリーズ・現代川柳と短文 125
(写真でラジオポトフ川柳213)

 なにもない余白をそのまま受け入れること。それは、表現においてはむろんのこと、日常においても大切な考えだ。なにもない部屋の隅に観葉植物を置いてしまうようではだめだ。雑念や不安にとらわれず、あるがままを受け入れよう………あれ? 観葉植物って「葉」なの? 「用」じゃないんだ! 「観る用の植物」だと思ってた! これが雑念だ。

▼これ

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この部品、バイクの部品、だとしたら

この部品、バイクの部品、だとしたら

シリーズ・現代川柳と短文 117
(写真でラジオポトフ川柳205)

 バイク、というと一人乗りの二輪車だ。いま、そんなバイクを愛好する者たちが連れ立って移動している。集団でのツーリングである。ん? なにかおかしい。一人乗りの乗り物を愛好していながら、結局集団行動か。うるさい。そんな指摘をするやつに峠を走る際の頬を撫でる風の価値はわからない。おれたちにはわかる。この風の価値が。集団はそろそろ海老名

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リスであるだろう範囲もここまでか

リスであるだろう範囲もここまでか

シリーズ・現代川柳と短文 116
(写真でラジオポトフ川柳204)

 親しい友人たちが東京都町田市のリス園に行っていたことを知った。わたしは誘われなかった。これといって理由はない、と思う。。たまたま誘われなかった。それだけだ。あいつはリスって柄じゃないよな、と、むしろ気を遣ってもらったのかもしれない。さすが親しい友人たちだ。ありがとう。そんな友人たちにわたしは言っていないことがある。わたしはリス

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われわれはみんな本物なんですよ

われわれはみんな本物なんですよ

シリーズ・現代川柳と短文 105
(写真でラジオポトフ川柳193)

 ビデオゲームとしてのポケモンが好きな者もいれば、カードゲームとしてのポケモンが好きな者もいる。ぬいぐるみになったポケモンが好きな者がいれば、タトゥーの図柄になったポケモンが好きな者もいる。彼らを「ポケモン好き」と一緒くたに括るのはいささか乱暴だ。それでは、彼らをなんと呼べばいいか。こうなったら思いきって「ポケモン」はどうだ。

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かろうじてうさぎの服を着てうさぎ

かろうじてうさぎの服を着てうさぎ

シリーズ・現代川柳と短文 100
(写真でラジオポトフ川柳188) 

 ファッションという鎧をまとうことで外の環境と戦えるのだとしたら、それを脱ぐ行為は自分の内面と向き合うことを意味する。それと同時に「脱ぐために着る」という価値観が生まれるだろう。つまり「脱ぐためのファッション」である。

▼これまでの「現代川柳と短文」はこちらから

色のない街がこんなに待っている

色のない街がこんなに待っている

シリーズ・現代川柳と短文 098
(写真でラジオポトフ川柳186) 

 甘い味付けが苦手で、すき焼きや肉じゃがをほとんど食べない。牛丼も食べない。ひさしぶりに牛丼屋に行ったとき、よし、ふだんあまり来ることがないからな、せっかくだし、と、トッピングを楽しむべく生玉子を注文した。牛丼の上から溶いた生玉子をかける。ひとくち食べる。そこでやっと気づいた。これ、すき焼きの味じゃん。ふだんすき焼きを食べない

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モナコには圧力的なものがない

モナコには圧力的なものがない

シリーズ・現代川柳と短文 096
(写真でラジオポトフ川柳184) 

 モナコのカフェでフィアンセとアールグレイを飲んでいると、まだ田無にいたころの記憶が蘇ってきた。フィアンセはそのころのぼくを知らないし、これからも言うつもりはない。ただ、なんとなく、ティーカップの裏側の底とか、道行く御婦人が連れているマルチーズの足の裏とか、そのへんがすこしずつ田無に置き換わっていく感覚をおぼえた。

▼これま

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歯がこわい、人に生えてる歯がこわい

歯がこわい、人に生えてる歯がこわい

シリーズ・現代川柳と短文 097
(写真でラジオポトフ川柳185) 

 素朴な疑問だが、歯医者の看板に描かれている歯は誰の歯なのだろう。治療する歯は患者の口の中にあるから、看板に描かれているはずがない。歯科医やスタッフの歯だとしたら、それを看板に載せる意味がわからない。わからない。誰の歯なんだ。考えているうちに虫歯は進行する。

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みなさんに命令することをやりたい

みなさんに命令することをやりたい

シリーズ・現代川柳と短文 095
(写真でラジオポトフ川柳183) 

 命令されるのが嫌で、しかし命令するのにも慣れず、結局Kさんは会社を去ることにした。命令されることもすることもなくなった安寧の日々。が、とある昼下がり、Kさんはある思いに駆られた。誰かに命令したい。あるいは誰かに命令されたい。どちらも急には実現できなかった。

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わたしたちフォームのように恋をする

わたしたちフォームのように恋をする

シリーズ・現代川柳と短文 094
(写真でラジオポトフ川柳182) 

 Aはそれまで恋をしたことがなく、Bはそれまでドーナツを食べたことがなかった。ふたりは会ったその日に恋に落ちた。恋ってこんなにすてきなものだったのか、とAが言い、Bはそれを微笑みながら見ている。隣の部屋では油に熱が入る。ドーナツを揚げる油である。もうしばらくすると揚げたてのドーナツがふたりの前に運ばれてくるが、それを食べるのは

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毎日がふんわりですと言ってくる

毎日がふんわりですと言ってくる

シリーズ・現代川柳と短文 093
(写真でラジオポトフ川柳181) 

 うっとおしい、などと思ってはいない。明るい気持ちになるので、むしろありがたく思っている。ふんわりだよ、以前はそう言っていたはずだ。いつからか、ふんわりです、になっていた。「だよ」から「です」に。ささいなことである。だからこそ気になる。なんせ隣の住人のことなのだ。ああ、ゆっくり眠れる日はいつになるのだろう。

▼これまでの「現

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ぼくの席から見えそうなきみの席

ぼくの席から見えそうなきみの席

シリーズ・現代川柳と短文 091
(写真でラジオポトフ川柳179) 

 中学生のとき、あみだくじを使って席替えをしたことがある。担任が紙に1クラス全員分の本数のタテ線を引き、上端と下端だけが見えるように折り曲げ、わたしたちに見せた。はい選んで、と言う担任がやたらとニヤニヤしていたので、あ、こいつたぶん、ヨコ線引いてねえな、と思った。それのどこがおもしろいのかわからないが、果たして、折り曲げられた

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駐車場 犬になりたい人びとは

駐車場 犬になりたい人びとは

シリーズ・現代川柳と短文 090
(写真でラジオポトフ川柳178) 

 ヘリコプターから駐車場を見下ろしている。車を停める場所だ。でも犬がいた。そこにひとりの人物がやってきた。グレーのキャップをかぶって、きょろきょろとあたりを見回している。車を探しているのだろう。しかしそこには犬しかいないのだ。その駐車場はたぶん自分がこどものころの祖父母の家の駐車場で、人物はまだ生きていたころの祖父だ。しかしそ

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