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嘘のエッセイ

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架空の体験を書くエッセイ集。
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#嘘のエッセイ

溢れる心地を飲み干して

溢れる心地を飲み干して

天気が酔っぱらっていた。コンビニで唐揚げ棒を買って出たときのことだった。いつのまに雨になってたのかと思ったら、やけに酒臭い。水溜まりには泡がたっている。一度店内の戻り、ビニール傘を買った。

勢いのいい雨音が頭上で響く。傘をさして歩いていると、飛び出し注意の子供の看板がひとりでに動き出していた。おいおい、本当に飛び出しちゃだめだろと、見当違いのツッコミが頭のなかに浮かぶ。看板は飛んだり跳ねたりしな

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忘れられない幸せ

雪が降らないまま冬が終わった。それでも夜は寒くって、外に出るのにコートとマフラーは必需品だった。水溜まりが凍らなくても、耳が痛くなくても、暖かいものが恋しくなる。

なにを食べようかな。

わくわくする。僕は幸せを探しに、バスへ乗りこむのだ。



飲み屋街は閑散としていた。人はまばらで、誰も深く酔っていないように見える。点々と光る提灯が寂しい。例のウイルスは意地悪だなとおもう。今日はコロナビー

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はぐれた星を抱き締めて

はぐれた星を抱き締めて

流星群がくるらしい。仕事の休憩中に、Twitterで噂を目にした。今晩だったら一緒に見に行けるなと思って、すぐにこっぺ(嫁さん)にラインを送る。

「流星群、今夜だって。いつものとこで見ようか?」  
「わぁ、いいね。じゃぁ、サンドイッチでも買ってそこで食べる?」 
「いいね。僕はつまみも買ってくよ。」

楽しみができた。今は曇ってるけど、天気予報だと夕方からずっと晴れだ。綺麗に見えるといいなとお

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魚と肴

魚と肴

スーパーで魚を選んでいると、一匹だけ生きている奴がいることに気づいた。敷き詰められた氷の上で、目だけをキョロキョロと動かしている。誰も気づいていないのかなと不思議に思っていると、その魚と目があった。

「あんちゃん、わしを買ってくれよ。」

ビックリした。魚は口をパクパクさせて話しかけてきた。そんなことしたら生きてるってバレちゃうぞと心配になる。とりあえずそいつをビニール袋に入れ、買い物を続けた。

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嘘のエッセイ 「新入社員の田中」

嘘のエッセイ 「新入社員の田中」

新入社員が入ってきた。そいつは社長に紹介されながらニコニコとしていた。先輩として笑顔で受け入れなければいけない場面だったけど、真顔で「よろしくお願いしますね」と挨拶するので精一杯だった。だって、白熊だったから。

「どもっす。よろしくっす。」

お前、喋れるのかよ。いや、そりゃここで働く以上は喋れないと困るけど、なんでちょっとチャラいんだ。なにがどうなってるのかと思っているのは僕だけで、他の職員も

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嘘のエッセイ① 「てきとーお化け」

嘘のエッセイ① 「てきとーお化け」

上司に殺される夢をみた。瞼だけが勢いよく開いて、わずかに震える。

ゆっくりと鼻から息をつき、スマホを見た。まだ5時をまわっていないくらい。もそもそと布団から出て、トイレをする。普段なら笑っちゃうくらいの量と勢い。なのに、表情は動かない。

ふらふらと窓の方へゆく。鳥の鳴き声と、一台の車が走っていく音。静かだ。
ただまぁ、肝臓の悲鳴がうるさいから、穏やかではない。

顔を洗おうか少し悩む。このまま

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