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詩集
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#自由詩

花と火

花と火

枯れた花が燃えている

死んだ後で こんなに鮮やかな色をはなつのは

幸せだろうか

照らされた頬が染まっても 中まで暖まるわけじゃない

枯れた花が燃えている

とっくに消えてもおかしくないのに 火はまだそこにいる

幸せだろうか

照らされた瞳が染まっても 中まで輝くわけじゃない

これがほんとの最後なのに

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元日

元日

甘い夢の裏側で

削られる肌は

まだ 若さを保っている

しんしんと雪は降り

手招きする嘘と 遠ざける本当に

温度のないものしか残らない

目の中の小鬼が

デタラメばかりを叫んでいる

「遠く 遠くに 救いがある」

頷けるわけもなく、ただ明ける年。

依存

依存

蛾が口のなかにいる

頬の内側で ピタリと動かず

わたしが悲しんだり 喜んだりした時だけ すこし羽ばたく

この乾いた不気味が 何度でも心を止めて

巣から 離してくれない

鱗粉が舌におちてくる

言いようのない苦味が 唾液と共に溶けて

侵食してくる

だというのに 

蛾を食べられずにいる

頬の内側で ピタリと動かず

わたしが憎んだり 嫉妬した時でも やはり羽ばたく

この乾いた不気味

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ひとつの絵

ひとつの絵

まあるい月から 雫が垂れたと思ったら それは涙で

いや、それも見間違いで ただ網から油が 炭に落ちただけだった

重く蒸発するようなその音は 一瞬のドラムのように静寂の中に響き また、虫の声が広がっていく

僕の目の前には 愛しい人が ハンモックで寝ていて 

いつものように イビキをかいている

音楽とも言えない音の重なりが 心に沁みてきて

また、僕は酒を呑む

幸せは 移ろうものと知りつ

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感性という麻薬

感性という麻薬

私のなかの とても美しい絵画は

現実には ラクガキにしかならない

私のなかの とても美しい映画も

現実には 学芸会のようなものだ

感性という麻薬が イタズラに心をみだしてくる

あの夕陽も 温もりも 涙も すべてはまぼろしなのに

私はなぜか 駆け出したくなってしまう

真っ白のキャンパスにぶつかって トマトのように潰れてしまえば

芸術になれるだろうか。

人形の灰

人形の灰

人形を焼いた灰を

ふりかけに混ぜてしまおう

炊きたてのご飯にかけて 一気にかきこんだら

愛情を思い出せるだろうか

焚き火をじっと見ていると

恐ろしさと 懐かしさとが 浮かんでくる 

全く他人の顔の 母親のような 奇妙が

焚き火の向こうに立っているようだ

自分のなかにある なまの部分を

人形に重ねて 焼いてしまおう 

その灰を ふりかけに混ぜて食べたら

自分が分かるだろうか。

夕焼けのカクテル

夕焼けのカクテル

夕焼けのカクテル 作ってくれよ

俺はそれを飲み干して 空へ溶けるから

夕焼けのカクテル 作ってくれよ

菫の心を彩った 海の向こうの誰かのように

枯れた空気 冷えた耳 心の奥で切れる粘膜

夕焼けのカクテル 作ってくれ

俺は空を飲み干して それに溶けるから。