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1話 イジメ加害者の名は残る デジタルタトゥー 週刊少年マガジン原作大賞応募作品

物語は、都内の中学校から始まる。

ピーポー ピーポー
救急車が学校の花壇の前に止まる。

生徒達がザワついて、話す。
「何、何?」
「あれって川崎じゃない?」
「マジかよ?飛び降りたの?」

花壇の中で1人の男子が倒れ、頭から血を流している。

教師が声を掛ける。
「川崎!意識はあるか?」

救急隊が担架で男子を担ぎ、生徒達に声を掛ける。
「前を開けて下さい!」

教師は生徒達に言う。
「全員、教室に戻れ!」

教室に戻されながら、生徒達が言う。

「コレって自殺?」

「川崎って、月影達にイジメられてたよね?」

「私、川崎君が蹴っ飛ばされるとこ見たよ」

担架で運ばれる男子の姿を、校舎の窓から見ている1人の生徒。蔑んだ目をしている。

別の生徒が言う。

「それって、イジメっつうか、犯罪じゃね?」


シーンが変わる。

1ヶ月前。

住宅地にある一軒家の食卓。

スーツを着た男性が、学ラン姿の男子に声を掛ける。

「何だ?その頭の色は?髪の色なんか気にしてる暇があるなら、勉強しろ!」

「・・・。」

エプロン姿の女性が声を掛ける。

「キラ!早く食べちゃいなさい。遅刻するわよ!」

学生服を着た、もう1人の男子が横切る。
エプロン姿の女性が声を掛ける。

「あっ、タケシ君!もう行くの?いってらっしゃい!」

男子は黙って外へ出る。

バタン!
ドアが閉まる。

学ラン姿の男子も、食事を口に詰め込んで出て行く。

女性が声を掛ける。
「キラも行くの?」

バタン!無言でドアが閉まる。

外に出た、目つきの悪い男子中学生。

月影キラ。中学一年生。

(あ~、うっぜぇ!死ね!全員、死ねよ!)

エプロン姿の女性を思い出す。

(いつまで、あのババアは、あのジジイの言いなりになってんだよ?)

前を歩く男子を見る。

(兄貴は、来年出て行くんだろな。兄貴なら大学はどこでも入れる。家から離れた大学を選ぶんだろうな。)

キラはスーツを着た男性を思い浮かべる。

(俺はあのジジイと、あと6年も一緒にいんのかよ!もっとマトモな男と再婚しろよ、クソババア!)


キラは交差点で、1人の男子生徒を見つけて声を掛ける。

「おい、木村!マガジン買った?見してよ。」

キラに気付く木村
「あっ、うん。」

木村の肩に腕を掛けるキラ
「今、いくら持ってる?」

嫌そうな木村「あっ、あのさ、マガジンなら川崎が買ってんだって。朝1で買うらしいぜ。」

キラ「えっ?川崎?」

木村「そう。アイツんち、結構な金持ちらしい。親父が証券会社の社長なんだって。」

キラ「へぇ~。・・川崎って誰だっけ?」

木村「廊下側の一番後ろの席でさ、色白で細い奴いるじゃん。」

キラ「あ~、んな奴いたっけ?」

木村「川崎に声掛けようぜ。なっ!」

学校へ着く2人

木村「ほら、アイツだよ。」

キラは、川崎に気付いて言う。

「あぁ~、アイツか。本当に暗いな」

キラは、川崎の肩に手を掛ける。

キラ「なぁ、川崎君!マガジン買ってんだって?貸してくんない?」

驚く川崎「えっ?あっ、まだ読み終わってないから、あとで・・」

キラ「いいじゃん?先に読んだって。貸してよ」

川崎「読み終わってからで・・」

睨むキラ「いいじゃんかよ。貸せって言ってんだろ」

川崎「・・・。」

黙ってマガジンを渡す川崎。

笑顔で答えるキラ「サンキュー!読み終わったら、返すからさ!」

シーンが変わる。

屋上でマガジンを読むキラと木村。

キラ「あ~、つまんねぇな。外行こうぜ。」

木村「・・うん。」

キラ「あぁ~、つまんねぇ。」

キラは、マガジンを水溜まりの中に落として踏みつける。


道路沿いを歩く2人。

キラ「つまんねぇよなー。ゲーセンでも行くか。木村、いくら持ってる?」

木村「・・俺、今ヤバいから、金持ってる奴誘おうぜ」

キラ「金持ってる奴って、誰だよ?」

木村「川崎とか」

キラ「また川崎かよ。今日は川崎デーだな」

木村「川崎ってさ、小学生の時に虐められてて不登校になったんだよ」

キラ「へぇ~」

木村「アイツ、小3の時に転校してきてさ、同じクラスだったんだ。暗い性格で、全然クラスに馴染めなくてさ~。
そしたら、虐められる様になっちゃって。
アイツは何も言わないから、やられっぱなし。
そしたら、川崎の親父が学校に乗り込んできてさ。
【誰に虐められたんだ?やられっぱなしで、悔しくないのか?バカタレ!】って騒いじゃって、超笑えた。

川崎は、【僕は悪くないよ】って、そればっかり言って泣いてた。

それから不登校だったんだけど、中学から復帰したんだよ。相変わらず暗いけど」

キラ「へぇ~」

木村「アイツの家は金持ってるぜ。虐められてた時、【3万のゲーム買え】って言ったら金出したんだよ。
自分を守る為なら、いくらでも金を出すんだよ、アイツ」

キラ「ふ~ん。川崎ねぇ~。」

キーンコーン カーンコーン

学校へ戻るキラ。

汚れたマガジンを川崎に差し出す。

謝るキラ「本当、ゴメン!水溜まりに落としちゃってさ!」

苦笑いの川崎「あぁ・・。まぁ、いいよ。」

笑顔のキラ「お詫びに何か奢るよ。一緒に遊ぼうぜ!」

川崎「えっ?いいよ。僕は帰るから。」

川崎の肩に腕を掛けるキラ。

キラ「川崎君はゲーム好き?パチモンやってる?」

川崎「・・うん。」

木村「パチモンセンターで、アイテム取りに行かね?」

キラ「なぁ、行こうぜ!俺のアイテムも欲しいのやるよ。」

スマホを見せるキラ。

画面を見る川崎「・・うん。」



パチモンセンターに到着する3人。

キラ「おっ、今日はパチモンのブルーの卵を貰えるじゃん!」

川崎「やった!僕、5つコンプリートだよ!」

木村「マジ?見して、見して!」

スマホを取り出す川崎
「うん。この前はレッドを貰ってね・・。」

川崎のスマホを覗くキラ
「あっ、ドラゴン進化してんじゃん!すげぇ!」

表情が明るくなる川崎
「これね、裏技があるんだよ。」

キラ「マジ?どーやんの?」

キラのスマホを覗く川崎「まずはね、最初のステージに戻るんだ。」

木村「すげぇじゃん。俺にも教えてよ。」


俺達は、ゲームで遊ぶ仲になった。

最初は、ただゲームで遊んでただけ。

俺は、川崎の存在があまりに薄くて気付かなかったけど、川崎はそれまでクラスで一人で過ごしていたらしい。

俺達と話す様になって、川崎は楽しそうだった。

俺は川崎に聞いた。

キラ「川崎って、小学校は休んでたんだよな?クラスの連中に絡まれたんだろ?」

川崎「・・うん」

キラ「川崎って転校してきたんだろ?
そりゃ、嫌だよな?途中で転校なんてさ。俺も、そーだったもん」

川崎「え?そうなの?」

キラ「そうだよ。俺も小4と小5の時に親の都合で転校した。最悪だよな」

川崎「そうだったんだ。僕も親の都合でさ。嫌だったよ」

キラ「それで、虐めにあったんだろ。本当、最悪だよな」

川崎「うん。最悪。」

キラ「でも、よく来る気になったじゃん?」

川崎「・・お父さんが不登校を許さない人だから」

キラ「へぇ~。なんで?」

川崎「お父さんはイジメられる側も悪いって言う人だから、学校へ行けって言われて。僕の気持ちなんか聞く気はないんだ」

キラ「ふーん」


シーンが変わる

コンビニの中

スナック菓子を持つキラ「なぁ、川崎!これ買ってくんね?今、金足りねぇんだよ。」

川崎「えっ?あっ、うん。」

川崎の財布から金を取るキラ
「サンキュー。」

木村「俺は、アイスと漫画買って!」

川崎「・・うん。」


電気屋にいるキラ達

キラ「川崎、このゲーム面白そうじゃん。一緒にやろうぜ。」

キラは、3万円のゲームの箱を持つ。

川崎「えっ?それは、ちょっと・・」

川崎の肩に腕を回すキラ「いいじゃん、一緒にやろうぜ!俺達、友達だろ!」

川崎「・・うん。」

キラは、川崎から金を取る。


木村の言う事は本当だった。

コイツは意志のないATMみたいに、毎日金を出し始めた。


キーンコーン カーンコーン

学校の廊下

嬉しそうな木村「今日は何を買ってもらおっかな?」

不満そうなキラ「つまんねぇよな。馬鹿みたいに金出してさ。」

木村「え?」

キラ「つまんねぇよ。」


シーンが変わる。
コンビニの前。

キラは、川崎の肩に腕を掛ける。

キラ「川崎、今日はちゃんとエロ本買ってこいよ。」

川崎「・・・。」

キラは雑誌を見せて言う。

「こういうのエロ本って言わないんだよ。もっと面白そうなヤツ買ってこいよ。」

川崎「・・・。」

睨むキラ「早く買ってこい。」

川崎は、コンビニに入る。


コンビニから出てくる川崎。

川崎「あの・・、コレでいいかな?」

キラ「広げて見せろよ。」

恥ずかしそうに雑誌を広げる川崎。
雑誌には、裸の女性が縄で縛られている。

川崎にスマホを向けるキラ。

カシャ!

驚く川崎「やめてよ!写真を撮らないでよ!」

キラは雑誌を奪って言う。
「お前、こういうのが趣味なのかよ~!」

嫌がる川崎「違うよ。」

キラ「お前がこの雑誌に金払う所も写真に撮ったぜ。今の写真と合わせて、クラスの女子のラインに載せるか。」

川崎「やめて!やめてよ。」

キラ「川崎君の趣味のエロ本公開!こう見えてドSの変態!送信!」

笑う木村「アハハハハ!」

泣きそうな川崎

キラ「なんだよ?言いたい事があるなら、言えよ。」

川崎「・・・。」


キーンコーン カーンコーン

教室で笑う女子達

「ねぇ、昨日の写真見た?川崎君の。」

「うん、見た。キモイよ!大人しそうな男子程、妄想ってスゴイらしいよ。」

机に座って下を向く川崎

木村「アハハ!昨日の写真、隣のクラスの女子にまで回ってるらしいよ。なぁ、月影!」

川崎を睨むキラ
「アイツって、本当に何も言わねぇよな。」



パチモンセンターにいるキラ、木村、川崎

キラ「川崎、今日は金出さなくていいよ。」

川崎「え?」

キラは川崎のカバンに、店の商品を入れる。

川崎「えっ?ちょっと、何するの?」

キラ「どうみても万引きだろ。大丈夫だって。俺達、この店には慣れてるから。
このショーケースの前は、防犯カメラに映んねぇんだよ。」

川崎「えっ・・。」

キラ「次はアッチな。大丈夫だって。絶対バレないから。堂々としてろよ。」

顔が青くなる川崎「・・・。」

商品を川崎のズボンのポケットに入れるキラ

キラ「トレカはコレでいいか。」

キラは、店の出口を見つめて言う

キラ「出口に店員がいるな。俺が店員に声掛けて、店内に誘うから、お前はその間に出ろ。わかったな?」

川崎「・・うん。」

自分から離れるキラを見つめる川崎

すると、キラは店から出てしまう。

驚く川崎「えっ?」

スタッフが川崎に声を掛ける

「君、ちょっと裏に来て貰える?」

川崎「えっ?」

逃げようとする川崎

川崎の腕を掴むスタッフ
「ズボンの中を見せて。何か入ってるよね?」

顔が青くなる川崎「・・・」

川崎はズボンの中から商品を取り出す

スタッフ「裏に来て下さい」

川崎「・・はい。」

影で川崎を見て笑うキラ達。

「アッハッハッハッ!大成功!」
「馬っ鹿じゃねぇの、アイツ!」


キーンコーン カーンコーン

屋上に繋がる階段の踊場で、川崎と話すキラ

笑顔のキラ「川崎君!昨日は、あの後どうなった?」

暗い顔の川崎「・・大変だったよ。お父さんが来ちゃって。」

笑う木村「アッハッハッ!お父さん、来ちゃったんだ~。」

キラは川崎の肩に腕を掛ける。

キラ「でっ?親父は、何だって?」

川崎「・・・。」

イラっとするキラ「何て言ったんだよ?」

涙を浮かべる川崎「・・みっともない息子だって。」

キラ「でっ?何か言い返してやったのかよ?」

涙をこぼして、首を横に振る川崎

睨むキラ「なんで何も言わねぇんだよ?」

川崎「・・言えないよ。」

川崎の襟を掴むキラ「お前は、そーやって、自分を守ってくれる人を待ってんだろ?」

川崎「えっ?」

キラ「自分で何もしないで、逃げて助けてくれる人を待ってんだろ?」

涙を溜める川崎「・・・月影君には、僕の気持ちはわからないよ。」

キラは苛立つ。

川崎の腹を蹴るキラ「わかんねぇよ!」

倒れる川崎「うわっ!」

キラ「お前みたいの見てると、イライラするんだよ。やり返しても来ねぇ。意志のない人形みたいでよ。だから、虐められるんだよ!」

泣き出す川崎「うぅ・・。」

不安そうな木村「・・おい、センコーくるぜ。」

もう一度川崎を蹴るキラ「そうやって、ずっと耐えてろよ。虐められる奴が悪いんだよ!」


キーンコーン カーンコーン

川崎の席が空いている。

教師「誰か、川崎君を知りませんか?」

女子「エロ本買いに行ったとかね~。」

女子「アハハ!キモっ!」

川崎を気にかける奴は教師だけだった。

あ~、つまんねぇ。

キラは川崎の言葉を思い出す。

「お父さんは、何でも僕が悪いって言うんだ」

キラの脳裏に声が響く。

【お前が悪いんだよ!お前なんか死ね!】

くそったれがっ!


家に帰るキラ
玄関の靴を見て思う

(やべぇ。ジジイが帰って来てる。)

父の声が響く「リビングを片付けろと言っただろ!」

母「はい。今やりますから。」

リビングの扉から母の顔が見える。

母「あら、キラ。帰ったの。」

扉の向こうで父が睨みつける。

父「お前は、いつまでダラダラしてるんだ。だから、落ちこぼれなんだよ。」

キラは階段を上がって言う。
「死ね!」

キラは、ベッドの上に寝転がる。押し入れから落ちそうな、ランドセルを見つめる


過去の回想

俺は小さな頃は、婆ちゃんに面倒を見てもらっていた。

母さんは夜働きに行くと、酒臭い男と帰ってくるから、「婆ちゃんの家に居な!」と言われた

婆ちゃんと母さんは口喧嘩が多かった

祖母「お前が選ぶ男は、ろくな男じゃない。私みたいに女手一つで、子供を育ててみな!」

母「養育費に、どれだけ掛かると思ってんのよ?」

祖母「それでも私は育てたよ」

母「よく言うわよ。私の面倒なんて見てなかったじゃない!」

婆ちゃんと口論になった母さんは
「介護資格を取る。自分の力で生きていける」と言って、俺を連れて家を出た。

俺は引っ越した先のボロいアパートで、母さんと2人暮らしになった。

実の父親の事は、今も知らない。母さんが話したがらないから。


俺は学校を転校した。
初めて友達が遊びに来た日の事だった。

「キラく~ん!」
「ねぇ、本当にココなの?」
「この家って、人が住めるの?」

俺が家から出ると、友達は驚いた顔。
この日から、俺と友達の上下関係が決まった。

「えぇ?キラの家、こんなボロいの?」

「犬小屋みたい!アハハハハ!」

その日から俺のあだ名は【犬小屋】になった。

でもそれは本当で、友達の家はうちとは違って綺麗で立派だった。

自分の家は貧乏と知った。
だから、言い返せなかった。

俺は、友達より下。家来みたいな立場になった。

「キラ、ジュース買ってあげるよ。コンビニ行って買ってきて。」

「キラ、ゲーム貸してあげるよ。だから、ランドセル持って。」

「キラは、貧乏だからお金をあげるよ。
【お金を恵んで下さい。お願いします】って言うんだよ。俺達の事を、ご主人様って呼ぶんだよ。アハハハ!」

キラ「・・お金を恵んで下さい。お願いします。ご主人様」

友達から見下されてる。
それでも、俺は最新のゲームがやりたくて、水道の水よりジュースが飲みたくて、犬みたいになった。

クラスの連中は俺を避け出した。俺に関われば、俺と同等になるからだ。

クラスの女子の声が聞こえた。

「月影君は、お母さんが離婚して可哀想な子なんだって、パパが言ってた」

「そうなんだ。お父さんがいないんだ。だから、貧乏なんだ。かわいそ~」

キラ(可哀想・・。)

でも、俺がパシられて、水掛けられて上履きを隠されても、誰も何も言わなかった。


金の縁は、すぐに切れた。

「アイス買おうよ」
「あっ、犬小屋は金持ってないじゃん!」
「おごってやれば?」
「やだよ!草でも食べればいいじゃん!」
「アハハハハハ!」

皆は俺を囲んでアイスを食べた。
輪から抜けて、俺は水道の水を飲んだ。すると、アイスを頭の上に落とされた。

地面に落ちたアイスを見て、奴らは言った。

「お手をしたら食べていいよ、キラ」
「アハハハハハ!」

その時、俺の中で何かがキレた。

キラ「ふっざけんなよ!」

俺は叫んだ。

驚く男子「なっ、なんだよ?」

俺は、ソイツを突き飛ばした。

女子「キラが、やばいよ!」

そこにいた全員が顔色を変えて逃げた時、見える景色が変わった

次の日から、アイツらは俺に近付かなくなった。
学校生活は、穏やかな毎日に変わった。

(なんだ。最初から、こうしてりゃ良かったんだ)

そう思っていた時だった。



母「お母さん、結婚するからね」

キラ「えっ?結婚?」

母「うん。そうだよ。新しいお父さんとお兄さんができるよ」

キラ「お母さん、介護資格は?資格を取って働くって言ってたよね」

母「もう取らなくてもいいの」

母さんは、嬉しそうだった。

やって来た新しい父と兄は、俺の事を全く見ていなかった。兄は、ずっとうつむいていた。

それでも結婚の話は進んで、俺はまた転校する事になった。

新築の家の前で母は言った。

笑顔の母「キラ、ここが新しいお家よ!すごいでしょ!」

目が輝くキラ(ボロくない!)

家の中も広くてキレイだった。

母「ダイニングテーブルよ。オシャレね」

キラ「あっ、ゲームある!すげぇ!いっぱいある!」

その時、俺は手を叩かれた。

睨む親父「お前は触るな!」

母「キラ、お兄さんのだから触っちゃダメよ」


でも親父が居ない時、ゲームを勝手に使っても兄貴は何も言わなかった。

だから、俺はゲームを持ち出して友達に見せた。

転校した俺は、知らない街で新しい自分になれた。

誰も【犬小屋】の過去を知らない。
アイスが買えない俺を知らない。

俺の家に友達が集まった。
ゲームを沢山見せると、
「いいなぁ、キラ君の家って金持ちじゃん!」
笑うキラ「え~?これ位、普通じゃね?」

小遣いもアップした。
俺は友達と同じ様に、いや、それ以上に金を持てた。

(俺は、お前らより上なんだよ!)

俺は、いつもそう思ってた。


父「お前は、出来損ないだな」

家で親父に言われる言葉は、常にコレだ。

母「キラが運動会で貰ったリレーのメダルよ。アンカーを努めてね、3位だったの」

父「アイツは、何をやっても平均以下だな」

母「タケシ君は、すごいわね。成績は学年で3位以内に入ってるのね」

父「当然だ」

5歳年上の兄貴は俺に興味がなく、母さんとも喋らない。
学校に行って、食事をして、部屋に入るだけ。まるで心の無いロボットの様だ。

でも、その理由はすぐにわかった。

兄貴も俺と一緒。親父が嫌いなんだ。

気に食わない事があると、親父は俺を叩いてくる。

最初は大人しくしてたけど、頭を叩かれて我慢ができなくなって抵抗した。

アイスを頭に落とされた時と同じ。反抗してやればいいんだ。

すると親父は、叩くから殴るに変わった。

父「誰のお陰で、この家にいられると思ってんだ?」

小学生のケンカとは違う。
俺は力で敵わなかった。

兄貴の体に、アザがあるのを見た事がある。

きっと俺と出会う前に、兄貴も同じ事をされてたんだ。

兄貴の母親の事は、知らない。
でも、母さんと親父の話を盗み聞きした時に、兄貴の母親は自殺したと知った。

兄貴は、親父と離れられなかったんだ。
あのクソジジイは、外に出れば愛想が良く、近所の年寄りに笑顔で挨拶をする。

年寄り「感じの良いお父さんだね」

そう声を掛けられた時、俺は耳を疑った。

親父は外では良い父親を演じているから、兄貴は親父から離れる事はできなかったんだろう。

兄貴は、できるだけ親父に関わらない様にしてる。成績が良いのも、親父に何も言われない為に勉強してるのかもしれない。

でも、俺は勉強をしない。ゲームにハマった。ずっと手に入らなかったゲームがある事が嬉しかった。

でも親父は、俺からゲームを取り上げる。

キラ「何すんだ!返せ!」
父「黙れ!クソガキ!」

キラ「クソジジイ!」

キラを殴る父「お前は、死んだっていいんだよ!」

やり返すキラ「お前が死ね!」

兄貴は、殴られる俺を見ても何もしない。

標的が自分でなく、俺に代わって良かったと思ってるのかもしれない。

兄貴とは話をしないけど、兄貴の目は「俺には関わるな」と言っている。

俺だって、こんな家に居たくねぇよ!
でも離婚すれば、また犬小屋に逆戻り。

俺は一度、死ぬんじゃないかと思う程、親父に殴られた。呼吸が止まりそうで、苦しかったが奴は暴力を止めなかった。

キラ(死ぬ!助けて!)

母さんは、そんな俺を見ても何もしなかった。



この事はクラスの奴らには知られたくなかった。
俺はフツーの家庭の、フツーに裕福な子なんだ。

でも、親父に殴られる度に、それでは満足できなくなった。
俺を下に見る奴は許さない。

「キラって、ウザくね?」
俺は、そう言った男子のリーダーの胸ぐらを掴んだ。
「なんだよ?言いたい事があるなら言えよ?俺に文句あんのか?」

周りの目が変わって気持ち良かった。

あの時と同じだ。力を見せつければいい。

文句があるなら、かかって来い。
黙ってるなら、俺に従え。
俺は、お前らより上なんだよ。
だから、お前らは俺に従えよ。

俺が親分。お前らは、子分。



「イジメは犯罪です。先生は、イジメを許しません」

小学6年生の時の担任は、俺を呼び出して言った。
キラ「はっ?イジメ?」

俺は、男子のリーダーだ。
子分が親分に従うのは当然だろ。

キラ「イジメじゃねぇよ」

担任「相手が嫌な想いをする事、相手が虐めと思うなら、それは虐めなんです。わかりますか?キラ君」

「何も言わず、何もできない奴が悪いんだよ」

「キラ君は、山田さんにした事を悪い事と思わないの?」

「はっ?山田って、女子の山田?」

「そうよ。山田沙織ちゃん。虐めに傷ついて学校に行けなくなったのよ」

「山田を虐めたのは、俺じゃないっしょ?女子だよ、女子!」

でも、この担任は俺が虐めたと決め付けた。山田は引きこもって、誰にも会いたがらず何も言わないらしい。

それを良い事に虐めていた女子達は、俺が加害者だと担任に話した。
この女子達は演技が上手く、担任の前では日頃の行いが良かった。

担任は、女子達を疑わなかった。
担任が俺の家に電話した事で、俺を信用しない親父は俺を殴った。

キラ「俺じゃねぇよ!話し聞けよ!担任が騙されてんだよ!」

父「お前が、やったんだろ!」

俺は、女子達を許さなかった。
このままじゃ、女子達の言いなりになるのと同じだ。俺を下に見ている奴は許さない。

キラ「人のせいにしてんじゃねぇよ!」

俺が机を投げつけた事で、女子達は黙った。

でも、女子のリーダーは言った。

「アンタだって、同じ事してるじゃん!」

その後、女子のリーダーは他の女子から除け者にされた。

ザマーミロだよ。俺に逆らおうとするからいけないんだよ。このクラスでは俺がトップなんだから。

でも、一番許せないのは山田と担任。

俺に謝れよ。

担任は俺と目を合わせず、関わりを避けていた。

山田は卒業式にも出なかった。
お前は、それで終わっていいのかよ?悔しくないのか?
俺を見習えろよ。引きこもってるのは、負けを認めてるんだよ。

俺は気に食わない奴は、力でねじ伏せてやれば良いと思う様になった。

親父は、母さんにまで手を上げる様になった。
でも、俺は母さんを助けようとは思わなかった。

お前も俺を助けないからだよ。
お前は経済力の為に、この男を連れてきた。
母さんは、自分の力で生きられないから。
だから殴られても、男に金を恵んでもらうんだろ?自分で、どうにかしろよ。

俺は自分の為に、アイツを必ずぶっ飛ばす。でも、まだだ。腕力が足りない。

いつかあのクソジジイを、必ずぶっ殺してやる!



中学生になった。
小学校で一緒にいた奴は離れていった。

新しいクラスは他校の連中もいるから、また新しい関係を築かないとならない。

でも、このクラスは落ち着いた奴ばっか。つまんねぇな。

小6の時に同じクラスだった木村がいた。とりあえずコイツと遊ぶか。

木村「川崎に声掛けてみようぜ」

木村の考えは分かっていた。自分の立場を川崎に代えたいんだ。


キーンコーン カーンコーン

川崎を蹴っ飛ばした次の日、学校に着くなり担任に声を掛けられた。

教師「月影君!川崎君と連絡は取れる?」

キラ「・・何で?」

教師「川崎君がいなくなったと、お母さんから連絡があったの。学校の中は探したけど、見つからなくて・・。
月影君と木村君が、川崎君と一緒にいる姿をよく見かけたから、連絡を取り合っているんじゃないかと思って。」

背を向けるキラ「知らないっす」


キーンコーン カーンコーン

席に座るキラ(知るかよ。アイツの事なんか)

ピーポー ピーポー

教室にいる生徒が騒いで、窓際に近寄る

生徒達「なんだ?」「救急車じゃん!校庭に入ってきたぜ!」

窓から外を見る教師は、深刻そうな顔をする。

教師は教室を出て言う。

「アナタ達は、座って待っていて!」

生徒「俺も行く!」「俺も!」「うちらも行く?」「行く!」

生徒達も教室から出て行く。

キラは、窓際から外を見る。

生徒「川崎だって!」「川崎が校舎から飛び降りたらしいぜ」

ピーポー ピーポー

救急車が学校から出て行く。

白い目で救急車を見下ろすキラ「ふーん」

キラはイスに座って、机に足を掛けて思う。

お前は、死ねばいいのかよ?
死んで同情して欲しいんだろ?

それがお前の戦い方なのかよ?

そんなんだから、虐められるんだよ!

悔しかったら立ち向かえよ

死んで良かったと思うなよ!

つづく




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