#ショートショート
【ショートショート】ショートショート王様#毎週ショートショートnote
「勅令である」
直方体のたらこ唇から、厳かに告げられる。
白と青のツートンの正体を誰も知らない。かにを自称するそれは、小さなヒレをパタパタと動かす。
日曜日、王様がショートショートのお題を出す。国民はみな一週間以内に上納品を提出するのだ。
血眼になって走り回り、ネタを捕まえ、磨きをかける。
ネタが見つからない国民は悲惨だ。浮浪者のように彷徨い「アラヤダあの子、まだ上納できないの
視線の先|#夏ピリカ応募
山形から東京の高校に転校した初日から、僕の視線の先は彼女にあった。
一番前の席で彼女は、僕が黒板の前で行った自己紹介には目もくれず、折り畳み式の手鏡を持ち、真剣な顔で前髪を直していた。そのことが気になって、彼女の様子を観察してみる。休み時間になる度、彼女は不器用そうに手鏡を開く。自分の顔と向き合い、たまに前髪を直す。何度か鏡の中の彼女と目が合ったような気がする。鋭い目つきで少し怖い。隣の席の
【ショートショート】消しゴム顔#毎週ショートショートnote
いつからだろう。
ぼくはいつも、クラスのみんなからさけられていた。
すごくゆうきをだして、はなしかけたことがある。
でも、みんなにげた。
消しゴムのケースをそっとはずして、かくれていた顔をみつめる。
「ねえ、ぼく、なにかわるいことしたのかな」
すこしこまったような顔がこたえてくれる。
(きみはおともだちとなかよくするのが、にがてなんだね。
なかよくしたい?)
【ショートショート】亡き妻のためのパヴァーヌ#毎週ショートショートnote
夜がまだ明けきらぬ時刻。
彼は掘り起こした棺の中で眠っていた最愛の妻を胸に掻き抱く。彼の口からは、銀狼の咆哮にも似た嗚咽が漏れる。
まなじりから流れ落ちた宝珠は、人知れぬ平野に積もる新雪のように白い妻の頬で弾け、薄明かりの下、妻の肌をより一層輝かせていた。
やがて、妻の頬を撫でる一滴の水晶が色褪せた妻の唇に吸い込まれる。温もりを失った妻は顔を上げ、充血した瞳で彼に優しい微笑みを向けた
雨と宝石の魔法使い 第四話 リリーフ街の秘密
武藤響(むとう ひびき)は仕事からの帰り道、いつも一つ手前の駅で降り、自宅まで歩いている。40歳を越え、体力の衰えと、腹の出た中年の身体を憂慮して始めた習慣だった。
自宅の最寄り駅の手前にある武蔵橋駅には、小さな商店街「リリーフ街」が駅のロータリーから直結しており、夕方は地元客で結構な賑わいを見せていた。
今日も武蔵橋で降りるとそのまま大通りを通って自宅へ向かおうとしたが、花粉症の薬が切れてい
鏡顔|#毎週ショートショートnote |1分
妹のアンナの表情は、いつも僕と同じになる。まるで鏡の中の顔のように。
兄妹で遊んでいる時には笑顔。だけど、僕が足の小指を本棚にぶつけると、自分が痛いわけでもないのにアンナは今にも泣きだしそうな顔になる。
やはり母さんがいなくなってから共感力が強くなったのだろうか。一人で僕らを育ててきた母さんが不慮の事故で亡くなったあの日、何も分かっていないであろうアンナが僕をじっと見て、わっと泣き出した