小野少吾

詩を書いています。

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記事一覧

【詩】 オキシドール

白い綿のような 雨の降る夜の道です 駐車場の隅の電灯が照らし出す 霧のようなカーテンのような ふわふわの雨が 傘を持つ腕に 斜めに降ってあたります 小粒でひんやりした…

小野少吾
20時間前
14

【詩】 水を蹴る

いつから潜っているのか もう覚えていない 床の線を伝って 指をそろえ 尾びれを振りおろして 水を蹴る 水を蹴る 幼い頃に教わった 同じ動きを繰り返す 何年も何十年も 何…

小野少吾
7日前
16

【詩】 ある夕暮れの風景

ヘラで返したクリームみたいな 雲があわくあかく染まる 遠くまで引きのばされて はしっこの山の影と溶けあう 五階の踊り場から見はらす町は 夕方の薄闇に浸かりはじめて …

小野少吾
2週間前
13

【詩】 朽ちかけた小屋

朽ちかけた 剥きだしの柱に もたれかかって 壁や天井に形どられた 四角く薄暗い空気を 眺めていました 息を吐くたびに 口から私が流れ出て 床に広がって 古びた木目の板に …

小野少吾
3週間前
12

【詩】 牛の背に

知らない道を運ばれていく 知らない牛の背に担がれて どこかよそよそしいような 牛の体温が伝わってくる ゆったり揺れる大きな背中 たがいちがいに上下する肩甲骨 リアルな…

小野少吾
4週間前
12

【詩】 靄

ぱさりと草の音がして しかし体が地に着く感覚が無かった 草の先が軽くたわむだけで 体が少し浮いているようだった あたりは深い谷のように見え 池のほとりのようにも見え…

小野少吾
1か月前
19

【詩】 落ちていく

見渡すかぎりの空の 青のグラデーションのなか 上も下もわからないまま 落ちている感覚だけがある 体が風を切る音 袖や裾がはためく音 空気が耳を掠める音が どこか他人事…

小野少吾
1か月前
19

【詩】 水面の街

湖の上に建つ街は 色ガラスを透かしたように みんな、うす青く染まっていて てらてら光る金属の ビルがまばらに建っていて 鏡のような水の上 ひとは輪になって踊る どこか…

小野少吾
1か月前
24

【詩】 器

この痛みには名前がないから 吐き出すことができないんだ なみなみ注いだ器のように こぼさないように気をつけて 大切に抱えながら 長い道を歩いていくんだ この痛みには…

小野少吾
1か月前
21

【詩】 脈

月夜のように青いグラスで ゆっくり揺らして 夜の海を見ていました 暗く 重たく やわらかく揺れる 夜の海に 声を立てるものは何もなく 遠くで魚が跳ねたとき 二の腕の脈が…

小野少吾
2か月前
16

【詩】 歩きつづけるから

そのまま揺さぶっててくれ 波うつ布の上をわたしは わたしは歩きつづけるから あなたはあなたの指で やわらかく折り合わせた指で 端をつまんで縦に横に そうやって揺さぶっ…

小野少吾
2か月前
12

【詩】 春のやまい

重機がこもった音で やわらかく地面を叩く 春の空気はあたたかく湿って 肢体にかかる重力を増す 水を吸った絵の具のように 五感がぼやけていく 頭の芯から指の先まで もっ…

小野少吾
2か月前
12

【詩】 空白

ふっと静かになる 道路のまっすぐな先が いつもよりよく見える 信号待ちのあっち側にも僕がいる 頬に空気があたっている 遠くから油のにおいがする 自動車が風を切る 下の…

小野少吾
2か月前
9

【詩】 交差点にて

横切っていくトラックの面に 青やオレンジの光が纏わりつく ハイが削られて地を這う轟音に 歩道の小さな木の葉さえ震えないのに 心は夜の冷たい空気に浸って佇む 水の中で…

小野少吾
3か月前
5

【詩】 羽根が落ちる間に

この白い羽根が 地面まで落ちる間に きっといろんなことを思い出して 思い出せるかぎり いろんなことを思い出してから ひとつひとつ丁寧に忘れていったら だんだん頭が空っ…

小野少吾
3か月前
13

【詩】 おもちゃ箱

おもちゃ箱みたいに 頭の中がごちゃごちゃしてるんだ 何年もかけて集めたおもちゃで 頭の中がごちゃごちゃしてるんだ 街の中を歩いていたって 頭の中はおもちゃで散らかっ…

小野少吾
3か月前
22
【詩】 オキシドール

【詩】 オキシドール

白い綿のような
雨の降る夜の道です
駐車場の隅の電灯が照らし出す
霧のようなカーテンのような
ふわふわの雨が
傘を持つ腕に
斜めに降ってあたります
小粒でひんやりした雨が
いかにもふわふわと
綿みたいにあたります
オキシドールを吸わせた脱脂綿を
そっと肌に押しあてるように
ふんわりとあたります

———いいえ私は怪我人ではありません
   傘をさして雨の中を歩けるくらい
   水溜りを踏んでも狼狽

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【詩】 水を蹴る

【詩】 水を蹴る

いつから潜っているのか
もう覚えていない
床の線を伝って
指をそろえ
尾びれを振りおろして
水を蹴る 水を蹴る

幼い頃に教わった
同じ動きを繰り返す
何年も何十年も
何百年も何千年も
同じ動きを繰り返す
ただ繰り返す

水の上にあった
色や音のこと
ぜんぶ忘れてる
ここにはただ
水があって
線が引いてあって

———どこまでもどこまでも
   続いていく水路に
   ほんの数十秒の永遠を
   

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【詩】 ある夕暮れの風景

【詩】 ある夕暮れの風景

ヘラで返したクリームみたいな
雲があわくあかく染まる
遠くまで引きのばされて
はしっこの山の影と溶けあう

五階の踊り場から見はらす町は
夕方の薄闇に浸かりはじめて
あの鮮やかなオレンジの壁も
やさしいモノトーンの夢をみる

浅い川面とコンクリの土手は
やらかい金属のような
しっとりとした手触りで

ゆっくり消灯するように
声もなく暮れていく町よ
この静かなくるおしさは何だろう

【詩】 朽ちかけた小屋

【詩】 朽ちかけた小屋

朽ちかけた
剥きだしの柱に
もたれかかって
壁や天井に形どられた
四角く薄暗い空気を
眺めていました
息を吐くたびに
口から私が流れ出て
床に広がって
古びた木目の板に
じわじわと
沁みていくようです
あそこの隙間の暗がりに
流れ出した私の一部が
滞って澱んでいるようです
それは姿のない
暗闇の中の生き物のように
じっと静かに 無感情に
こちらを見ているようです
私の体は溶けかかって
崩れかかって

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【詩】 牛の背に

【詩】 牛の背に

知らない道を運ばれていく
知らない牛の背に担がれて
どこかよそよそしいような
牛の体温が伝わってくる
ゆったり揺れる大きな背中
たがいちがいに上下する肩甲骨
リアルなつくりものみたいな角
高い木の先がゆっくり空を滑る
涼しくて心地よい空気が降りてくる
この牛には牛飼いがいない
人けのない森の道を
黒々した巨体が
人間を一体、背に乗せて行く
道の先は目に見えない
この牛は足音がしない
この牛と口がき

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【詩】 靄

【詩】 靄

ぱさりと草の音がして
しかし体が地に着く感覚が無かった
草の先が軽くたわむだけで
体が少し浮いているようだった

あたりは深い谷のように見え
池のほとりのようにも見え
ひらけた景色のあちらに
家が何軒か眠っている

夜明け前のかすかな明るさに
薄い靄がゆっくりと漂っている
靄は木々を隠し 家々を隠し
そっと静かに水面にふれる

やがて空から陽が差して
靄が白さを増していく
ゆっくりと薄れて
いつの

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【詩】 落ちていく

【詩】 落ちていく

見渡すかぎりの空の
青のグラデーションのなか
上も下もわからないまま
落ちている感覚だけがある

体が風を切る音
袖や裾がはためく音
空気が耳を掠める音が
どこか他人事のように聞こえる

何もかも離れすぎて
もう見えなくなったのか
もともと何もなかったのか
覚えていることも何もなくて

静かな心が空を見ている
穏やかな空を落ちていく
何もない空を
静かな気持ちで落ちていく

【詩】 水面の街

【詩】 水面の街

湖の上に建つ街は
色ガラスを透かしたように
みんな、うす青く染まっていて
てらてら光る金属の
ビルがまばらに建っていて
鏡のような水の上
ひとは輪になって踊る
どこか知らない国の
ゆっくりした踊りを
踊るひとらの足もとから
いくつも波が広がって
重なって、格子模様を描く
空から降る光は
水面の波に切り分けられて
散り散りになって揺れている
きらきらきらきら揺れている
踊るひとらから離れて
石に腰掛

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【詩】 器

【詩】 器

この痛みには名前がないから
吐き出すことができないんだ
なみなみ注いだ器のように
こぼさないように気をつけて
大切に抱えながら
長い道を歩いていくんだ

この痛みには名前がないから
分かち合うことができないんだ
器の中の水面に映る
自分の目を見つめながら
ひとりきりで歩いていくんだ
見渡す限りの開けた土地を

いつか足がすり減って
息が細くなって
体じゅうに力が入らなくなっても
それでも歩いていく

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【詩】 脈

【詩】 脈

月夜のように青いグラスで
ゆっくり揺らして
夜の海を見ていました
暗く 重たく
やわらかく揺れる
夜の海に
声を立てるものは何もなく
遠くで魚が跳ねたとき
二の腕の脈が少し
軽く添えた手の下で
少し強く波打つだけでした
水面に現れた魚の体が
それがあんまりにも遠く
小さく 白く光るから
感度の高いメーターの
針がかすかに振れるように
血液が波を打つのです
薄雲りの空のグラデーション
あちらやこちら

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【詩】 歩きつづけるから

【詩】 歩きつづけるから

そのまま揺さぶっててくれ
波うつ布の上をわたしは
わたしは歩きつづけるから
あなたはあなたの指で
やわらかく折り合わせた指で
端をつまんで縦に横に
そうやって揺さぶっててくれ
地平線のように見える
あちらの果てを
見つめながらわたしは
わたしは歩きつづけるから
なにも言わなくていいから
ただこの足が地べたに
しゃがみ込まないように
この船が水面に
しずかに落ち着かないように
そうやって揺さぶってて

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【詩】 春のやまい

【詩】 春のやまい

重機がこもった音で
やわらかく地面を叩く
春の空気はあたたかく湿って
肢体にかかる重力を増す
水を吸った絵の具のように
五感がぼやけていく

頭の芯から指の先まで
もったりと鈍っていく
心地よい春のやまいに・・・・・・

いつまでも眠っていられたらと思う
深すぎる温水プールのような
まだ夢の中にいるような
やわらかな重たさに身をゆだねて

【詩】 空白

【詩】 空白

ふっと静かになる
道路のまっすぐな先が
いつもよりよく見える
信号待ちのあっち側にも僕がいる

頬に空気があたっている
遠くから油のにおいがする
自動車が風を切る
下のほうで水の流れる音がする

何かが空を飛んでる
ゆっくり流れるように
しずかに低く飛んでる
ここからは見えないけれど

また僕の中に
ぽっかりと空白がある
ふっとすり抜けて
みんなどこかへ行ってしまう

【詩】 交差点にて

【詩】 交差点にて

横切っていくトラックの面に
青やオレンジの光が纏わりつく
ハイが削られて地を這う轟音に
歩道の小さな木の葉さえ震えないのに
心は夜の冷たい空気に浸って佇む
水の中で揺れる布のように

ここは初めてくる場所なのか
毎日通っている場所なのか
わからなくなった時の目印に
———光をください、青やオレンジの
   形は無くとも
   触れれば温度がわかるような

いつだって何気なく歩いていくことを
身につ

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【詩】 羽根が落ちる間に

【詩】 羽根が落ちる間に

この白い羽根が
地面まで落ちる間に
きっといろんなことを思い出して
思い出せるかぎり
いろんなことを思い出してから
ひとつひとつ丁寧に忘れていったら
だんだん頭が空っぽになって
心が空っぽになって
体が軽くなって
風に吹かれたら羽根みたいに
舞い上がって
地面まで落ちる間に
きっといろんなことを思い出して
思い出せるかぎり
いろんなことを思い出して
でも残像はだんだん薄くなっていって
何度もくり返

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【詩】 おもちゃ箱

【詩】 おもちゃ箱

おもちゃ箱みたいに
頭の中がごちゃごちゃしてるんだ
何年もかけて集めたおもちゃで
頭の中がごちゃごちゃしてるんだ
街の中を歩いていたって
頭の中はおもちゃで散らかってて
少し見上げた視線の先の
空中に見えないおもちゃが浮かんで
散らかって あれやこれや
遊びながら歩いているから
段差に躓いたり枝に顔ぶつけたり
心がこぼれて空に広がったり
うっかり目を閉じて歩いていたら
真横をバイクが走り抜けたから

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