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【詩】 器

この痛みには名前がないから
吐き出すことができないんだ
なみなみ注いだ器のように
こぼさないように気をつけて
大切に抱えながら
長い道を歩いていくんだ

この痛みには名前がないから
分かち合うことができないんだ
器の中の水面に映る
自分の目を見つめながら
ひとりきりで歩いていくんだ
見渡す限りの開けた土地を

いつか足がすり減って
息が細くなって
体じゅうに力が入らなくなっても
それでも歩いていくんだ
静かな水面を大事に抱えて
とても尊いもののように抱えて

やがて水はきれいに透き通っていく
いまにも光になって
空に昇ろうとするかのように
どこまでも透き通って
透明になって見えなくなる
そこに何も無いみたいに





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