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#詩のようなもの

詩 そらのびる

詩 そらのびる

もわっとした空気に
うとうとうと
慌てて非常階段へ

都会の空は
狭いはずだった
けれど今日は
ビルとビルの間に
空(そら)のビルがある
狭い空間を突っ切って
どんなビルより高い

こうして
都会のなかで
大きな自然を
くりぬいた

詩 ガラスの向こうの

詩 ガラスの向こうの

雨降り
駐車場
わたしのもうひとつの部屋
雨から守ってくれる
ガラスの向こうの景色がゆがむ

昨日の人の顔を思い出す
わたしたちと喋ってたけど
ほとんどもうひとりの方見てた

合わない目線を追いかけて
合わない空気に笑みを浮かべて
合わない温度設定が
わたしの頭ボーッとさせてく

今日はエアコン
入れなくても
ちょうどいい温度
まだまだ居場所を探せるね
雨よ
どんどん降ってくれ
薄い車体に打ち付け

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詩 浮かぶ教室

詩 浮かぶ教室

窓ガラスの向こう
机ならべて椅子に座って
浮かぶわたしたち
鏡みたいな
ふたつの教室

ぼーっとしていると
皆がどこかに
引いている蛍光ペン
慌てて隣を盗み見て
本当の教室に
世界は戻る

先生の言葉ひとつから
想像の蜘蛛の巣は
どこまでも広がった

どこにも行けなくても
教室で旅をし続けた

豊かな時間は
小さな机に
いつもこうして
はりついている

詩 イントロ

詩 イントロ

イントロのギターリフ
聞こえてきたよ
揺れる波は
鼓動と共鳴する
ライブの音源

思い出したい記憶は
はじめから無くて
はじめからある
何もない記憶

前にも後ろにも
どこにも行かず
ここにいることを
揺らぎの中で
寂しく知る

気持ちだけが
ゆらりゆらり
いまの位置を高めて
いつしか大人に
なっていった

寂しいと思う
記憶があってよかった
そんな風に
思う日を
待ちながら

歩いている
音の波

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詩 窓

詩 窓

窓の外には
海が広がる
光が水面を
キラキラに化粧する

窓の中には
部屋が広がる
仕方なく使ってる
小さめの古い棚に
埃が今も積もってる

窓の額の中は外
窓の額の外は中

遠くの美しさに
気がついているのなら
遠くの美しさも
眺めているようだ
こちらの絵を

誰かの憧れがあって
夢があって
時間だけが紡ぐ
物語があって

泣き笑いのなかの
キラキラに化粧した
窓辺に今も
佇んでいる

詩 揺らめき

詩 揺らめき

朝の光
雑貨屋さんで
見つけた指輪
わたしの指で
きらきらひかる

冬の間の
低い日差しを
集めるように
わたしに届く

光の届く場所に
いれば傷んでくるけれど
お気に入りを
身につけていたい
日の当たる場所
傷ついても
探している

きらきら
とても
美しい
色には
あらわせない
心のなかの色が
また揺れて

詩 雨雲と傘

詩 雨雲と傘

晴れた空に
油断していた
振り向くと
向こう側で雷雨

雲はもうそこにあり
子どもたちは
公園からいなくなった

わたしは近くの
カフェで雨宿り
ティーラテひとつに
ガレットひとつ

窓辺のソファ席
深く腰かけ
外を見ながら
大人の贅沢
味わってる

今こうして
雨を避ける
屋根を買った
甘いものを口にする
権利を買った
リラックスした時間を過ごす
ソファを買った

避けるもの
たくさん買えるのも

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詩 ひつじ雲

詩 ひつじ雲

ファミレスの
窓の隙間から
のぞくひつじ雲が
美しかった

すぐに忘れてしまいそうな
パーツを綴り
生活の手触りを
確かめている

心地よいものを
長く共にしたい

みんなが違うもの
好んでいるから
いろんな素材に
溢れている

いつも変わる
美しい組み合わせ
揺れ動きを楽しむ
心がぽわんと
浮いてる空

詩 おめかし

詩 おめかし

駐輪場のハンガーが
おめかしする日

髪についた水滴
振り払いながら
いつもの場所へ

急ぎ足は
水たまりの水しぶき
ステップ軽やかに

水滴が乾いた頃には
くるくると
踊っている毛先

部屋の外
静かに騒がしく
音楽は続いている

おめかしして
ステップ
踊っている
音楽と

今度はいつだろう
どうせまた
踊るのだから
おめかししなくちゃと
ハンガーと約束する

詩 朝の海

詩 朝の海

誰もいない砂浜に
ござを敷く
今日買った
ジェノベーゼパン
昨日買った
りんごジュース

海を見ながら
朝ごはん

貝殻
飛行機
灯台
太陽

ほんとうに
素敵なものは
教えられない

素敵なままで
わたしのこころを
まもるのだ

詩 日の出と

詩 日の出と

太陽はひとつ
今日も顔を出す
じわーっ

「どこで見ても同じだよ」
そうかもしれないけれど

その地で
顔を見た瞬間に
感じたものは

いつも初めてで
思いがけない
気持ち

胸の中にひろがる
宇宙にいま
きらりと想いを巡らせる

壮大で繊細な
ひとりであること
思い出し
日の出としばらく佇むころ

詩 庭園

詩 庭園

形のちがう石を
渡って歩く
向こう岸までは
もうすぐか

鯉にえさを
あげる人
楽しそうにしてる

ひとつずつ
ひとつずつ
途切れながらも
次がある

よく出来た橋よりも
趣のある形を
渡りたい
楽しそうだからと
選べるうちは
選んでる

向こう岸に
辿り着くまでは
不安定の美しい
調べにのせて
軽やかに

詩 追い越していく

詩 追い越していく

貨物列車を
追い越していく
ピンク色の
空があたりを
包むころ

今が記憶を
追い越していく
電車の窓から
馴染んだ文字
見えるころ

あの子が働くビルを
追い越していく
灯りがついてること
確認したころ

貨物列車が
追い越していく
空の光が
奪われたころ

生活は進む
誰かがどこかで
今日もまた
やさしい色を
分け合いながら

詩 対話

詩 対話

視線の先
助けを求める
彼女はもう
いつかの時代の人

生きることは
苦しさとともに

名前もない
時代背景を
語る多くの中の
ひとり

いつかどこかのまちで
照らされ誰かの目に
とまったとき
彼女はまた
生きている

いつかどこかの
わたしもまた
何かの名前をもって
存在すること
理解する

多くの画家は
もういない
絵のなかで出会う
市井の人と
目を合わせ

いつまでも過去と
対話していよう

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