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不確定日記

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日記とは限らない
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2020年2月の記事一覧

不確定日記(曇天と体)

不確定日記(曇天と体)

溜まっていた洗濯物が限界の量を超えたので洗濯機を回す。天気は悪く、屋内に干す。

休日より平日のほうが人出が多い気がする。皆、仕事をしている。そう思って人混みを見ると、「じゃあ。よろしくお願いします」とか「おつかれさまです」などと言って別れたり、駅前で丁寧に名刺交換している人たちが見えてくる。

夕方に友人と待ち合わせて舞台を観に行く。生の肉体と演奏、舞台装置と照明、観客。舞台というのは実体がある

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不確定日記(マスクと輪郭)

不確定日記(マスクと輪郭)

休日の表参道も渋谷も新宿も、いつもより少し少ないにせよ人は大勢いる。行列の先は流行りのお菓子かと思いきやおしゃれなマスクを売る店だった。
車内や雑踏も、しんとしている気がするのはマスクのせいだろうか。
マスクは小さい布なのに、個室みたいだ。あたたかく、自分のにおいがして、公共と距離を取れる。そうして街を歩く。口紅を物色しに行こうかと思ったが、億劫でやめた。

日記を書いていない間には、日記に書くよ

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不確定日記(春に追い越される)

日記をさぼっているうちに、明確に春になってしまった。
春一番が吹き始めたときはまだ眠っていたので、ベランダに置いてある捨て損ねたペットボトルがガランガランと転がる音に怯えて目が覚めた。
寝起きは花粉症を抑えるところから始める。寝転がったまま点鼻薬を鼻に差し込み、目薬をビシャビシャかけて天井を見る。
半期に一度の、トレンチコートを買うかどうか迷う季節でもある。今年はユニセックスで小汚い格好がしたい気

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不確定日記(新馬場)

不確定日記(新馬場)

シルクスクリーンの工房に行ってみないか、と誘われて行ってみた。
駅からの道沿いの神社では河津桜が満開で、濃いピンク色の花を多くの小鳥がついばんでいる。メジロは小さいがヒヨドリは重くて動きも激しいので枝が揺れ花弁が舞う。咲いているあれを食べ物として見ると、風景はまったくうららかではない。

デジタル製版は時間がかからないし、作業手順もマニュアル化されていてわかりやすい。刷る作業自体が楽しくなり、くだ

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不確定日記(したくない故の熱)

そういえば換気扇は直っていない。途中は端折るがどうも直る気がしない(人的な)事態が続いており、もういっそのこと引っ越してしまいたい気持ちになった。近所の食品スーパーが軒並み閉店し、大きくて綺麗な店ができてしまったことや、一度も行ったことも交流したこともない古いスナックが取り壊されたことで町への愛着が薄れてもいる。

こういう時、私は少し嬉しい。物件を検討できるからだ。私は間取り図が好きなほうで、物

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不確定日記(米とお嬢さん)

夢で、「この世は離れ」という演歌を歌いながら起きて、そうなのかもね、と適当なことを思う。

米は炊いた。以前、忘年会にて(ゲームの景品がいくつか並ぶ中その時大きな鞄を持っていなかったので)選んだ米二合があったので、それを。高い米の味がした。
私は米に対する執着心が少なく、なんならおかずだけ食べるのでも平気だが、たまに良いのを食べると、軽んじて悪かったと反省する。

あとはだいたい疲れてぐったりして

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不確定日記(酒)

また途切れがちになってしまったのはお酒を飲み過ぎていたから。

某日は夜、サイゼリヤで俳句を作っていた。
近頃俳句からは離れているのでスイッチを切り替えたく、500mlの白ワインを飲み切るまでに辛味チキンとカプレーゼ(的なもの)と豆の温サラダとアンチョビのピザ。二時間ほどでどうにかできた。

漫画の内容を考えるときと作画では使う頭の箇所も身体の動かし方も違うが、漫画の内容を考えるのと小説を書くのと

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不確定日記(カナブン、歩調、チャーハンの恨み)

アプリで少し前の「子ども科学電話相談」を聴きながら仕事をする。冬休みの『「昆虫」スペシャル』の回。昆虫食の話題が出た時に、研究者の先生たちが嬉々としておいしい昆虫について語り始めたので、そういうものなんだな、と思う。科学のそういうところが好きだ。
「カナブンはいまいちでした。ピーナッツのカスが口に残る感じ」(意訳)と丸山先生が言った時、私はちょうどピーナッツの飴がけを食べていたので、なるほどと思っ

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不確定日記(いいわけ)

二日ほど、日記を書く気分ではなかったし自炊もせず、仕事と読書をした。すべてをバランスよく生活を回した方が長期的な健康には良さそうだが、どうも偏る時もある。
そういう時は脂と塩分を求めがちで、豚骨ラーメンで腹を下して、でしょうね、と思う。

子供の頃からルーチンワークが苦手で、毎日の予習復習はおろか、歯磨きの意味もまったくわからなかった。今は歯を磨かないのは気持ち悪いが、そう思うたびに自分にびっくり

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不確定日記(よそ見と父)

一昨年亡くなった私の父の職業はテレビドラマの監督だった。たまに業界の昔話なんかを興味本位で聞くことはあったが、お互いの作るものに関する話をしたことはほぼなかった。(「出海ちゃんの漫画はよくわからない」と言われたことはある)
性格も全然違って、非常にせっかちで一時間前に集合場所に行き手持ち無沙汰で一五分だけ映画館に入ってすぐ出るような父と、気づいたら遅刻しているような私はそんなに距離の近い親子でもな

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不確定日記(寿司食べたさ)

夢。寿司屋のカウンターで目が覚める。卵焼きを頼んで、伝票を見るとすでに1万円ほども食べている。味の記憶がない事にショックを受ける。
濃い茶色のカウンターで、突き出しの煮物の小鉢が手元にある。ラジオの音がする。
背後の座敷で知り合いが飲んでいるので振り返るかどうか迷うが気付かれている。腰に爪のあとがあるから疲れているんだね、と言われる。
南の国出身らしい店員の女性が、しきりに山形に住みたいという。雪

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不確定日記(よそ見じゃない景色)

友人と寄ったファミリーレストランのレジに並んでいたときに、前で会計をしていたのは女性とその孫と思しき幼児だった。
幼児は水色の釣竿のオモチャを持っている。
女性は札を出し、レジ横に積んである丸いパンの値段が税込かどうかを店員に訊いた。幼児は手に握った小銭を会計トレーに出したくて仕方がなく、伸び上がると釣竿は足元に落ちたが、その事にまったく気付かない。小さな足の間から見えるプラスチックの竿を私は拾う

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不確定日記(身体としてのキッチン)

以前、ミステリーのドラマ(たぶんこれ)で殺人の容疑者である一人暮らしの女性が分不相応な家賃の部屋に住んでいる、と刑事に詰問されて「コンロが二口あったから」と答える場面があり、私が部屋を探すときに真っ先につける条件がそれなので、主人公に過剰に肩入れした覚えがある。(いきなりのネタバレをお詫びするべきだろうか)

台所のことは、身体の延長のように思っている。
一人暮らしの部屋は、すべての物の配置が自分

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