不確定日記(よそ見と父)

一昨年亡くなった私の父の職業はテレビドラマの監督だった。たまに業界の昔話なんかを興味本位で聞くことはあったが、お互いの作るものに関する話をしたことはほぼなかった。(「出海ちゃんの漫画はよくわからない」と言われたことはある)
性格も全然違って、非常にせっかちで一時間前に集合場所に行き手持ち無沙汰で一五分だけ映画館に入ってすぐ出るような父と、気づいたら遅刻しているような私はそんなに距離の近い親子でもなかった。
ただ、いつだったか(テレビで映画でも見ていたのかもしれない)「真剣な話をしているときに、顔じゃなくて、手元のアップとか、室内の虫とかのカット挟むのいいよね」と私が言った時だけ「そういうのすぐ撮っちゃう」と父が答えたので、変なところが似るもんだなあと思った事だけ覚えている。
ちょっとした時(「そこが京都である」と説明するために鴨川の橋から徐々に上を映して空、とか)、特にストーリーとは関係のないヘリコプターが飛んでいるカットを挟みたがるので、スタッフから「ほら、岡屋さん、ヘリコプター飛んでますよ、撮っときますか」とからかわれるのだ、と面白そうに話していた。

拙著『ものするひと』の最終話でヘリコプターが飛んでいるのはそのことを思い出したせいもある。私の漫画は一人で描いているので、誰からも「飛んでますよ」とは言われないから気楽だ。

そんな奇特な