オカヤイヅミ

漫画家・イラストレーターです。「雨がしないこと」「ものするひと」「いのまま」「おあとが…

オカヤイヅミ

漫画家・イラストレーターです。「雨がしないこと」「ものするひと」「いのまま」「おあとがよろしいようで」など。趣味は自炊です。

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最近の記事

不確定日記(水無月)

 オリーブオイルが高い。こういうことはあとで読み返したときに絶対忘れているから日記に書くべきだ、と思ったので書いた。  昼から電話で打ち合わせ。すぐ脱線する私の話をやんわりまとめようとしてくれる編集氏。まとまらなかったので明日また話すことになる。  午後、梅干し用の梅も届いて追熟していたののヘタを取り洗って塩に漬ける。コロコロと容器の中に重ねていく景色は、最近隙があるとやってしまう「スイカゲーム」に似ている。  そのあと画材店に額縁を買いに行く。小さいのをいくつか買って、

    • 不確定日記(到来)

       どうも髪の毛がまとまらない、と思っていた。一昨日シルクスクリーンの工房から帰ってきて朝ぶりに鏡を見た時、だいぶ乱れていたが、作業に没頭していたせいかと思っていた。今朝はいつもよりヘアオイルを多めにつけた。しかしどうも不穏だ。小蝿が多い。  昨日、ただじっとして体力を回復したので、今日は食材を買いに出かけた。道沿いの民家の庭木の影と日向の境があまりにくっきりしていたので「デッサンでは形の境目を意識しろ」と言われたことを思い出す。影の内側にだけ、赤褐色の実が落ちて潰れていた。私

      • 不確定日記(二度会う)

         グループ展に出す作品を作るために、シルクスクリーン版画を自分で刷ることのできる工房に行った。バス停を降りてから、急で細い坂道を降りる。午前十時はもう暑くて、見晴らしのいい坂道は祖父と父の墓のある霊園を思い起こさせるからか、お盆のような気持ちになった。まだ梅雨前で、梅干しも漬けていない。  工房に着いて、PCを借りて版を作るためのデータを修正していると、Kさんが入って来た。「運命?」と言われる。  ここ1ヶ月でKさんと偶然会ったのは二度目だ。前は時間が空いて新宿のデパートの地

        • 不確定日記(潰して煮る)

           誰かの怒鳴り声で目が覚めた。マンションの共用部で誰かが怒っていた。怒号の内容までは聞こえなかったが「帰れ」という言葉だけが何度も聞こえた。その後、いなすような優しい声が聞こえ、怒号はおさまり、優しい声を出せる人はすごいな、と思う。私はといえば、足がすくんでいた。高所と、地震と、怒鳴り声が怖い。怖いと、足首のあたりが震える。  恐ろしさで目覚めたことを引きずりたくなくて、再度少し眠った。  昨日干し忘れた洗濯物を洗い直し、植物に水をやる。青紫蘇とバジルは、先日少し食べたが、

        不確定日記(水無月)

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        • 不確定日記
          132本
        • お焚き上げ
          7本
        • 不確定旅日記(台湾)
          3本

        記事

          不確定日記(夜の梅)

           梅があるのがわかる。ずっと匂いがしている。Yさんが庭の木になったのを送ってくれた。大きな梅の木を想像して嬉しくなる。熟れた梅のにおいはこの時期しか嗅げなくて、一年で一番好きなにおいだ。仕事をしているときも、キッチンでも、私は壁のほうを向いているから梅の匂いは常に背後にある。見えないけれど、少しの緑から濃い黄色、しっとりした黄赤までのグラデーションが、あるなあ、と思う。  匂いを嗅いでいたいから、梅仕事をまだしたくないが、匂いに急かされて早くしなきゃ、とも思って、しかしどちら

          不確定日記(夜の梅)

          不確定日記(ピンク色のこと)

           歯列矯正用のリテーナーを入れるためにもらったケースが、派手なピンク色だった。  わたしが子供の頃は1980年代で、世間的にはまあまああった色とジェンダーを紐づける偏見は、我が家に関してはなく、というか、「ピンクは女の子の色、というような刷り込みも、女が過剰に女の役割を演じるのも大変によろしくない」という明確な教育方針のもと、母はわたしに「女児向け」のものを買うのが嫌そうだった。そのため、ちょっとピンク地にキャラクターの絵が描いてあるビニールの靴が欲しいなと思ってもあんまり

          不確定日記(ピンク色のこと)

          不確定日記(同じ箱に入れない)

           朝、ドアのチャイムで起きた。下半身はレギンスだけだったので、その上にズボンを履いたが、寝癖もむくみもそのままで、そうやって出ると、宅配便の人はいつも少し困った顔で、でも明るく、「すいませんねー!」と言ってくれる。本当に申し訳ない、と思うがわたしは本当に寝起きが悪い。  ところで、先日、はじめて会った人が、同じ年頃の同じ職種の人とそっくりだ、と思った。髪型も、背格好も、服装も。思い出してみると、他にもそっくりな人が何人かいる。そう思い始めると、誰がどのひとだか、わからなくな

          不確定日記(同じ箱に入れない)

          不確定日記(さっと惜しむ)

           「かるかや」に並びにいきましょう、と近所の同業の友人と待ち合わせた。やっぱり朝は浮腫んでいて、顔がぼんやりしている、と思いながら出かけたら10分歩いたところで携帯電話を忘れたことに気づく。さっき通り過ぎた工事現場の警備員の前を再度通るのが恥ずかしい。取りに帰って、また今度は別の道を通った。合計25分歩いて池袋西武の屋上に着くと、もうだいぶ行列ができていた。並んでいる時は曇っていて雨が降りそうだったが、注文して席に着くと晴れた。列には傘をさしている人がちらほらいたが、日差しと

          不確定日記(さっと惜しむ)

          不確定日記(味覚の情緒)

           ここ最近、あれ、なんかすごい美味しいな、と思うことが多く、それはタコだったりケイジャンチキンサンドだったり干し椎茸だったり、元々好物ではあるが、毎回しばらくジーンとしてしまうような感激があるので、ちょうど大雨だったりもして気候や体調による情緒不安定を疑っていた。わたしは自分の気分の上下を基本的にあまり信用していない。どこか他人事なのは、子供の頃からの癖だ。同級生に無視された時などに役に立ったようにも思うし、相談相手として冷めすぎている、と言われたこともある。  ともあれ、

          不確定日記(味覚の情緒)

          不確定日記(残り香探し)

           西武が買収されて改装するのは知っていたし、屋上の飲食店や、地下に入っていたスーパーが徐々に閉店していたから、そろそろかな、と思っていたらやっぱり池袋西武の屋上の老舗うどん屋「かるかや」も閉店するらしい。惜しむ人たちで連日行列だと聞いていたので、見るだけでも、と上ってみると、昼食どきも過ぎた頃だったのでもはや品切れで誰も並んでいなかった。景色を描いておこうと、資料用に写真を撮りながら歩く。鶴仙園で多肉植物を眺め、小さいものを一つ買おうか、とも思うが、私は植物を野放図にしがちで

          不確定日記(残り香探し)

          不確定日記(足のつる人)

           目覚ましのアラームを早めにかけると、無理やり目が覚まされるので、びっくりした拍子に直前に見ていた夢を忘れてしまう。いつもより少し遅めの時間に設定して眠ったが、早朝に地震があり、警報が鳴ったので結局飛び起きた。私の住んでいる場所はその後なにも起きなかったが、遠くで大きく揺れたようだった。二度寝に入りそうな頃、今度は足がつった上に猛烈に尿意があった。悶絶し、足を揉みながらトイレに行き、それでもどうしてももう一度眠りたかった。  警報の時点でアラームは止めてしまったので、だいぶ遅

          不確定日記(足のつる人)

          不確定日記(ある日とない日)

           割と出かけている。人にも会って、食事をしたり酒を飲んだりしている。しかし気分よくたくさん話して酔っ払って帰ると満足して眠るので、日記を書く気になるのは、なんにもない日だ。  湿気で肌の表面がベタベタするのが好きじゃないので、この次期以降はなるべくサラッとした薄い生地の服しか着たくないし、裸足でいたい。スプレー式の日焼け止めは足の甲に便利だな、と思っていたら、使ったあたりの床を踏むと滑るようになった。拭かないと、とは思うものの、スリッパの底でスーッと滑るのが少し楽しくもなっ

          不確定日記(ある日とない日)

          不確定日記(空が重い)

           仕事が進んでいないのを気に病んでいる。「台風は今日で終わりなんですかね?」と美容室で聞かれて、台風の最中なのを知った。雨の音がしたので傘を持って出たが、道中は降っていなかった。ただひどく眠かった。最近髪の毛ボブにしたので、襟足を少し剃られた。切った髪の毛のぶん軽いはずだが、気圧のせいで大気中の水分がすべて頭に乗っているように感じる。  空腹と眠気が強く、タイ料理の弁当とバスクチーズケーキと卵ひとパックを買って、一目散に帰宅し、食べて、少し机に向かい、頭痛薬を飲んでドロっと

          不確定日記(空が重い)

          不確定日記(文学フリマ東京38)

           キャリーバッグで即売イベントの出店をしに行くのははじめてだった。旅行に行く時も、いつも2泊程度までならトートバッグで行くようにしていたのは、車輪があると移動が不自由な気がしたからだけれど、最近、多少の動きにくさよりも、重いものを持つ方が辛い、ということに気がついた。出店のための小物や、グッズの在庫の入ったケースをコロコロと押して歩くとちっとも辛くないのが不思議だった。  浜松町駅のモノレール乗り換え口はだいぶ混んでいて、うっかりするとエスカレーターを降りるスペースがなさそ

          不確定日記(文学フリマ東京38)

          不確定日記(不確定日記を売る準備)

           マンションのゴミ置き場に立派な仏壇が捨てられており、私の部屋のドアを閉めて外に向かう時にそれは必ず私の真正面にあったので、出入りのたびにハッとしていたが数日経つと直射日光に照らされる仏壇(空)はむしろ平和な感じもした。周りには他に、二層式の洗濯機、70年代風の合板の食器棚、最近の型の掃除機が捨てられていた。初夏というよりはもう夏と梅雨が混ざり合ったような天気で、仏壇は時折濡れていた。  冊子は当初、溜まっていた掌編小説をまとめたものだけを作るつもりだったのだが、ここで書い

          不確定日記(不確定日記を売る準備)

           未確認歩行体

           文学フリマ東京38で販売する小説集に収録する、「未確認歩行体」を期間限定で公開します。  小説集『可能性の熊』はこんなかんじのものが15編入った冊子です。 文学フリマにご参加の方は是非お寄りください。 他に、日記をまとめた『不確定日記』も販売します。 また、同じブースで小説と漫画のリトルプレス『ランバーロール』も販売予定です。 詳細はこちらをご確認ください。 https://c.bunfree.net/c/tokyo38/h1/E/26  金井は色が白いので制服のブレ

           未確認歩行体