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不確定日記(潰して煮る)

 誰かの怒鳴り声で目が覚めた。マンションの共用部で誰かが怒っていた。怒号の内容までは聞こえなかったが「帰れ」という言葉だけが何度も聞こえた。その後、いなすような優しい声が聞こえ、怒号はおさまり、優しい声を出せる人はすごいな、と思う。私はといえば、足がすくんでいた。高所と、地震と、怒鳴り声が怖い。怖いと、足首のあたりが震える。
 恐ろしさで目覚めたことを引きずりたくなくて、再度少し眠った。

 昨日干し忘れた洗濯物を洗い直し、植物に水をやる。青紫蘇とバジルは、先日少し食べたが、もうどこを食べたのかわからない。そんなに晴れてはいなかったが、とても暑かった。リモートで何人かと話す仕事をしている間も、窓を開けていた。

 夕方、梅を洗ってジャムを煮た。下茹でをしたらまだ少し苦かったので、流水に晒す。あんな匂いなのに、梅の実はとくに甘くはない。水を捨て、種をとって元の半分くらいになった果肉の七割の重さの砂糖を足して煮詰めると、きちんと甘酸っぱくなる。瓶に移すのが下手なので、白い布巾のそこかしこにオレンジ色の透明なジャムが飛び散って光った。生の梅に比べると、ジャムの匂いはしっかり「食べ物」に寄っていて、もちろんそのために私が煮たのだが、ほんの少し、そうまでして食べてなんかごめん、とも思う。出来立てを小皿にとって舐めたらもうまったく苦くなかった。

そんな奇特な