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不確定日記(到来)

 どうも髪の毛がまとまらない、と思っていた。一昨日シルクスクリーンの工房から帰ってきて朝ぶりに鏡を見た時、だいぶ乱れていたが、作業に没頭していたせいかと思っていた。今朝はいつもよりヘアオイルを多めにつけた。しかしどうも不穏だ。小蝿が多い。
 昨日、ただじっとして体力を回復したので、今日は食材を買いに出かけた。道沿いの民家の庭木の影と日向の境があまりにくっきりしていたので「デッサンでは形の境目を意識しろ」と言われたことを思い出す。影の内側にだけ、赤褐色の実が落ちて潰れていた。私を含め、道ゆく人の二割ほどが日傘をさしている。

 食材を買い込み、保冷バッグに刺身や野菜を詰めたまま、近所のギャラリーでやっている展示をのぞく。何日か前に作品はじっくり見たので、作家に挨拶してレモンと塩の入った飴を「暑いから」と渡す。ご近所付き合いみたいだな、と思う。

 帰って、花椒と唐辛子の入った辛いスープ麺を作る。具がきのこや野菜ばかりになったので、刻み揚げがあったな、と、冷蔵庫から袋を取り出して手を突っ込むと、思いがけない感触だった、指の上で、グズ、と崩れる。ちょっと飛び退り、袋ごと捨てた。昨日しばらく台所に出しておいたせいだ。これは、もう、あれだ。高温多湿の季節になってしまった。ダリの「記憶の固執」の風景を思う。手を洗った。私の髪の毛は、概ねストレートだが、何%かだけ、くるくると縮れたものが混じっており、湿気の多い時だけ表面に現れて丸まりはじめる。辛いスープは味が薄かった。

そんな奇特な