不確定日記(よそ見じゃない景色)

友人と寄ったファミリーレストランのレジに並んでいたときに、前で会計をしていたのは女性とその孫と思しき幼児だった。
幼児は水色の釣竿のオモチャを持っている。
女性は札を出し、レジ横に積んである丸いパンの値段が税込かどうかを店員に訊いた。幼児は手に握った小銭を会計トレーに出したくて仕方がなく、伸び上がると釣竿は足元に落ちたが、その事にまったく気付かない。小さな足の間から見えるプラスチックの竿を私は拾うべきか迷いながら見ていて、落とした本人か祖母が気づいたら一番良い、と他力本願に思いつつ「タコだね」と言った。
釣竿の先に釣り上げられている獲物の事だ。糸の先に常にくっついているタイプのそれがなんの形なのか、幼児が落としてから気になっていた。
友人は私が何を言っているのかわからないと言う顔。
「ほら、足元。私たちのじゃなくて。」
と言ったらようやく「ほんとだ」と気付く。まず同意してくれるのは友人の優しさである。そしてちゃんと呆れてもくれる。
「ほんとそういうのよく見てるよね」
そこで私はようやく、私が見ていた景色が些末な事なのに気づくのだ。それがタコかどうかは今会計のレジに並んでいる、という用事からはどうでも良い事だった。

同じ友人と住宅街を歩いていた時、私は前方を行く自転車に乗った人が背負っている楽器ケースを指して、「あれはユーフォかなあ」と言った。チューバと同じ形の、もう少し小さいユーフォニウムという楽器。私も友人も吹奏楽部出身だ。しかし友人は、そもそも前方に楽器を持った人がいる事に気付いていなかった。え、何が?と訊かれて、並んで歩いているのに見えている物が違うのに驚いた。その時も友人は優しくこちらに歩み寄ってくれ「ユーフォだよ」と同意した。

どちらの時も私のよそ見に付き合わせる形になったが、私はよそ見しかしていないので、友人がその時見ていた景色を知らないのだった。今度は、え、じゃあ今何見てたの、と聞いてみようと思う。というこれはメモだ。

ちなみに私も友人も漫画家で、やっぱり描かれている景色は全然違う。

そんな奇特な