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ドイツの朝食パーティーに「おにぎり」を。

先週無事に、語学学校が一旦終わりました。
今日は語学学校の終了日にあった「朝食パーティー」について書こうと思います。


朝食パーティーは突然に。

語学学校のクラス終了日の前日、授業中に先生が出した問題に「朝食パーティーの招待状にお返事を書く」というものがあった。

ちなみにこの「パーティーのお誘いとお返事」の問題は、ドイツ語の入門レベルには定番と言っていいくらい色々なところで見かけている。
しかしこの「パーティー」というのはテキストから察するに、正装したちゃんとした感じのものではなく、ホームパーティーのイメージが強い。皆が一品持ち寄りで誰かの家や公園に集まり、皆で会話と食事を楽しむという感じのようだ。

またこの「朝食パーティー」というのも、日本人にはあまり耳慣れない言葉だと思う。
パーティーといってもお酒などは(多分)飲まず、コーヒーを片手に、パンやハム、チーズ、果物やカットしたニンジンやきゅうり、ミニトマトなどをつまみながら会話を楽しむらしい。
以前夫の職場でも開催されていたし、「Frühstück Party」と調べると朝食パーティーに持っていくもののアイデアなどがまとめられていたりするところを見ると、少なくともドイツではわりと開催されているイベントなのだろう。

朝~午前中に、長くても1時間程度の短時間で行われるとてもカジュアルなパーティーが「Frühstück Party朝食パーティー」と言って良さそうだ。

そんな朝食パーティーのお誘いの課題に、私はこんな感じで答えた。

朝食パーティーを開催するのはとてもいいアイデアですね!
私もぜひ参加したいです。
私は"おにぎり"を持っていきます。
では、また明日!

超初心者のによるドイツ語なのもあるし、カジュアルな返信文とのことだったのでざくっとこんな感じのことを書いた。

他の生徒たちも朝食らしいメニューやパーティーらしいケーキやジュースを持っていくと書いていた。そんなお返事を生徒に各々読み上げさせたあと、先生は言った。



「明日、『朝食パーティー』をしましょう!
飲み物や食べ物を忘れないようにね!」



えっ!!本当にやるの?!
課題として作られていた招待状に「このクラスはインターナショナルなクラスなので云々……」みたいな内容が書いてあったので、いまいちドイツ語が読解できていないものの、なにかインターナショナル感を出したほうが良いのかと思い書いたのが「おにぎり」だった。
なのにホワイトボードには宿題の内容とともに「パーティーで食べる食べ物!忘れないように!」と書かれているのだ。
え……私、本当におにぎりを作るの?と、焦っているうちにその日の授業が終わってしまった。


おにぎりを作る覚悟を決めるまで


日本だったら簡単な「おにぎり作り」も、
ドイツでやるとなると結構な大仕事だ。


そもそも我が家には炊飯器がない。
なので普段はお鍋かフライパンでまとめてお米を炊いて冷凍し、必要な分を温めて食べている。
お米を水にさえ浸けてあれば40分程度で炊きあがるのだけれど、朝7時過ぎには家を出ないと授業に間に合わない中、炊飯からするのはなかなかきつい。


それに日本人にはあまり受け入れられない、ヨーロッパナイズされた「エセ日本料理」が一般化しているヨーロッパで、本物の日本料理が受け入れられるのかも気になる。
そして日本人だとときどき話題になる「他所のお家のおにぎり食べられない問題」も頭をかすめた。


時間&気遣いコストが高いわりに、
良い反応をもらえる未来が見えない。


早起きして準備することはできる。
ただそれで作ったからと言って、興味を持って食べようとしてくれるか分からないし、こちらを気遣って無理をして食べているのを見るのも辛い。
そういう意味でも色々リスキーだと思ったのだ。


先生は残念そうにしていたけれど、別のものを用意してもいいと言ってもらえたので、クラスにいるもう一人の日本人の方にも相談して、放課後に日本の食材を扱うアジアンスーパーへ行くことにした。

ちなみに彼が言ったのは「 味噌汁 」だった。
彼はゲストハウスに住んでいてあまり調理器具も無いらしく、作って持っていくこと自体が難しいらしい。
それもあって、2人でかぶらないようにアジアンスーパーで買った日本のお菓子などを用意してパーティーを少し賑やかして終わる、というのが狙いだった。


しかし、海外に住んでいる人はわかると思うが、日本で100円もしないお菓子がこちらで買うと3倍どころでは済まない。ポッキーなどを1,2箱買えば1,000円を軽く超えてしまう世界なのだ。
しかも日本の定番であるせんべいなどの米菓子は存在せず、チョコレート菓子かグミ、あとは日本ではほとんどみかけない「MOCHI」と書かれた甘いお菓子だけだった。値段の高さにふたりで引き、偏った日本のお菓子レパートリーにもそそられず。


とはいえ、それにほかの生徒が結構な割合でケーキやジュースを持ってきそうだったので、これ以上ケーキや似たようなドイツのお菓子を増やすのも、気が進まない。

結局彼は、当初発表していた「 味噌汁 」を実現するため、インスタント味噌汁を買った。そして私は覚悟を決めた。



もういい、私はおにぎりを作る!!



お米は先に炊いて冷凍しておき、翌朝おにぎりにしようと決めた。
おにぎりを作ってしまってから冷凍や冷蔵するのが朝の手間は減るけれど、炊いたご飯を冷蔵庫に一晩おくのはご飯が固くなりそうな気がするし、冷凍だと解凍したときの具や味付けに変化が出そうな気がして嫌だった。

適当なものを食べさせるなんて日本人の名が廃る!とまでは言わないけれど、私が美味しいと思えないものを美味しいと言われても、微妙な気持ちになるのは目に見えている。
なのでせめて、自分が納得できる状態をめざすことにした。

炊いて混ぜる用と具を入れる用で分けたご飯。
いずれも一旦冷凍庫で眠っていただいた。

おにぎりを作ると決めてから次に悩むのは味付けだった。
日本の定番といえば梅干し、鮭、昆布、ツナマヨ、たらこなどだろうけれど、梅干しは話の種にはなるだろうけれど受け入れづらい人が多そうだし、鮭はシンプルに高い。
こちらで鮭を買うと日本の2倍は余裕でしてしまうし、おにぎりに合うような塩鮭なんてアジアンスーパーで見かけるかどうかのレベルなのだ。

昆布は我が家に塩昆布があったけれど、こちらも海藻を食べる文化のない国が多いこと考えると厳しそうだし、たらこはドイツでも「キャビア」としてクリーム状になって売られているけれど、生臭いと感じる人が多い気がした。

個を出しすぎず、でも日本っぽさも感じられるおにぎりとは……と悩みながら炊いたお米を冷凍して、その日は眠りについた。


翌朝、ドイツで初めてのおにぎり作りへ

翌朝5時半頃。
いつもより30分以上早く起きた私は、前日冷凍したご飯を解凍し、その間におにぎりの具を作っていく。
今回の持っていくと決めた味付けは、ツナマヨとふりかけを使ったおにぎりだった。

ドイツのツナ缶は総じて大きい。
3分の2くらいとってマヨネーズとまぜまぜ…



ドイツにもおにぎりのお店がいくつかある。
前日夜に調べてみたところ、そのお店のメニューにもツナマヨがあったので、海外でもウケが良いのではないかと思ったのだ。
幸いドイツでもツナ缶もマヨネーズも一般的で簡単に手に入るし家にある。水気をよく切ったツナにマヨネーズを入れ、日本の醤油を隠し味にしてツナマヨを作った。


ふりかけは、先日知人から頂いたものが家にあった。
ふりかけは日本ならではの味でありつつ華やかな色味になる。
海外は「白米と海苔」みたいな白黒のカラーリングの食べ物はあまり無いし、別の色があれば日本食に馴染みのない人にも手を伸ばしやすくなるのではないかと考えたのだ。

しそならヴィーガン用に!と思ったけれど、
パッケージに鰹節と書いてあって撃沈。(笑)


味は日本の定番「のりたま」と和っぽい「香味しそ」。
語学学校の休憩時間で「アジアには卵を甘くする文化がある」という話に驚愕していた欧米の人たちがいたので、どうかな……と思ったのだけれど、いくつかだけ作ってみることにした。
「のりたま」はそこまでタマゴ感もないし、まあ驚きとともに楽しんでもらえればと思った。

もう一種類の「しそ」は、和風な味でこちらも新鮮かなと思って選んだ。
ヨーロッパではゆず・わさびなどの日本でも馴染みのある薬味をちょくちょく目にする。なので「しそ」も面白がってくれる人がいるかと思ったのだ。
本当はこのおにぎりをヴィーガン向きのおにぎりとしたかったのだけれど、この「しそ味」ですら魚が入っていてできなかった。
日本にいるとヴィーガンが苦労する、みたいな話を聞いたことがあったけれど、ふりかけでも感じることがあるんだなあと思ったり。
クラスにヴィーガンの人がいないことを祈りながらしそふりかけを白いご飯に混ぜていった。


おにぎりのまわりにする塩や全体の味付けは、日本でつくるよりも少し濃い目にした。
これは私だけかもしれないのだけれど、ドイツにいると日本ならではの味が感じにくい。ドイツの日本よりも乾燥した気候のせいなのか、日本料理で大切な「香り」や「風味」とよばれるものが感じにくいのだ。
水が硬水だからかお味噌汁の味も同じように作っても少し違った感じになるし、味噌の香りも感じにくい。

なので、全体的に味や風味が分かるように調味料の量を調整した。逆にツナマヨは醤油以外にも生臭さが出ないように少し胡椒を入れてみたりという微調整もしてみた。
ほとんど自己満足の世界だけれど、少しでも気に入ってもらえたら嬉しいと思いながら味を整えていった。


おそらく人生で1番神経を使って作ったおにぎりたち。

他の人が持ってくるケーキなどもあるので、おにぎりは2,3口くらいで食べられるこぶりなサイズにして三角に握る。
最後に小さめに切った海苔を「THEおにぎり」になるように巻いて完成!
衛生面を考えて、ご飯や具材に手が振れないようにを意識したせいで予定よりも時間がかかってしまったけれど、なんとかかたちになった。

すこしでも和風な雰囲気が出せるようにと、茶道で使うお盆におにぎりを並べ、風呂敷で包んでみる。わかりやすく日本感が出せただろうか。
なんとか家を出る時間までにできあがった。


お茶道具とこういう風呂敷などの和小物を
持ってきておいてよかったと心から思った。

いよいよ朝食パーティー開始!

この包みを片手に語学学校へ行き1時間半ほど授業を受けた後、ついに「朝食パーティー」が行われることになった。

皆が買ってきたお菓子やケーキを並べる中、一際異彩を放つおにぎり。
皆買って持ってきたケーキやパン、チーズばかりというのもあって、和風なお盆に載せて置かれたおにぎりは、皆の注目の的になった。
自分だけ気合が入りすぎてしまったかな……と思ったけれど、うちのクラスのハーマイオニー(と私が勝手に心で呼んでいる頭脳明晰なクラスメイト)が12年イタリアに住んでいた経験を活かした手作りティラミスを持ってきていたので、そこまで私ばかりが気張っている感じでもなくなった。



一方で、先生は「作ってきたの?」と驚いていた。
作れないから他でいいかと相談したのに作ってきたから、驚くのも当然だ。
このクラスのなかでは、おにぎりを食べたことがある人は日本人以外おらず、なんなら日本食を食べること自体、今回が初めてという人までいた。
初めての日本料理が自分のおにぎりなんて……とかなり緊張した。

ケーキだらけのテーブルのなかにいるおにぎりたち。

準備が整い、Frühstück Party朝食パーティーが始まった。
皆が気になるおにぎりを取ってくれる。
「これは何味?」などと聞かれて、カタコトのドイツ語と英語でこういうものが入っているよ!と説明をした。
クラスにいるもう一人の日本人は「これは寿司と何が違うの?」という質問を受けて答えてくれていた。私にはきっと言語レベル的に伝えられなかったと思うので、答えてくれてありがたい。

あと、「のりたま」だけは、説明しても全然ぴんときてくれなかったのが面白かった。ここはきっと文化差だろう。この黄色をみて「タマゴだ!」となるのは日本人と一部のアジア人の感覚なのかもしれない。


緊張しながら見守るも、その反応は予想以上に良いものだった。
口々に美味しいと言ってくれ、先生にも「あなたのおにぎりなら、ここで日本料理のお店が開けますよ!」と言ってくれた。
それは流石にお世辞だとしても、早起きの努力が報われた気がして嬉しかった。


ウクライナ人の彼はよほど気に入ったらしくツナマヨを2個食べていたし、カザフスタンから来た女性はしそ味が気に入ったらしく、味が薄かったとき用に持ってきていたふりかけをそのままプレゼントしたくらいだった。
「もらっていい?これはどう使えばこれが作れるの?」といろいろ聞かれたので、ご飯にかけるか混ぜれば食べられるよと伝えておいた。


そんなこんなで、朝から作ったおにぎりは私が食べることなく全部なくなった。他にも料理はあるし、好みもあるだろうからいくつか持って帰ることになると思っていたのだ。だからとても嬉しかった。


ハーマイオニーが作ってくれた本場のティラミスが
濃厚かつ激ウマで感動した。

この朝食パーティーはケーキだらけでしょっぱいものが少なかったのも、今回のおにぎり完売に関係していた気もする。
ドイツではパーティーにケーキを持っていくのが1番喜ばれるらしいのだけれど、今回みたいにケーキばかりだとそれはそれで辛いのだろう。ここは語学学校だし、生粋のドイツ人は先生しかいないのだ。
まあ、色々喜ばれる理由が重なっていたとはいえ、日本料理に少しでも興味を持ってもらえたことが嬉しい。

それに、お寿司はヨーロッパにもお店が結構あるけれど、おにぎりのお店はまだまだ少ない。そういう意味でも、「 おにぎり 」との出会う機会が作れたのは良かったのかもしれない。


余談とまとめ。

ちなみに「他所のお家のおにぎり食べられない問題」という人はどうやらこの場にはいなかったようだ。見た目に自分なりにこだわって、できるだけ作り物感が演出できたのもよかったのかもしれない。
あと、一部の人にやはり海苔(海藻)がダメという人がいた。
海苔はほんの少しだったのでまだ平気だったようだけれど、もう一人の日本人のクラスメイトが用意した味噌汁のわかめを残していることが結構いたことでわかった。味噌汁に解けた出汁はOKと考えると、きっと海藻そのものの味や食感などだめなのかもしれない。

ヨーロッパでも最近海藻を食べるようになったというニュースを見たけれど、ヨーロッパに来てからレストランやスーパーで海藻を見かけないので、海藻食文化は世界的にもまだまだレアな方なのかなと思った。
皆に食べろとは言わないけれど、私は食べたいのでスーパーにわかめなどの海藻が置かれるようになったら嬉しいなあとは思ったりもする。(アジアンスーパーには大体売っているけれど、当然ながらこれも高いのだ)


今後似たようなパーティーお誘いトラップには引っかからないようにしたいけれど、またこうやって誰かが喜んでくれるのなら、おにぎりでも他の日本食でも紹介したい気持ちはある。

まあいずれにせよ、もう少し言語レベルを上げてからの話だけれど。


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