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「かみかさ」

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小説「かみかさ」 傘を美容院に忘れてしまうところから始まる、恋愛未満小説。
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#雨傘

「かみかさ」最終話

「かみかさ」最終話

いのりは、燈郎に髪を切ってもらって1ヶ月経った。
美容院に電話して予約を取ろうとした。
「ありがとうございます。BeLu美容室青葉店です。」
「予約をお願いしたいです。零宮いのりといいます。」
「いつもありがとうございます。」
店長になった横井が電話に出た。
「皆川が長期休暇に入っておりますので、
担当を色々模索してみましょうか。」
心遣いがあった。
「若尾さんでお願いします。」
「すみません。若

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「かみかさ」第27話

「かみかさ」第27話

9時前に車に戻ろうとした時、
いのりは燈郎らしい人を見つけた。確信はなかった。

燈郎は体育館を出ると、いのりの傘がある事を確かめた。
「髪が濡れる心配はない。」

車で待っていると真巳がやってきて乗り込んだ。

いのりも体育館を傘を刺して出た。
車を走らせる燈郎に気づいた。
「何でここ来たんだんだろう。
弟さんもバスケやってるって言ってたなぁ。
迎えに来てたんだ。」
声をかけたかった気がする。

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「かみかさ」第15話

「かみかさ」第15話

いのりが店に戻ると店は閉められて店内には誰もいなかった。
ガラス越しに、傘立てに、さされた傘を確認できた。
ガラスにも雨露が付き傘が遠退いていくように霞んでいた。

家に帰る途中に、また振り出した。
「今日は本当についてない。」
切ったばかりの髪はぐっしょり。
帰宅するとすぐお風呂に入った。

燈郎は、いのりが雨に濡れてるのではないか心配した。
「綺麗な黒髪に・・雨が・・・」

雨がいたずらをした

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「かみかさ」第14話

「かみかさ」第14話

いのりは、その日の最後のお客様だった。
バタバタと一斉に閉店に取り掛かった。
燈郎が店の扉の札をclose にする時、傘の忘れ物に気づいた。
「さっきの零宮様の傘だ。」と直感的に思った。
先輩の横井に
「傘の忘れ物があって、零宮様のと思うので、追いかけてみます。」
と店を出た。
今日は、梅雨告げる本降りの雨だったのに、今だけ止んでる。また降り出すのではないだろうか。夏の始まりの若葉には露がついてい

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「かみかさ」第13話

「かみかさ」第13話

雨が止んでいる事に、いのりは気づかず、傘を持たずに帰り始めた。

髪を丁寧に触られた感触。寒気がした。
「無理。本当にもう無理。」

しばらくして、水たまりに足を入れてしまった。
さっきまで雨降ってたんだ。
「あぁ。」
「傘、忘れた。」
溜め息を二度ついた。
とぽとぽと、引き返し美容院に向かった。

水たまりが教える
雨と傘

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「かみかさ」第11話

「かみかさ」第11話

本当に傘が送られてきた。
饒舌だったし、その場限りの話かもと思っていた。
おじさんの話は、本当だったのだ。

高級傘を家族分4本も。
母は晴雨兼用の黒の傘。縁取り10cm程に黒の上品なレースが重なっている。
父には焦茶で合皮の持ち手の傘。
弟には濃紺の傘。
私のは縦糸に抹茶色、横糸に山吹色の傘。布製なのに決して重くない、16本針の一番上等な傘。

それは花束でも届けられたように梱包されて贈られてき

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「かみかさ」第10話

「かみかさ」第10話

再び部屋に入ると話は賑やかに変わっていた。

たぶん初めて会うおじさんに傘職人さんがいた。
「あの傘の持ち主だ。」と思った。
老舗の傘職人で、一時は低迷していたが、高級ブランドからの注文が入るようになって、経営は持ち直した。高級ブランドからの発注であっても、すべて手縫いでしっかりした作りだった。おじさんは誇りに思っていた。

「あの傘立てにあったの見ました。鶯茶色と京紫の傘がおじさんとおばさんので

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「かみかさ」第9話

「かみかさ」第9話

いのり、大学3年生の晩秋、雨の日。
おじいちゃんのお葬式が終わった。
おじいちゃんは父のお父さんで離れて暮らしてた。

骨上げを待つ間に親戚だけで、別室で食事をしていた。
親戚と言っても、いのりの知らない人がいた。
遠い親戚という人、どのように遠いのか話を聞いても、わからなかった。
お葬式はそういう事も、よくあるだろう。

皆、悲しむ事もなく穏やかに、食事をしながら話していた。
いのりは、変わらず

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「かみかさ」第1話

「かみかさ」第1話

[あらすじ]
いのりと燈郎が、憧れる美容室の店長の皆川ひかりが、体調不良によりお休みとなる。
髪を触られるのが苦手ないのりが、代わりに燈郎にカットしてもらった。いのりは動揺し美容院に傘を忘れてしまう事から始まる話。

その傘は遠い親戚の傘職人おじさんからもらった大事な傘。

二人は、すれ違がう事によって惹かれていってしまう。
燈郎はいのりの髪に傘をさしかける事ができるのか。

私は詩人なので、1話

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