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「かみかさ」第10話

再び部屋に入ると話は賑やかに変わっていた。

たぶん初めて会うおじさんに傘職人さんがいた。
「あの傘の持ち主だ。」と思った。
老舗の傘職人で、一時は低迷していたが、高級ブランドからの注文が入るようになって、経営は持ち直した。高級ブランドからの発注であっても、すべて手縫いでしっかりした作りだった。おじさんは誇りに思っていた。

「あの傘立てにあったの見ました。鶯茶色と京紫の傘がおじさんとおばさんのですよね。」突然話しかけた。
「そうそう。お目が高い。」とおじさん。おばさんは優しく微笑んだ。
「色も綺麗ですが、持ち手の木も素敵です。」
「柄はおじさんのが楓の木で、おばさんのがクルミでできている。肌馴染みがいいんだよ。夏になれば、竹の柄の傘に変える。お洒落だろう。」
「素敵です。」
「気づいてくれて嬉しい。そんなセンスの持ち主に会えるのは、なかなかないよ。そんな出逢いががあなたにもあるように、傘を送ってあげるよ。」
母は言う「大学生のいのりには不釣り合いですよ。」

「傘は身体を雨から守るためだけじゃない。むしろ雨に濡れっったいい。心も身体も運命も性も変え隠し守り、自分自身を大切にできるようになる。きっとなる。」



傘で守られるなら
さす

濡れてもいい時もあるなら
ささない

ただ必要な時
さしかけてくれる人は
側にいて欲しい


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ごめんなさい。詩に夢も憧れもありません。できる事をしよう。書き出すしかない。書き出す努力してる。結構苦しい。でも、一生書き出す覚悟はできた。最期までお付き合いいただけますか?