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28歳サラリーマンの奮闘記・知識の棚卸し場所/小説

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  • 短編小説『ティーンエイジャーの憂鬱』

    皆一緒の話

  • 小説『普痛』

    普通の人間の話。

  • 【社会人基礎力-これだけは"気づいて"】

    【就職活動失敗→ブラック企業→1年間ニート→営業会社就職→会社倒産→再就職】 一般人よりも荒波に揉まれてきた筆者が学んだ「同年代の新卒・新社会人にこれだけは気づいてほしい!」と思ったことをまとめた『社会人基礎力』のエッセイ。 ※noteで無料公開しているものと内容は全く変わりません。 『オマケ』のみ有料にしてますが、こちらは 「ちったあマシな内容だったから筆者にコーヒーでも奢ってやるか」 と思っていただいた方だけ購入していただければ幸いです。

最近の記事

掌編小説『いつか、何処かの、誰かの、何か』

 なんだそんなところにいたのか。 "彼"を見つけた途端、思わず声をかけてしまいそうになった。空っぽの私の一部を、いや私の中身丸ごとを見つけたような、そんな感覚に陥った。  分譲マンションの一角。  花壇とも云えない小さなスペースに彼はまるっと鎮座していた。彼を取り囲む植物の種類はわからないが、 青々と育っている様子は彼から溢れ出たエネルギーを蓄えているように思えた。  私には無い何かのパワーだ。急がなくてはいけない筈なのに彼の姿から目を離せないでいる。このまま通 り過ぎてしま

    • 短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(完)

      ※前回七 遠い。  朝になっても、夜になっても、変わることない白い天井はどこにも続いていない潔白さだけを私に示した。  "ココがお前の終着点だ"と。 ――ピッ。ピッ。  規則正しい無機質な機械音だけがこの部屋を病室たらしめた。この病室には他に何もない。あんなに甲斐甲斐しく世話を焼いてきた看護婦もだんだんと気持ちの悪い笑顔を作るようになり、自分の最後の時が近いことを知った。  いつまでなのだろうか。  そんなことでさえ老いぼれの自分には知るすべがなかった。そもそも病院側はこうい

      • 短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(六)

        ※前回六 横殴りの雨は容赦なくブラウスにボディ・ブローを浴びせた。エクリュカラーの生地にグレイ色の染みをつける。水も滴るイイ女という格言も残ってはいるがデートには相応しい恰好とは言いづらい。少しでもダメージを減らすために傘 の角度を常々調整しながら歩き出した。   デート。  先ほど頭に浮かんだ言葉が棘のように心をチクッと刺した。自らの罪を自覚させるには十分な痛みだ。棘は仮にこれから行われるだろう不貞が完全犯罪に終わろうとも一生涯抜けない痕だと思った。  では、なぜ私は今歩い

        • 短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(五)

          ※前回五 「若いねえ」  大人になっても絶対に言いたくないと思っていた言葉が当たり前に出るようになったのはいつからだろう。  少なくとも雲行きが怪しくなったからといって喫茶店で時間を潰して外の天気を窺うなんて守りの姿勢ではなかったとは思う。  店に入って三十分程経った頃か。背後の席で何やら騒動が起こっているらしかった。沸々とこみ上がる"おばちゃん魂"はやはり私が年相応に老けたという事なのかもしれない。こうなれば恥は無い。いざ。    振り返ると一組のカップルに若い男が乱入して

        掌編小説『いつか、何処かの、誰かの、何か』

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        • 短編小説『ティーンエイジャーの憂鬱』
          7本
        • 小説『普痛』
          13本
        • 【社会人基礎力-これだけは"気づいて"】
          17本

        記事

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(四)

          ※前回四 「少し歩いたほうがいいかもしれませんね」  男が追ってくる気配はない。ようやく少し気分が落ち着いた。いまさらになって心臓の音が早まっているのを自覚する。ああ、少しは"らしいこと"ができたのかもしれないとよくわからない充足感が全身を巡った。  横目で彼女を見るとコクコクと頷いた。彼女の緊張もまだ解けていないらしい。  駅が近づくにつれ、歩くスピードもゆっくりになってきた。私がそうしているわけではなく彼女に合わせた結果がそうさせた。肩の力が抜けたのかもしれない。私の心

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(四)

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(三)

          ※前回三 鬱陶しい。  目の前のイチャイチャしている学生を見て思った。  ベンチに体を全部預けるくらいには疲労が溜まっている。学生らのやり取りはギリギリのストレス値をまだいけるまだいけるといった具合に押し上げてくる不快さがあった。これは彼ら彼女らの青春を羨ましがっているわけでは決してない。そう思いたい。  やけにイライラするのは何も今日に始まったことではなかった。  社会人になってからずっとそうだ。  毎朝決まった時間に起き、満員電車に揺られながら出社し、決まったデスクに座り

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(三)

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(二)

          ※前回二 「進路希望の紙、出した?」  クラス委員の女子からそう言われたのは帰りのホームルームが終わってからだ。  提出期限までにクラス全員に出すよう知らせて回るのがクラス委員の仕事なのだと云う。うちのクラスは優秀で未提出者は片手で数えられるくらいしかいないらしい。  ああ、と返事にとれるか怪しい反応しかできなかったが彼女はそれで納得してくれたみたいだった。  自分とは正反対のにこやかな笑顔で「第一回目だから、結構みんな適当みたいだよ」  フォローをそこそこに彼女は踵を返して

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(二)

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(一)

          一 【ティーンエイジャー】:十代の少年少女を指す言葉。  ・ティーンエイジャーの時期は、心境が不安定で、悩むことが多い。  ・自我の形成される時期であり、親への反抗や人見知りをする時期でもある。  ・異性に興味を持つため、異性問題もこの時期からが多い。  ネット辞典によると自分という人間のカテゴライズはそのようだった。  合っているようでもあったし、そうでもないとも思った。  心境が不安定なのは何も十代の特権というわけではない。毎日の通学電車内では死にそうな顔している大人だ

          短編小説 『ティーンエイジャーの憂鬱』(一)

          小説 『普痛』(完)

          ※前回十三 東口のターミナルは平日だというのに忙しなく人々が流れていた。体のどこがぶつかろうと、それが日常のように足早にその場から消えていく。前まではこの異様な流れが嫌いだった。自分だけが浮いているような、取り残されているような気がした。今でも嫌いなのだろうか。判らない。楽しくはないが、ぶつかることは少なくなった。  あの日を境に『燿子』も『僕』も、俺の前に現れることはなくなった。変わったところがあるかは判らないが、解らなくていいことなのかもしれなかった。  スズキとの約束ま

          小説 『普痛』(完)

          小説 『普痛』(十二)

          ※前回十二 目を覚ますと日は落ちていた。布団で作る温もった暗闇ではない暗闇が部屋に敷き詰められていた。外に見える街灯が窓に打つ幾つかの線を光らせた。  雨が降っているという事実に私は胸を撫で下ろした。私が彼女らに謝るためにはどうしても必要なモノのように感じていた。  着替えると尻ポケットに小銭を突っ込み、玄関前の傘に見送られる形で家を出た。    いつしか彼女に会った日をなぞりながら公園までの道を抜けた。暗闇という絶対的な介入が行く道をふさぎ、街灯の弱弱しい明かりが私の足元

          小説 『普痛』(十二)

          小説 『普通』(十一)

          ※前回十一  嘔吐くことで私は現実の、私の布団で目覚めることができたようだった。  体重を載せた両手がまたズキズキと傷んだ。肺に入る湿気った空気がカビ臭い。窓に映るのはいつか彼女が楽しんだ柔かな雨だった。自分が酷く汗を掻いていることに気づいた。濡れたシャツの胸元が一部赤く滲んでいるのが確認できた。私は酷く焦り、引きちぎるような力で胸元を引っ張った。が、どうということはなくニキビが一つ潰れていただけだった。焦りは汗となり、またシャツを濡らした。  私は恐れた。『僕』が、『燿子』

          小説 『普通』(十一)

          小説 『普痛』(十)

          ※前回 十 夢を見た。  いつかの続きだった。見過ごした人に向けたドラマのあらすじのように、私が私の部屋に入るシーンからだった。観客は私しかいないのに律儀なものだと思い、眺めた。私は洗面台にかけ込んで顔を見たんだった。何週にも引っ張られたシーンの続きは私を驚かせるには十分すぎる山場であった。  洗面台に映った顔は私の泣き顔ではなかった。  彼女の、『燿子』の顔が鏡に映っていた。  髪の毛の長さも、体つきも、全てが私のモノであるのに顔のパーツだけが彼女のモノであり、しかしそれだ

          小説 『普痛』(十)

          小説 『普痛』(九)

          ※前回九 私は燿子について一つ勘違いをしていた。  それは彼女が、存外、私の想像していたよりもずっと普通の女性であったことだった。燿子と初めて会った時、私は、私の世界が良い意味で壊れていくのを感じていた。そしてそれは彼女に会う度におとずれるものだと思っていた。しかし、一度、二度と会う度に彼女と交わす会話の一つ一つがどれも凡庸であることに気づいた。今日はいい天気だ、缶コーヒーが美味しかった、昨日見た刑事ドラマはアンフェアだ、本当にどうでもいい話ばかりだった。  私から話題を提供

          小説 『普痛』(九)

          小説 『普痛』(八)

          ※前回八  その日はスズキと会う約束をしていた。会おう会おうとは言っていたが、あっちのタイミングが悪く、結局、会社を辞めてから一ヶ月後の九月末の平日に会うことになった。  スズキと落ち追うまでも、やはり鏡やガラスを避けて過ごした。  午前中の空いた時間、また公園まで行ってみようかと思ったが彼女の顔を思い出すと行く気が萎んだ。話したくはあっても、またあの面倒なやりとりを考えると少し足が重くなった。  また何故か今日は会えそうにもないと勝手に思った。  昨日の別れ際にも連

          小説 『普痛』(八)

          小説 『普痛』(七)

          ※前回七 事件に幕を降ろしたのは本の中の探偵だった。悔しさよりも強い充実感が胸の内に満ちた。が、 「いやあ、わからなかったでしょ? 悔しいけどね、うん、うん」悔しさを増大させる声が耳に障った。 「八割は当たってました。自分がそうだったからってやめて下さいよ」 「残り二割を当てないとさ。その二割を隠す戦いなんだから、推理小説ってのは」また殿様笑いをする。もう少し上品に笑えば男もいい顔するだろうになんて余計なお世話を思った。 「ずっと隣にいたようですけど」  私が本を読んでいる間

          小説 『普痛』(七)

          小説 『普痛』(六)

          ※前回六 夢を見た。  会社を辞めてから時折見る、同じ夢だ。  夜のコンビニで手持ちタイプのアイスを買って、歩きながら食べていた。深夜だったのか辺りに人はいなく、車は一台も通っていなかった。世界に音が無いのは夢だからなのか、それとも本当に音がしないだけなのかは判らなかった。  よくよく自分を見れば前の会社の作業着を着ていた。背中には大学時代から使っていた安物のリュックサックを背負っている。会社の帰り道だと理解した。だがアパートに向かう足取りはとても遅く、数百メートルの距離が何

          小説 『普痛』(六)