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#雨の日の午前3時

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古性のちと佐田真人のゆるい共同マガジン。 10日に1度、お互い交代でお題を出しあい同じテーマでショートショートを書いています。 24:02に更新。 やさしい時間をとどけます。
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#日記

小さなちいさな反逆者

小さなちいさな反逆者

(お題:黒髪)

そろり、そろりと息を潜めて登校する。まだ暑さを存分に含んだ8月の太陽が、じりじりと腕を容赦なく焦がしていく。 
夏休み。校内には、当たり前ながら生徒の影はひとつもない。 
頭に乗せたスクールバックのむわっとした暑さに、里奈はうっすら汗をかいていた。 

” 染毛禁止 ”

当時、市で上から3番目に頭が良い(と言われていた)Y校は、それなりに規則が厳しく、だけれどみんな優秀だったの

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90日間の「雨の日の午前3時」を終えて

90日間の「雨の日の午前3時」を終えて

ひょんなことから始まった、古性のちさんとの共同マガジン、「雨の日の午前3時」。

雨が好きなこと、晴れではない、時間的にいうと日没、深夜。色でいうと薄い淡い青。曜日でいうと水曜日。

ふたりのイメージをお互い出し合ったときに、自然と出てきた名前だった気がする。

この名前やイメージが、とても気に入っている。あわよくばバンド名にしたい(たぶん曲調が限られてくる)。

そんな共同マガジンも気づけば3ヶ

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90日間の「雨の日の午前3時」を終えて。できればまだ、降り止まないでほしい。

90日間の「雨の日の午前3時」を終えて。できればまだ、降り止まないでほしい。

「ふたりで交換小説をやってみたい」
そんな話をしたのは、すこし小雨の降る、京都の町を歩きながら。
突然の誘いにきょとんとしながら、それでもすこし考えて「面白そうですね」と返答してくれた彼。
そのまま近くの(と言っても、20分ほど歩かせてしまった)ちいさなカフェで、チャイと、チョコブラウニーを食べながら(しかも同じメニューを注文して)、はじめて書いた小説が「喫茶ねこのひたい」だった。

砂漠で一

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とある夜の出来事

とある夜の出来事

(今週の共通テーマ:眠れぬ夜)

ふと、体に触れた温度が変わったような気がして、目が覚めた。
ここはどこなのか、自分が何をしていたのか。頭が混乱している。頭上に広がった薄っすらと見える天井には、少し、古めかしい傘の付いた電球が付いていて、ゆらゆらと揺れたかと思うと見知らぬ声がした。

「おや。起こしてしまった?」
声の主の、姿は見えない。

「大丈夫。何も心配しなくて良いよ」
かわりにもう1度だけ

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淡い先祖返り

淡い先祖返り

(共通の書き出し:多分、トングのようなもので挟まれている )

*今回は出だしを書き出し小説名作集「猫は挫折を経て丸くなった」から抜粋し、物語をつくっています。



多分、トングのようなもので挟まれている。
そんな感覚が走ったのは、授業が終わった後の事だった。
するどい、だけれど我慢できなくはないような、そんな違和感。
自分の体に集中し、その発症もとを手でたどっていると、「起立」と掛け声がかか

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はじめまして、今日という日

はじめまして、今日という日

(今週の共有テーマ:朝ごはん)

半熟たまごの目玉焼き
短冊切りのまっかなトマト
こんがり焼け目のさくさくパンに
マーガリンがひとつ。

ほっこり湯気たつ紅茶を注げば
わたしの今日が幕をあける。

ねむりから覚めたばかりのおなかの中に
あつい あまい すっぱい にがいが
次々に、われさきに、やってくる。

何重も、何重も、層のようにかさなって
次第におおきなオーケストラをかなで出す。

「たのしか

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理想の朝ごはん

理想の朝ごはん

(今週のテーマ:朝ごはん)



会議のための資料を急ぎで作る。

「明日の朝一でも間に合うだろう」と昨夜帰ってしまった結果が、いまのこの状況だ。

「こうなることは想像できただろう!」と問われると、想像できたに決まってる。できたとしても帰りたくなることだってあるはずだ。

そんなことを頭の片隅で考えながら、ラップトップのキーボードを指先立てて叩いている。

マルチタスクと呼ばれるものが大の苦手

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生きていくと決めた街

(今週の共通テーマ:くつ下)



「靴下を売るお店をひらいちゃいました」なんてあの人が聞いたら、どんな顔をするだろうか。
少なくとも「おめでとう!」と言っている顔は、まったく想像ができない。
だけれど、たぶんあからさまに怒りはしないだろう。そんな、感情がおおきな波のように表に出るひとではないから。

カラン…とベルが鳴る音がして顔を見上げると、地元の女子高生らしきふたり組が、店のなかにはいって

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過去の引き出しを開けるとき

(今週の共通テーマ: 映画館)



「今日のテーマは映画館でお願いします」

彼からのメッセージが、いつものようにポーンと届いた。

映画館...。映画館? 映画館かあ。

わたしは電車の中で、うーんと少し考えてから、読みかけの本を閉じた。

彼とのオンラインでの言葉あそび(と呼んでいる)がはじまって、1ヶ月近くが経過した。毎週2回、お互いがテーマを出し合って、それに沿って文章を書く。

エッ

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不器用だからこそ見えるもの

不器用だからこそ見えるもの

(今週の共通テーマ:手のひら)

心の中にある感情を、うまく言葉に変換するのが苦手だ。
言葉を噛み締めて、じっくりじっくり、考えてしまう。
ようするに、口下手な人間だ。

「多分あのとき、こう言いたかったんだな」と気付いたときには、相手はとっくのとうにその場からいなくなっている。
おかげさまで、相手に届かずに志半ばで死んでしまった言葉たちのお墓の敷地は、広がるばかり(たまにお参りにいく)

ペラペ

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きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

きっとそれは日常が色付く魔法のようなもの

(今週のテーマ:手のひら)



日中の日差しが恋しくなる少し肌寒い日のこと。今日もいつもと変わらず1日アポ続きで、本日最後、4件目の打ち合わせだった。

夕方になる頃にはやや疲れが出てきたが、ジャケット一枚羽織って歩ける、心地よい気温が唯一の救いだった。

最後のアポイントは、とある大手企業との打ち合わせで、今回が2回目の訪問だった。このための準備はしっかりとしてきたし、何事もうまくいくような

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君が思い出になる前に

君が思い出になる前に

(今週の共通テーマ: 空港)

「到着便のご案内をいたします。アルゼンチンからのEK318は、ただいま到着いたしました」

ついに来た。

指先に、ぐっと熱がこもる。僕は片手に持っていた、もうすでにだいぶぬるくなってしまった缶コーヒーをぐいっとあおった。甘さで舌がざらつく。

僕は空港が嫌いだ。
世界中とつながっているせいで、大切なものを、手のとどかないほど遠くまで、簡単に運んでいってしま

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真夜中散歩

真夜中散歩

(今週のテーマ:真夜中の散歩)



スマホとサイフ、家の鍵をポケットに入れ、まだ冷めきらぬ身体を外に出す。まだ乾ききらない髪の湿気を振るいながら、歩き始める。

白いTシャツに肌触りのよい短パンの寝間着姿だったが、日中の暑さからは一転し、すこし肌寒いぐらいだった。

自宅から徒歩9分歩いたところに、ひっそりと住宅街に溶け込むコンビニがある。そこでまずは食べたいアイスを買って散歩するのが、毎週休

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大人になったなあって思う瞬間

大人になったなあって思う瞬間

(今週のテーマ:喫茶店)



軽快なジャズピアノが流れる店内。久しぶりに友人と話す場所としては、我ながらナイスな選択だった。

「大人になったなあって思う瞬間、ある?」

唐突に友人が、そう尋ねてきた。彼のブラックコーヒーを眺めながら、初めて喫茶店に訪れたときのことを思い出す。

とある男性が、質素なブレックファーストにホットのブラックを飲んでいる最中、ある女性と出会う。映画冒頭のワンシーンの

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