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理想の朝ごはん

(今週のテーマ:朝ごはん)

会議のための資料を急ぎで作る。

「明日の朝一でも間に合うだろう」と昨夜帰ってしまった結果が、いまのこの状況だ。

「こうなることは想像できただろう!」と問われると、想像できたに決まってる。できたとしても帰りたくなることだってあるはずだ。

そんなことを頭の片隅で考えながら、ラップトップのキーボードを指先立てて叩いている。

マルチタスクと呼ばれるものが大の苦手だが、知らず知らずの間に、作業しながら数分足らずで朝ごはんも食べてしまうという、早業を身につけてしまったらしい。

コンビニで買った菓子パンを、コーヒーで流し込むような朝食は、味がしてるのかどうかも定かではなかった。もはや”食べる”とは言わないのかもしれない。

いや、まだ生活の枠組みの中に”何かを摂る”という習慣が残されていたのならよかったのかもしれない。

コンビニの菓子パンはやがてカロリーメイトに変わり、やがて野菜ジュースに変わる。最終的にはごっそり朝食という習慣がなくなってしまったのだ。

いつからだろう。朝食を食べたいという気持ちが、生活からごっそり消えてしまったのは。

「パン派?ご飯派?」

そんな他愛もない会話をしていた頃は、きっちり朝ごはんが出てきた。

ご飯に味噌汁、卵焼きの「THE 朝食」ってときもあれば、会社帰りに父親が買ってきてくれた菓子パンにカフェオレのときもあった。

不思議と東京に出てきてからの方が、そのときの味をより鮮明に思い出せるのはなぜだろう。

東京に出てきてからは、そんな朝食の時間がなくなった。ただ単に朝食の時間がなくなったならまだいい。問題はなぜなくなったかだ。

何にも追われていないのに何かに追われているこの感覚は、誰かに打明けるようなものでもないし、少なからずみんなそうして生きているものだと思った。

このままじゃダメだと、いつか夢見た朝食を思い出す。

朝食と聞くとすこし優美なイメージがある。飾り立てた食事という意味ではなく、手垢のついた言葉を借りるなら、”丁寧に”時間をかけて過ごすあれだ。

そんな理想の朝を手に入れようと、日曜日は絶対に早く起きると、その日の自分につよく誓った。

朝、休日にも関わらず容赦無くアラームがなる。うるさいかと言われたらそこまでうるさくないし、だんだんと聴いてたら慣れてくるもので、つい止めるのを先延ばしにしてしまう。

布団から出るのが億劫になりつつあった自分に喝を入れ、体をダンゴ虫のように丸めてしばらく様子をみる。心の中でカウントダウンするも、いつもゼロ手前でカウントをやめてしまう自分に再度喝を入れる。

「よし、次のカウントダウンで絶対に起きる!3、2、1、アーッ!!」

布団を豪快に押しのけ、すぐさま小走りで顔を洗いに行く。すぐに眠気が覚めるわけではないが、温水で満遍なく洗うのが心地よく目覚めるコツだ。

白いカーテン越しにやんわりと差し込む太陽を浴びたのち、ケトルに水を入れにいく。その間に、台所の下の棚からドリッパーを取り出す。

これでおおかたコーヒーの準備はできた。

ケトルの湯はそんなすぐには冷めない。本当はここから「僕がコーヒー当番で、君はトースト焼いてくれる?あ、あとベーコン!」なんて言えればいいんだけど、あいにく一人二役なので、なかなか忙しい。

……というところまで頭の中でシミュレーションできた。

「うん、起きる、今すぐ起きる。いやでも、まだまだ全然寝れるなあ」

早くも「明日の朝は…」と考えてる自分が布団の中にいた。

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今回のアイキャッチ画像は、masamiさんの「嫌いな人は過去の嫌な自分」という記事から使用させていただきました。素敵な写真をありがとうございます。


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