たかはしまっく

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記事一覧

あつい

誰かの真似をしながら、何かを書いているような気がする。真似をしないようにすればするほど、真似に近づいていく。それっぽい文章になって、それだけのことで、終わる。終…

原稿読み

子どもが書いたみたいな原稿に、ここが曖昧です、この部分を章の頭と入れ替えてはどうでしょうか、とか、生真面目にコメントを書いた。そういうのも僕が請け負うべき仕事に…

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湯船の記憶

お風呂にお湯がたまるのを待っている間にスクワットを30回やった。結局スクワットがいいらしい。疲れた。 ぬるいお湯に浸かる。左手に文庫本を持ったまま、目を瞑る。その…

朝、

部屋の窓を開けようとしたら、中学生くらいの男の子と目が合った。窓を開けて、息を吸う。能天気な朝。ひとつだけ残ったティーバッグをゴミ箱に捨てる。冬から残っているコ…

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弁当

大学生がつくるお弁当、ぺちゃくちゃしゃべりながら、楽しく適当につくるお弁当を、僕が狭いアパートのなかで、真剣な顔をして食べる。明日死ぬかもしれないと思いながら食…

電車、桜

何も頭に浮かばない。 今年の桜はだめそうだ。 電車の中。向かいには耳にピアスをあけた中学生みたいな男の子二人組がいて、スマホで何かゲームをしている。春休みの時期…

殺虫剤

仰向けになると、天井を虫が歩いていた。ゴキブリではない、なにかわからない、羽の生えた虫が、歩いていた。飛ばず、走らず、歩いていた。 虫を殺すのは、後味が悪い。で…

夕方の電車

左手でつり革を吊るすためのストラップのようなものを掴む。少しでも、人間の脂を触らないようにするために。 左半身が伸びて、黄土色のシャツの中から、出っ張った下腹が…

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検品

いつもの席に座っている。30度くらい開いた右肘が、デスクの上に載っている。原稿の文字を一文字ずつ、鉛筆の先で追いかけながら、上から下へ見ていく。右肘が上から下、下…

デスク周り、あとピーマンがこっちを見ていた

シャワーを浴びて、髪も乾かさず、イスに座る。小さく安いイスの華奢な脚が、床に食い込みそうになるのを、百均で買ったマットで防ぐ。いつまでもつのか、わからない。もう…

薬局、本屋

薬局と本屋の隙間で、買ったばかりの頭痛薬を開ける。40錠入りで、600円くらいだった。安くて助かった。頭痛薬は、去年の夏に切らしてから、一度も買わずに粘っていた。何…

雨のベンチ

浅くしか腰掛けられない、黒いベンチが、廊下の角にある。僕はそこにいる。 左手に両開きの扉がある。片方が開かれたままで、もう片方は閉じられたままになっている。扉の…

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〈日記〉04/23/2024

眠れても眠れなくても、どうでもいい日は、寝る前でも紅茶を飲む。カフェオレだって飲む。牛乳を切らしているので、帰りに買って帰るべきだったと後悔する。 昨日作ったナ…

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〈詩〉電話番

「はい、———です」 「あ、——県の——書店と申しますが、客注品を一点お願いします」 「はい、では書名をお願いします」 「————です」 「はい、では在庫を確認いた…

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3/20のメモ書き

駅にあったでっかい紅茶の宣伝ポスターを見て、うまそーって言ってる女子高生がいた あーあれうまいよ、ってもう一人の子が返していた 電車の中、向かいの席が空いてはい…

〈日記〉04/21/2024

書きたくないわけではないけど、今日は日記を書こうという気分にならない。日記じゃないものが書きたいのかもしれないけど、そんな元気も、夜で眠いので、ないから、日記だ…

あつい

誰かの真似をしながら、何かを書いているような気がする。真似をしないようにすればするほど、真似に近づいていく。それっぽい文章になって、それだけのことで、終わる。終わる。何もかも終わるし、何も終わってはいないんだとも思う。

蒸し暑い夜。過ごしやすいとはいいがたい。部屋の中が、外よりも暑くなる季節。部屋の中にいると、息ができなくなる。部屋の向かいには、木が生い茂る公園と団地があって、そこにはやぶ蚊が大

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原稿読み

子どもが書いたみたいな原稿に、ここが曖昧です、この部分を章の頭と入れ替えてはどうでしょうか、とか、生真面目にコメントを書いた。そういうのも僕が請け負うべき仕事に含まれているらしい。何について書いているのか、全くわからない原稿だった。珍しいくらい理解ができなかったのは、僕の眠気のせいではなく、原稿の質の問題だった。

上手いとか下手とかではない。支離滅裂。大学生の卒業論文と同等か、それ以下だった。卒

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湯船の記憶

お風呂にお湯がたまるのを待っている間にスクワットを30回やった。結局スクワットがいいらしい。疲れた。

ぬるいお湯に浸かる。左手に文庫本を持ったまま、目を瞑る。そのまま眠ってしまいそうだ。眠い、やることがない。何をしたらいい。

眠い。このまま朝まで湯船の中で寝てしまいそう。

クラシックをかける。何もわからない。今流れている曲が何なのか、楽器が何かもわからない。ただ誰かが作ったプレイリストから、

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朝、

部屋の窓を開けようとしたら、中学生くらいの男の子と目が合った。窓を開けて、息を吸う。能天気な朝。ひとつだけ残ったティーバッグをゴミ箱に捨てる。冬から残っているココアをゴミ箱に捨てる。朝、早々に目が覚めてしまって困る。眠い。今日も1日動けるんだよね。大丈夫なんだよね。

窓を開けたら雨が降り出した。ふざけるな。窓を閉めたので、また息ができなくなる。ふざけるな。窓を開ける。雨が降ろうが、虫が入ってこよ

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弁当

大学生がつくるお弁当、ぺちゃくちゃしゃべりながら、楽しく適当につくるお弁当を、僕が狭いアパートのなかで、真剣な顔をして食べる。明日死ぬかもしれないと思いながら食べる唐揚げ弁当は格別だった。 

電車、桜

何も頭に浮かばない。

今年の桜はだめそうだ。

電車の中。向かいには耳にピアスをあけた中学生みたいな男の子二人組がいて、スマホで何かゲームをしている。春休みの時期は、子どもたちがウロウロしている姿をたくさん見ることができて、うれしい。それはいつもと違う景色で、見ていて楽しい。

夕方の上り電車は空いていた。例年桜で人が賑わう河川敷には、人っ子一人いなくて、桜も一つも咲いていなかった。

スマホの

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殺虫剤

仰向けになると、天井を虫が歩いていた。ゴキブリではない、なにかわからない、羽の生えた虫が、歩いていた。飛ばず、走らず、歩いていた。

虫を殺すのは、後味が悪い。できるなら、自分で出て行ってほしいけど、ここから、玄関まで誘導するのは、難しい。引っ越してきたばかりの頃、ゴキブリが、うちの部屋の前をうろついていて、そいつをスプレーで、誰もいない管理人室に誘導したことがあった。

羽が、ばっと開いて、ばた

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夕方の電車

左手でつり革を吊るすためのストラップのようなものを掴む。少しでも、人間の脂を触らないようにするために。

左半身が伸びて、黄土色のシャツの中から、出っ張った下腹がはみ出る。風が下腹にあたる。これでお腹を下すことが、たまにある。

ガラスに映る僕は、具合の悪い人の顔をしていた。疲れてもいる。体の中の流れが悪い人の顔をしている。死相が出ているのかもしれない。見る人が見ればわかるのかもしれない。

どこ

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検品

いつもの席に座っている。30度くらい開いた右肘が、デスクの上に載っている。原稿の文字を一文字ずつ、鉛筆の先で追いかけながら、上から下へ見ていく。右肘が上から下、下から上に動く。目も頭も一緒に上下する。背中が丸まり、体がくの字になる。文字が流れる。止まる。トルツメ。また流れる。去年の夏、区民プールで泳いでいた頃、あの時のクロールで進むスピード感に近い。

小さな魚たちが生きるために、モーターが駆動す

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デスク周り、あとピーマンがこっちを見ていた

シャワーを浴びて、髪も乾かさず、イスに座る。小さく安いイスの華奢な脚が、床に食い込みそうになるのを、百均で買ったマットで防ぐ。いつまでもつのか、わからない。もう、床は、イスの脚に合わせて、べっこりへこんでいるのかもしれない。それを確認するのは怖いから、マットをめくることはしない。

パソコンのキーボードから音が鳴る。意外と低い音だ。指がキーボードに沿って動く。僕は、イスにあぐらをかいて座り、デスク

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薬局、本屋

薬局と本屋の隙間で、買ったばかりの頭痛薬を開ける。40錠入りで、600円くらいだった。安くて助かった。頭痛薬は、去年の夏に切らしてから、一度も買わずに粘っていた。何のために?

本屋の入り口で、二錠いっぺんに口に入れ、そのあとお茶を口に入れる。大きい錠剤で、飲み込むのを少しためらう。口に入れたらもう吐き出せないので、もう一度口の中で勢いをつけて、まず一錠飲み込む。喉を錠剤が下りていく感覚が、はっき

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雨のベンチ

浅くしか腰掛けられない、黒いベンチが、廊下の角にある。僕はそこにいる。

左手に両開きの扉がある。片方が開かれたままで、もう片方は閉じられたままになっている。扉の重なり合う箇所は自然とペンキが削れ、奥の木の色がむき出しになっている。

ゴミ収集車が左に曲がる音が聞こえる。

雨で濡れた靴底が、ギュッギュッと地面と擦れる音が聞こえる。

廊下の向こう、ぎゃははという笑い声が僕のところまで飛ばされてく

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〈日記〉04/23/2024

眠れても眠れなくても、どうでもいい日は、寝る前でも紅茶を飲む。カフェオレだって飲む。牛乳を切らしているので、帰りに買って帰るべきだったと後悔する。

昨日作ったナンが、とてもおいしくて、食べながら、うまいと言ってしまった。塩も入れていないので、味は何もついていないのだけど、キーマカレー(これも上手につくれた)につけたり、はちみつ(数週前にスーパーで100円で買った小さいやつ)をかけたりして、おいし

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〈詩〉電話番

「はい、———です」
「あ、——県の——書店と申しますが、客注品を一点お願いします」
「はい、では書名をお願いします」
「————です」
「はい、では在庫を確認いたしますので、少々お待ちください」

左の耳で、受話器の音を聞き、右手でメモを取った。保留にして、受話器を置く。左耳の細かい、入り組んだ箇所に脂が染み込んでくる。隙間が脂で満たされていく。受話器の脂と僕の脂が混ざり合って、僕の表面に新しく

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3/20のメモ書き

駅にあったでっかい紅茶の宣伝ポスターを見て、うまそーって言ってる女子高生がいた
あーあれうまいよ、ってもう一人の子が返していた

電車の中、向かいの席が空いてはいるんだけど、左右のおじさんが大股開きなもんで少しスペースが小さくて、足が悪いんであろうおじいさんが、遠慮して立ったままになっていた 
僕は一生懸命、そのおじいさんに向かって座って大丈夫って意味で、首を縦に何度も振ってみたんだけど、おじいさ

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〈日記〉04/21/2024

書きたくないわけではないけど、今日は日記を書こうという気分にならない。日記じゃないものが書きたいのかもしれないけど、そんな元気も、夜で眠いので、ないから、日記だけ書く。

朝は、スパゲティをたくさん茹でて、ツナマヨパスタのソースをかけて食べた。午後、近所を中心に散歩をした。夕方、雨に降られた。スーパーで、冷やしつけ麺というのを買った。せっかくなので、味玉とメンマも買った。家に帰ってから、冬服をスー

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