風がきもちいい

ゆっくりしながら、ハイボールを飲む。飲みながら、眠くなって、ふとんで少し横になる。目がぐるぐるする。回る。体が、旋回してるみたい。今だったら失禁していても気が付かないかもしれない。

海に行きたい。朝起きたら海の様子を見に行って、砂浜に座って、家でつくって持ってきた冷たいカフェオレを飲む生活がしたい。

風が吹いて、大きな葉が揺れる。サニーレタスみたいな色の組み合わせの葉だった。ベビーカーに男の子をのせ、胸にもっと小さい赤ん坊を抱えたお母さんがいた。重くて運ぶのが嫌になってしまったのかもしれない。お母さんは、赤ん坊を、ベビーカーの子どもの後ろに詰め込んでいた。一人用のベビーカーなんだろうけど、少し隙間があって、そこに赤ん坊をはめ込んで、そのまま二人まとめて、ベビーカーを押して、駅の方へ向かって歩いて行った。

隣に座っている男の人が、とてつもなくくさい。汗なんだろうか、それとも服に染みついたにおいなのか。皮膚からにおいが出ているのか。自分もくさいんじゃないかと不安になる。自分もこんなに爆発的なにおいが出ていたら、困る。どうしたらいいんだろう。鳩が足元を歩いている。人間に媚びた鳩。僕が、風下にいるせいで、風に乗って、隣の男のにおいが飛ばされてくる。くせえ。僕からはどんなにおいがしているんだろう。あまりかわらないくらいくさいかもしれない。汗もかいている。これは僕のにおいかもしれない。くさい、くさいと言っているけど、これは僕のにおいかもしれない。隣の男じゃなくて、僕のにおいなような気がする。

夏が来るから海に行きたい。

コンカフェ譲が、街行く男たちに手を振る。スーツを着た知らない男が、僕に何か話しかけていた。僕は、道をまっすぐ前に向かって、歩いていた。

親に育ててもらったという感覚よりも、親を育てた、面倒をみてあげた、という感覚の方が大きい。子どもの頃から、育ててもらったというより、育てさせてあげた、という感覚の方が大きかった。子どもをやってあげていた、親をやらせてあげていた、と、やっぱり思っている。僕も、自分が親になったら、子どもに育ててもらうことになるんだろうか。そういうものなのだろうか。今日まで育ててくれてありがとう、なんていう感覚が、どこからも湧いてこない。自分が親になったら、親の苦労もわかるよ、とか言われちゃう。自分でもそうなんじゃないかと思いつつ、やっぱり、親の苦労をさせてあげたと思っているような気がする。

誰も乗っていないベビーカーを押す子供がいた。お父さんがベビーカーの脇を支えていた。ベビーカーには、オムツが乗っていた。子どもは、腕を完全に上に伸ばしきった状態で、ベビーカーを押していた。あんなに、肩を上げたままじゃ、頸動脈が押さえられてしまって、気絶するかもしれない。肩固めの要領で。

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