たかはしまっく

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最近の記事

アパート、あの子

スマートフォンのバイブ音で目を覚ました。夏の日差しをまともに浴びながら何のあてもなく外を三時間歩き、へとへとになって家に帰って来た。それから二時間くらい布団の上で寝ていた。僕は自分が寝ていたことに、スマートフォンが鳴って気が付いた。 「寝てた?」と電話口にあの子の声がした。 「寝てた」 「OK、ごはん行こ」 「うん」 僕は電話を切って、トイレに行く。尿が心なしかいつもより黄色い気がしたし、アンモニア臭がきついような気がした。疲れたんだろうか。大丈夫だろうとは思いつつ、あの子

    • 渋谷

      「どいつもこいつもわかってないんだよ」 Tは寝ぼけ眼で宮益坂を下っていく僕の後ろ姿に向かってどなった。もう夜の10時を過ぎていた。 ほかの人に向かってどなったわけではなかったと思う。僕とTは、渋谷のミニシアターで映画を観て、宮益坂から渋谷駅に向かっていた。僕たちは映画館を出て、歩道橋を上って下りた。そこまで僕たちは何も話さず、何となく僕がTの一歩前を歩いていた。僕たちはごくたまに映画館に映画を観に行く。帰るころには、Tはいつもこうやって今観た映画についての文句を怒り混じり

      • 街と家族

        僕の生まれた街は、街というには、あまりにも田畑が多すぎるかもしれない。 街は、とにかく田んぼで囲われていた。北側に利根川が流れていて、そこには大きな橋がいくつも架かっていた。そこだけが唯一田んぼを見ることなく街に入ることのできる道だった。他はすべて田んぼを突っ切るような形で道が作られており、長い田んぼを抜けることでしか街には入れないようなつくりになっていた。ほとんどの車はこの街を通過して、別の市に向かっていく。輸送用のトラックが頻繁に通行し、その間を縫うようにして街に住む人

        • 家族、夢、性

          ひどい夢を見た。実家が、地元の同級生の家族に売り払わらわれる夢だった。その家族は、歯医者を経営していた。僕の実家は完全にリフォームされて、全く別の家になっていた。大きな、大人10人くらいは入れそうな湯船とシングルサイズくらいのベッドが一緒に風呂場に置かれていた。すべて人様の物になった家の中で、母がまだその家にひとりで暮らしていた。その家には母しかいなかった。所有権は、その歯医者の家族に移っているはずなのに、住んでいるのは母だけだった。 ここで場面が切り替わる。僕と母は、もと

          ロフト

          朝起きて、トイレに行く。母はまだ起きてこない。父はもう仕事に行った。僕は6時にセットしていた目覚まし時計を止めて、起き上がる。梯子を使って、ロフトからリビングに降りる。ロフトにすれば、家にかかる何かしらの税金が安くなると父だか母だかが話していて、僕は、親がこの家を建てるとき、自分の部屋はロフトでもいいと言った。ドアがないこと、部屋が閉じられないことが、これほどストレスになるとは想像していなかった。 リビングに降りると、ダイニングテーブルの上に雑誌が置いてあった。グラビアアイ

          ひとりあそび

          夏休みの宿題は、いつも最初の一週間で終わらせていた。母にそうすることを期待されていると思っていた。たしかに早く終わると楽ではあった。 結局、僕はいつまでも子どものままなんだと思うしかない。誰かに何か指令を与えてほしい、もしくは行動の許可でもいい。とにかく僕の次の行動を指定してほしい。そうじゃなきゃ動けない。 でも全部の行動が誰かによって決められていたわけじゃない。そこからはみ出るものがたしかにある。それが僕なのかもしれない。そこに僕がいるのかもしれない。 子どもの時は、

          大学の同期の結婚式で余興をすることになった。久々に同期の男4人で集まって話し合った結果、何かしらのダンスをすることに決まった。僕以外の3人は、大学のサークル活動でダンスをやっていたので、そういうのは得意らしい。僕は、高校の文化祭で、当時流行っていたドラマの主題歌に合わせてダンスをするという出し物に、仕方なく参加したのが最後のダンスだった。もう10年以上は踊っていない。 人前で踊るなんて、そんな恥ずかしいことできない、と思ってしまう。体育の恥ずかしさに似ている。できないことを

          なつやすみ

          子どものとき、多分小学校の5年生頃、小説家になることを考えたことがある。ほんの一瞬のことだったような気がする。瞬間的に、あ、小説家になってみたい、と思って、また次の瞬間には、何か別のことを考えていた。そのくらいのことだったような気がする。実際には、よく覚えていない。当時住んでいたアパートにいたのか、それとも学校にいたのか、どこで何をしている時の記憶なのかもあいまいで思い出せない。記憶と呼べるほど立派なものでもない気がする。何かのちょっとした刺激と言うのか、電気信号が頭の中を駆

          つかれてはいる、暑いと余計つかれるし

          田舎にいても寂しくなかったころに戻りたい。今は、もう地元に帰ったら何もなくて、寂しくなっちゃう。あそこで暮らすのは結構難しい。車もなきゃ生活できないし。 子どもの頃は、どうして寂しくなかったんだろう。家の周りは、畑とか田んぼばっかりで、遊びに行くような場所もなかったのに、寂しいと思ったことはなかった。今、あの時住んでいた家に戻ったら、寂しくて不安で発狂しちゃうと思う。田舎に行くのも怖い。 就活を少しだけやっている。少ししかやってないのに、すごく疲れる。就活しなきゃ会わなか

          つかれてはいる、暑いと余計つかれるし

          つむじ

          つむじのあたりが円形脱毛症になっている、と誰か女の人に指摘される夢を見た。何度も「大丈夫なの?」と聞かれたが、僕はハゲてなんかいないと強がった。そんなことないと何度も言い返した。本当は頭のてっぺんに一箇所、円形で空気の流れを感じるところがあった。直径3センチあるかないかくらいの大きさのような気がしていた。何となく、頭の中で、イスの脚の裏に貼り付けて床が傷つかないようにするフェルトのシールのようなものを思い浮かべていた。僕はつむじをその女の人の方に向けて、前かがみになっていた。

          7/9日記

          あっというまに時間が過ぎていく。自分は時間の中で、取り残されている。時間が過ぎたなんて、実感できない。何分経っても、何時間経っても、いつまでも同じ場所に、同じ状態で寝ているような気がする。 仰向けのまま、MRIの中に入っていく。頭に異常がある気がする。お腹がおかしい気がする。MRIの中を通り抜けて、向こうに抜けて、少しやせたような気がする。

          6/26日記

          もう何も考えたくない。思考したくない。頭を軽くしたい。前頭葉を小さくできたら、少しは楽になれるような気がする。小学校に上がったとき、病院で、前頭葉が発達していると言われて、それがどういう意味か正確にはわからなかったけど、まあ頭がいいってことだろうと思って、うれしかった。ほめられながら、ちやほやされながら、生きたい。地下の薄暗い部屋のなかで、ひとりで腐っていくのは、怖い。せめて地上で死なせてほしい。 大げさなことばっかり言ってる。ひとりでばっかりいるから、話が大げさになるんだ

          6/25日記

          小さい本屋で正社員として雇ってもらえないんだろうか。もう無理。地元帰って喫茶店やりたい。遊びたい。遊んで暮らしたい。頑張れない。できない。 カフェとして開業して、本も売りたい。その業態がいい。

          06/21/2024

          新しいことが始まっている時は、毎回毎回発狂しそうになる。バイトを休むだけで気が狂いそうになる。一個一個のちょっとした変化で、体がねじれる。ねじれて、肋骨が割れて、体を引き裂く。息ができなくなる。怖い。臓器がつぶれて、顔が紫になって、白くなる。 公園のなかで、誰かが鳩に餌をあげていて、鳩が、ねじれきった僕の体の脇で、もらってきたパンくずをつまんでいる。 いやいやこんなこと書いてる場合じゃない。行こう。

          風がきもちいい

          ゆっくりしながら、ハイボールを飲む。飲みながら、眠くなって、ふとんで少し横になる。目がぐるぐるする。回る。体が、旋回してるみたい。今だったら失禁していても気が付かないかもしれない。 * 海に行きたい。朝起きたら海の様子を見に行って、砂浜に座って、家でつくって持ってきた冷たいカフェオレを飲む生活がしたい。 * 風が吹いて、大きな葉が揺れる。サニーレタスみたいな色の組み合わせの葉だった。ベビーカーに男の子をのせ、胸にもっと小さい赤ん坊を抱えたお母さんがいた。重くて運ぶのが

          風がきもちいい

          スイミングスクール

          ゆっくり体をほぐしながら、寝る。腹をさする。ゆっくり鼻から吸って口から息を吐く。ずっと繰り返す。少し骨盤が整うらしい、ストレッチのようなものもする。明日は、夕方からプールに行きたい。金曜日は、すごく混んでいた。新しい水着が買いたいけど、今使っているものは、サイズがすごくちょうどいい。高校のプールの授業で買ったフィラの水着。水から上がると、すごく重たい。 小学校3年生になるとき、母にSPEEDO社の水着を買ってもらった。黒地で、ヒモの通っているすぐ下にSPEEDOと白いロゴが

          スイミングスクール