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2022年12月の記事一覧

深海と宇宙のカフェオレ【2022年の短歌まとめ】

どうせなら美しいサイコロを振れ出る目すべてが宝石のような

最後まで気持ちよく好きでいたかった魚が絶滅した海さえも

かろうじて死刑を免れてるような私たちの愛私たちの美

説明書も読めないくせに神様の言う通りになんてほんとにできるの

海底で生まれた新種の生命は誰とも交わらないまま死んだ

絞り器で絞り出される虹を見ていた 君は笑ってそれを食べた

「もし原始時代だったら死んでるよ」原始時代じゃな

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【詩】マリンスノー

冷やした水をコップに移し替える
それだけが確かな営みに思えた
むかし海に潜った人たちは
無数のプランクトンの死骸を
"雪のようだ"と言ったらしい
私たちの死骸を宇宙から見る人は
何に喩えてくれるのでしょうか

【詩】逆光のせいで

喜びは空から降ってくるのだと
空を飛べない人たちが信じている
気づいていないだけで
あの山の向こうは
焼け野原なのかもしれない
川を渡った隣の町には
もう誰もいないのかも
逆光のせいで真っ黒に見えた鳥たちは
本当は何色だったのかな
楽しそうに笑う顔は
なぜか知らない人みたいだった

【詩】自由になれる部屋

たくさんの花に囲まれているから
もうすぐ死ぬ人みたいに見えた
"自由"という名前が付いている窓のない部屋
危険な場所には隅々まで
柔らかい綿を敷きつめておこう
誰かが落っこちてきても大丈夫なように
三時間おきにミルクを飲んでいた頃よりも
お腹を空かせている私たち
大切なものをうしなって
やっと自由になれる

【詩】嘘だった

二年前、君は私の神様で、
去年は、一番安心できる存在で、
今ではもう、ほとんど思い出すこともない。

「さみしい」って言ってみたけど、完全に嘘だった。
君はすべての始まりみたいなものだったから、こんな結末じゃ辻褄が合わないはずなのに、実際には何の感情もない。

私だって他の人たちみたいにさみしくなりたかったし、傷つきたかった。
そう日記に書いてみたけど、それも嘘だった。

【詩】ただの言葉

こんな風に季節が変わる度にいつも
何て言えばいいのか分からないから
詩ではなく
説明書でもなく
恋文でもなく
遺言でもない
ただの言葉を探してる

【詩】海辺でもないのに

「僕の分まで生きてくれ」
映画の中で誰かが言ってた
またがっかりしてるの
救ってくれるなら
どんな神様でもいいはずなのに
秋が終わるまでは優しい人でいようと思った
冬になってもそうできればいいんだけど
いつの間にか砂が入ったみたいに
口の中がざらざらしてる
海辺でもないのに

【詩】隣の席

隣同士の席でぼくたちは話しつづけた
細い糸が切れてしまわないように
長い間考えていたこと
なんとなく口が滑ったこと
わざわざ言わなくていいのにって
思われそうなことでも
薄いカーテン越しの光みたいに
優しい声できかせて

【詩】初雪

【詩】初雪

飲み慣れないコーヒーと
趣味じゃないオルゴール
暖かい雪が降る
仮初の宇宙船
落書きだらけのベッドで
同じ色の海を見たこと
君の日記には何て書いてある

(2019年制作)