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お誕生日

どうも西尾です。

今日の大阪の天気は晴・最高気温26℃の予報で、昨日と打って変わり暑くなりそうです。

昨日は朝からジャジャ降りの雨が降っていたので昼間でも肌寒く、ジャケットや薄手の上着を持ち歩くべきでした。

今日は気温も上がるので半袖でも良さそうですね。


お誕生日

私はお婆ちゃんっ子だった。

今でもお婆ちゃんっ子でお婆ちゃんが大好きだ。

小さい時はよく祖父母の家に遊びに行った。

小学生の夏休みは2ヶ月近くあるので、その夏休みの半分程を祖父母の家で暮らしたこともある。

親は仕事もあり、他の兄弟は中学の部活動などがあり行けない。

私一人だけが先に行ったりしていた。

ちょうど8月は私の誕生日でもあった。

いつもお婆ちゃんに誕生日プレゼントを買って貰った。

お婆ちゃんの側にいると、楽しくて、癒しがあり、落ち着くのである。

私の大好きなお婆ちゃん。

ある年の夏休み、いつものように祖父母の家に遊びに行っていた。

その時も私一人だけ先に行っていた。

8月と言えば台風シーズンでちょうど台風が直撃した時もあった。

その時は幼心にも恐怖心を覚えた。

夜中、一人布団に入り寝ていた。

当時、小学生の高学年では無かったけれど、もう小学生だから眠るのも一人布団でだ。

お婆ちゃんは別室でベットで眠る。

台風で外は雨風が強い。

窓ガラスがガタガタと揺れる。

誰かが窓ガラスを叩いているのでは無いかと思った。

庭木も風で大きく揺れる。

それが窓ガラスのカーテンから透けて見えるので、まるで人影のように見えた。

ビュービューと風の音も鳴る。

雨粒がパチパチと窓ガラスに当たる。

眠ろうにも眠れない。

布団で頭まで包まり、眠ろうと必死に瞼を閉じるも全くもって眠れない。

私はもう小学生であった。

一人で祖父母の家まで来ることだって出来る。

自分はそこらへんの小学生とは違う。

自分はもう一人で何でも行動できる、一人の男だ。

当時の私は自分のことをそのように思っていた。

今思い返すと、ただ単に自分に酔っていただけのこと。

しかし、あの日の夜はどうしようも無かった。

自分のことを誇らしく思っていたのに、恥ずかしながら恐怖心というのが込み上げてきた。

得体の知れない何者かが私を狙っている。

窓ガラスを叩いている。

人影が見える。

でも足音は聞こえない、聞こえるのは風の音、雨粒が当たる音。

人なのか、人では無いのか、それすらも分からない。

一瞬の恐怖というものでは無く、私の心に徐々に染み渡る恐怖。

ナプキンに溢れた珈琲の水滴のように、徐々に、徐々に、ゆっくりと染み渡る。

時間が経つにつれて台風の威力も大きくなり、私の恐怖心も大きくなった。

私の心は恐怖で完全に染まってしまった。

怖くて、怖くて、動こうにも動けない。

布団に包まって震えるばかり。

これはもうダメだと思った。

意を決して体を起こして、布団から飛び出しお婆ちゃんの元へ向かった。

暗い廊下を走る。

暗闇が怖かった。

恐怖という名の得体の知れない何者かに追いかけられている気分になる。

お婆ちゃんの部屋にやってきた。

部屋に入り、何も言わずにベットに入らせて貰う。

気が付いたお婆ちゃんから「どうしたの?」と聞かれたが、無言を貫いた。

お婆ちゃんの暖かみに包まれて安心したのか、そのまま眠ってしまった。

翌朝、目が覚めるとお婆ちゃんのベットに私が一人。

窓から見える外の景色は、台風が通過した後の朝日が昇った清々しい夏の朝だった。

青空に浮かぶ白くて大きな雲と驚くほど眩しい朝日。

リビングに向かうと、祖父母がテレビを見ながら珈琲を飲む。

お婆ちゃんからは「布団じゃよく眠れなかった?」と聞かれたので「うん」とだけ答えた。

怖くて我慢が出来なかった、とは言えなかった。

あの時のことは今でもお婆ちゃんには話していない。

お婆ちゃんも覚えていないかもしれない。

そして、昨日はそんなお婆ちゃんの誕生日だった。

夜、お婆ちゃんの携帯電話に電話をかけた。

珍しく直ぐに出た。

いつもは全く出ないのに。

電話に出ると先ずお婆ちゃんから喋り出す。

「元気にしてる?晩ご飯は食べたの?」

「元気よ。晩ご飯はこれから。ご飯炊くの忘れてたから、さっきお米研いでスイッチ入れたところ」

「そっか。ちゃんと食べてる?何食べるの?」

「ちゃんと食べてるよ。今晩は白米にサラダに唐揚げに即席の味噌汁にしようかなと」

「あ、ほんと。今はお肉あまり食べない方がいいよ〜」

お肉あまり食べない方がいい?

何故だ?

私の頭の中に“?”が浮かんだが、理由を聞けなかった。

次に私から誕生日のお祝いを伝えた。

「お婆ちゃん、今日お誕生日でしょ。お誕生日おめでとう」

「そうよ〜私の誕生日忘れんでね。ありがとうね〜」

私のお婆ちゃんの面白いのが、自分の誕生日をしっかりと覚えていて、ちゃんとお祝いしてくれと言うところ。

面白くもあり、可愛らしくも思う。

「また夏行けたら行くからね。無理やと正月になるかもしれないけれど」

「またおいでね〜体も大事にしてね。私もいつまでいるか分からないからね〜」

と、冗談まじりに言うお婆ちゃん。

「ありがとう!お婆ちゃんも体に気をつけて元気でね。じゃあね。バイバイ」

「は〜い、ありがとうね〜、は〜い、バイバイ〜」

「ハイ」

あ、やってしまった。

またビジネス会話のように「ハイ」で終えてしまった。

以前、親にも注意されたことがある。

何か他人行儀やなと。

お婆ちゃんにも申し訳ないことをしてしまったと思いながらも、お誕生日のお祝いを伝えることは出来たので良しとするように自分に言い聞かせた。

お婆ちゃんの生まれは1945年、昭和20年。

戦後の焼け野原から目紛しい経済成長の時代を生きてきた。

私より半世紀以上も長く生きている。

私の知らないことを多く知っているし、多く経験してきている。

私ももっと色々なことを知りたいし、教えて欲しい。

また色々とお話したい。

いつまで元気でいて欲しい。

大好きなお婆ちゃん。

お誕生日おめでとう。




以上になります。

お読みいただきありがとうございました。




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