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虹乃ノラン
2024年5月10日 20:44
第一章動かない猫「いってきまーす!」 スニーカーを履いて玄関から飛び出すと、四月の風が頬をなでる。通いなれた道を歩いて今年で六年目。満開まであと少しの桜と日差しが、気持ちいい。 急にぽかぽかしてきた陽気のせいなのか、ベンチで眠りこけてるお年寄りや、バスが来てるのにぼーっと立ち尽くしているスーツ服のお姉さんなんかで目白押しだ。 大人になると忙しすぎて、みんな疲れちゃうのかな。 そんなこと
2024年5月11日 11:13
第二章 ライオン公園のタイムカプセル ミチルが気づいたのは、十分ほど経ってからだった。春の陽気の心地好さに、マルコとジョージが芝生に寝そべっていびきをかき始めたときだ。 ミチルがびっくりして振り返る。「邪魔してごめんね、ミチル。じつは、紅葉にライオン公園に集まるように言われたんだ。たぶん来週の調理実習のことだと思うんだけど……」 ミチルは、芝生の上のふたりを見ると優しく笑った。「ごめんね
2024年5月13日 15:10
第四章黒野時計堂 白髪頭で、伸びっぱなしの無精ひげ。ニッコリと笑うしわくちゃの顔は優しそうだ。「ここはどこですか? 僕たち猫を追いかけてたら、いつの間にかここに来てしまって」「立ち話は、老人の私には堪えるよ。中でゆっくり話をしよう。さあ、みんな入って」 お爺さんはニコニコ顔でそう言うと、白猫をつれてお店の中へと入っていった。「ちょっと! あのお爺さん、絶対普通じゃないわよ⁉ あたしは行
2024年5月14日 02:25
第五章短針マシュマロと消えた写真 魚海町に住むマルコと別れ、今日の出来事について話しながら歩く。「ところでミチル、お爺さんがマシュマロを使って、あたしたちを時計堂に案内させたってどうしてわかったの?」 紅葉が聞く。僕もそこは気になっていた。「町の人たちにはマシュマロの姿が見えてないみたいだって紅葉言ってたでしょ? それに〝五人の写真〟。きっとマシュマロは、わたしたち以外には本当に見えてな
2024年5月15日 21:54
スカーフェイスを追って(2)《乙女町》 乙女町は住宅地で、紅葉とミチルの家もある。ただっ広いライオン公園よりは探しやすい気はするけれど立ち並ぶ建物のせいで死角が多く、見通しは悪い。 なにしろ相手は猫。隠れるのなんてお手のもの。ひょいひょいと塀に登ったり、建物の間や民家の庭先を通り抜けたりされれば、追いかけるのは困難だ。「まだ近くにいるかもしれないから、見落とさないようにね」 マシュマ
2024年5月18日 13:10
第八章作戦開始! サイレンを挟み撃て!(1) ペダルを漕ぐ僕の足取りは、自分でも驚くほど力強いものだった。通信で聞いたみんなの声が僕を後押しする。だけど結局、途中の道では猫一匹すら見つけられなかった。 コスモ小に着いたのは十時三〇分を過ぎたあたり。途中ずっとスカーフェイスを警戒していたせいか、かなり時間がかかってしまった。なんの進展もないまま自転車を止めて息を整えると、コスモ小に到着したこ
2024年5月26日 20:13
第十章不法の器の代償 カラス神社に着いたのは、それから十分ほど経ってからだった。窮屈そうに虫網に押し込められたスカーフェイスは、まだ意識を取り戻していない。「マルコ! ミチル! おまたせ! 本当におつかれさま!」「おまえらマジでクレイジーにすごいぜ!」 自転車を止めて二人に駆け寄ると、マルコとミチルは照れくさそうに顔を見合わせた。「みんな、気をつけてね。クロの意識が戻ったら、目を見ない
2024年5月26日 20:17
第十二章五人の写真「さて、じゃああんたたち、一体どんな料理が作れるの?」 紅葉がみんなの顔を眺め回す。ジョージはサラダ中心のヘルシーメニュー。僕は和え物中心のお年寄り受けメニュー。紅葉はおかずの概念を無視したご飯物オンリーのセット。マルコにいたっては、食べたい料理の名前をあげているだけ。「いやぁ……ハッハッハ。予想はしてたけど、このDグループは絶望的だな⁉ いっそピザでも注文しようぜ」